① 事実
Googleは9月2日、Gemini 3.8 Flashを公開しました
同じ日に2つ出ています。Gemini 3.8 Flashと、Gemini 3.8 Flash Cyber。Googleの説明では、どちらも同じ土台のモデルです。
価格は100万トークン(AIが文章を扱う単位。料金はこれで数えます)あたり入力0.75ドル、出力3.75ドル。
ただし、この値段には期限が付いています。 発表文の脚注に、こう書かれています。
「導入価格は2026年12月31日で終了します。2027年1月1日からは、100万トークンあたり入力1.50ドル、出力7.50ドルが適用されます」
タグ=モデル, 料金
前のバージョンである3.7 Flashは、8月13日の公開でした。20日後に、次が出たことになります。 発表文は「6週間でFlashの3回目のリリース」と書いています。
3.7 Flashは消えません。Googleは「効率を優先する用途では、引き続き完全にサポートされる」としています。ただし3.7 Flashの価格も同じ導入価格で、期限も同じ年末です。
同じ日に出たClaude Fable 5.1は、入力が13倍でした
昨日の本紙(Vol.42)で扱ったClaude Fable 5.1は、Anthropicが同じ9月2日に公開したものです。顧客から受けてきた指摘を、価格・データ保持・安全装置の3つ並べて冒頭に置いた発表でした。
その価格は、100万トークンあたり入力10ドル、出力50ドル。Gemini 3.8 Flashの13.3倍です。 出力も同じく13.3倍。
Anthropicが下げたのはキャッシュ読み取り(一度処理して保存してある入力を、もう一度読むこと)だけで、100万トークンあたり0.25ドル。基本料金は据え置きでした。
重なるベンチマークが、1つもありません
2社とも、性能の根拠として評価の名前を挙げています。その名前が、1つも重なっていません。
- Google=DeepSWE v1.1、Vals Finance Agent V2、Harvey's Legal Agent Benchmark、HLE-Verified、CyberGym、CWE-Bench
- Anthropic=Terminal-Bench 4.0、OSWorld 2.0、AutomationBench、GDPval-AA v2
同じ日に出た2つのモデルが、違う物差しで「最良」と言っています。 点数を並べても、比べられません。
Alphabetの売上の68%は、広告です
Alphabetが7月23日に米国証券取引委員会へ提出した四半期報告書(10-Q)によると、2026年4〜6月の総売上は1,198億ドル。
- Google広告=816億ドル(総売上の68%)
- Google Cloud=248億ドル
- Googleのサブスクリプション・端末など=129億ドル
Geminiという区分は、この表にありません。
Anthropicは非公開の会社で、決算を出していません。公表されている事業は、Claude関連のみです。
配る先が、逆を向いています
Anthropicの発表文には、こう書かれています。
「Claude Fable 5.1は本日、Amazon Web Services、Google Cloud、Microsoft Azureを含むすべてのプラットフォームで利用できます」
新しいデータ保持の仕組み(EFS)も、Amazon Bedrock、Google's Agent Platform、Microsoft Foundryに対応すると書かれています。3社のクラウドすべてです。
Gemini 3.8 Flashが使えるのは、Google Antigravity、Google AI Studio、Android Studio、Gemini Enterprise、Geminiアプリ、Google検索のAIモード、Googleスプレッドシート。すべてGoogleの製品です。
② 構造
13倍の差は、何で食っているかの差です
同じ日に出た2つのモデルで、値段が13倍違います。この差は、ベンチマークを見ても出てきません。 そもそも物差しが重なっていないので、比べる場所がありません。
差が出てくるのは、一段上です。その会社が、何で食っているか。
Alphabetは広告で68%を稼いでいます。Geminiは、その売上の区分にすら入っていません。配る先を見ると、Google検索、Googleスプレッドシート、Geminiアプリ。既存のサービスの底上げに使われています。 そこで回収するなら、モデルの単価で稼ぐ必要がありません。
Anthropicが売っているのは、AIそのものと、それを動かす環境です。そこに将来の期待まで含めて、値段が付いています。 値引き競争に入れば、その値段がそのまま下がります。基本料金を据え置き、下げたのはキャッシュ読み取りだけでした。繰り返し同じものを読む使い方の実効費用は下がりますが、値段表の数字は動いていません。
Anthropicは、1社と組んでいません
3社のクラウドすべてに乗せる、という選び方があります。
同じ日にGemini 3.8 Flashを出したGoogleのクラウドでも、Claude Fable 5.1は売られています。Google CloudのAI基盤であるVertex AIでは、両方が同じメニューに並んでいます。競合の店先に、自社の商品が置いてある形です。
ただし当社が触った限りでは、Vertex AI経由でAnthropicのモデルを使うには申請が要り、そこまで簡単ではありません。並んではいますが、同じ手軽さではありません。
新しいデータ保持の仕組みは、100社以上の顧客と、この3社との協力で開発したと書かれています。対応するのも、Amazon Bedrock、Google's Agent Platform、Microsoft Foundry。作るときも、載せるときも、3社に分けています。
Googleは逆です。Gemini 3.8 Flashを、MicrosoftにもAWSにも卸していません。 自前の基盤があるので、外に出す理由がありません。
この形は、金の入れ方にも出ています。
Amazonが7月31日に米国証券取引委員会へ提出した四半期報告書には、AnthropicへのAmazonの投資が書かれています。転換社債(一定の条件で株式に換えられる社債)として出し、2025年と2026年の1〜3月に、無議決権の優先株へ転換したとあります。無議決権とは、株主総会での議決権が無い株のことです。
その株の評価額は、2026年4〜6月の3か月で505億ドル上がりました(上半期では628億ドル)。Amazonの同じ四半期の営業外収益534億ドルの、ほとんどがこれです。
巨額を入れさせて、議決権は渡していません。 クラウドを買う先も、1社に寄せていません。どこか1社に深く入れば、そこの都合で値段も配り方も決まります。分けておけば、決まりません。
安全装置の配り方だけが、2社で同じ形です
Googleは3.8 Flashと3.8 Flash Cyberを出しました。同じ土台のモデルで、Cyberのほうは安全装置を緩めてあり、Fairwind Programという審査を通った相手にだけ配られます。 対象は政府機関、重要インフラの運用者、ソフトウェアの保守者。
Anthropicも同じ日に、Claude Mythos 5.1を出しています。Fable 5.1と同一のモデルで、違うのは安全装置の水準だけ。 審査を通った組織と個人にだけ配られます。
価格でも配り方でも逆を向いている2社が、ここだけ同じ形になりました。
③ 自分事
値引きを断れるのは、遠くが見えているときです
Anthropicは、13倍の値段を付けたまま出しました。基本料金を下げていません。1社のクラウドに深く入って安定を取ることもしていません。どちらも、目先だけを見たら不利な選択です。
それができるのは、その先に何を作るかが決まっているからだと読めます。 決まっていなければ、目の前の受注のために値を下げます。大口の1社に囲われて、そこの都合で値段を決められます。
最大の取引先は、売上の何割ですか
Anthropicが3社のクラウドすべてに乗せているのは、1社の都合で自社の値段が決まる状態を、先に避けているからです。
同じ問いが、読者の会社にもあります。いちばん大きい取引先は、売上の何割か。 その相手から値引きを求められたとき、断れるか。
断れないとすれば、それは値段の問題ではありません。 依存の割合の問題です。
0.75ドルは、12月31日までです
Gemini 3.8 Flashの安さには、期限が付いています。2027年1月1日から2倍になると、発表文の脚注に書いてあります。
前のバージョンの3.7 Flashに留まっても、同じです。あちらも同じ導入価格で、期限も年末。古い版を残すことと、安いままでいることは、別の話でした。
Gemini 3.8 Flashは、期限を脚注に書いていました。書いていないほうが多いです。
いま使っているAIの料金が、いつまでの料金なのか。探して見つからなければ、それも分かったことになります。 いつ上がるか決まっていない値段で、来年の予算を立てていることになるからです。
今月のモデル
新しいAIが出るたびに、ゲームを作らせたとか、ベンチマークばかりが並びます。ですが、その点数と、自社の仕事で使えるかどうかは、別です。
本文で扱ったGemini 3.8 Flashを、CoBANTO3-AIに追加しました。 いまは疎通の確認(つないで、応答が返るかを見ること)までで、これからじっくり使います。感想は次号に書きます。
皆さんも使ってみて、感想を教えてください。 下のQ&Aコーナーから、お送りいただけます。
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今号の話:〈第二部 第33章「信頼の作り方」〉
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小説を書いている理由
この小説は、もともと、社内の教育のために書き始めました。うちの会社——東京ネット工務店で、新しく入った人間に、この仕事の考え方を伝えるための、いわば教材でした。戦略の階層とか、取捨選択とか、口で言っても、なかなか伝わりません。だったら、物語にして読んでもらったほうが早い。そう思って、書き始めました。
ところが、いろいろあって、その教材が、要らなくなってしまいました。理由は、いろいろあります。ここには、書ききれません。ただ、宙に浮いてしまった原稿を、捨てるのも惜しくて、何度も書き直しながら、今度は、教材ではなく、ただ読んで面白い、お仕事小説として、作り直していきました。
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