調査会社のGartnerは9月30日付で、提供元の技術者が顧客の社内に入って作ったエージェント型AI(人が逐一指示しなくても、自分で手順を判断して動くAI)について、2028年までに企業の70%が手放すと予測しました。理由は、費用が膨らみ続けることと、提供元の手を離れたあと、自社だけでは進化させられないことです。同じGartnerは、企業がAIに使うお金が今年2.7兆ドルに達するとも予測しています。
① 事実
Gartnerの予測の対象は、FDEと呼ばれる形で作られたAIです。AIの会社やシステム会社が、自社の技術者を顧客の社内に送り込み、顧客専用のエージェントを作ります。Gartnerは、この形がどこでつまずくかと、つまずかないための進め方を合わせて公表しました。同じ時期に出たAI支出の予測には、企業のお金の向かう先の変化も書かれています。
Gartnerは、FDEで作ったエージェント型AIの70%が、2028年までに手放されると予測しました
FDE(フォワード・デプロイド・エンジニアリング)は、提供元の技術者が顧客と直接組んで、顧客のための仕組みを作り、動かすところまで受け持つ形です。本紙はVol.46で、OpenAIが19社と組み、FDEを置く導入専門の会社を作ったことを書きました。
Gartnerは、提供元のFDEで作られたエージェント型AIについて、2028年までに企業の70%が手放すと予測しています。発表文は、企業が「膨らみ続ける費用に捕まり、自社では進化させられなくなる」と書いています。
担当アナリストのMukul Saha氏は、米国の業界メディアChannel Diveの取材に、いま活動しているFDEは約2,000人で、需要はその4倍ほどある、と話しています。
Gartnerは、FDEの仕事が提供元の製品に取り込まれるのは20%未満と見ています
Saha氏によると、多くの提供元が「forward deployed」という言葉を、導入支援やコンサルティングの呼び名として使っています。中には、それに見合う体制を持たないまま、割高な料金を取るところもある、としています。
Gartnerは、2028年までの間、顧客から繰り返し出る要望を、提供元の標準製品の機能に取り込めるFDEの仕事は20%未満にとどまると予測しています。残りは、その顧客のためだけの仕組みとして残ります。通常のコンサルティングをFDEと呼んで売る「FDEウォッシング」が広がる危険がある、とも書いています。
Gartnerは、成功の物差しを、企業が自分で管理して育てられるかどうかに置いています
Gartnerは、FDEは技術でつまずく前に、組み方でつまずく、と書いています。そのうえで、三つの段階を勧めています。
契約の前には、成果に責任を持つ経営側の担当者を決め、成果物、知識の引き継ぎ、知的財産、移行と撤退の責任を契約に入れます。期間中は、FDEを社内の業務の担当者、技術者、実際に使う人と一緒に組ませ、知識が社内に残るようにします。最後は、社内の準備ができていないからと契約を延ばさず、始めに決めた出口を実行します。
Saha氏によると、成功を測るのは、導入が終わったかどうかより、企業がその仕組みを自分で管理し、最適化し、広げていけるかどうかです。業務の進め方や優先順位が変わったときに、人とAIの判断の分け方まで直していけるかどうかも含みます。
企業のAI支出は、変革の丸ごとの委託から、手元のソフトのAI機能へ寄っています
Gartnerは9月17日、2026年の世界のAI支出が前年比49.5%増の2.7兆ドルになると予測しました。
担当のJohn-David Lovelock氏は、企業が業務の変革全体を外部の会社に頼むことは減り、すでに使っているソフトに付いたAI機能を活かす小さな案件を頼むことが増えている、と述べています。特定の提供元への依存、データの置き場所、費用の暴走といった危険は、こうした機能を買うことを止める理由になっていない、とも述べています。
出典:
- Gartner「Gartner Predicts 70% of Enterprises Will Abandon Agentic AI Built by Vendor Forward-Deployed Engineering by 2028」(2026年9月30日) https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2026-09-29-gartner-predicts-70-percent-of-enterprises-will-abandon-agentic-ai-built-by-vendor-forward-deployed-engineering-by-2028
- Gartner「Gartner Forecasts Worldwide AI Spending to Grow 49.5% in 2026」(2026年9月17日) https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2026-09-16-gartner-forecasts-worldwide-ai-spending-to-grow-49-point-5-percent-in-2026
- Channel Dive「Are forward deployed engineers flirting with failure?」(2026年9月30日) https://www.channeldive.com/news/can-forward-deployed-engineers-fdes-fix-ai-gartner/831816/
② 構造
Gartnerが挙げた二つの理由のうち、費用は分かりやすい理由です。もう一つの「自社では進化させられない」は、作り方の問題です。外から来た技術者が、その会社の仕事のやり方に合わせて作り込むと、仕組みはその時点の仕事の形を写したものになります。日本の会社は、この形を基幹システムで一度通っています。
作った人が帰ると、仕組みを育てる人がいなくなります
FDEで作ったエージェントは、その顧客のためだけの仕組みです。Gartnerの見立てでは、8割以上が提供元の標準製品には取り込まれません。提供元が製品として直し続けてくれるのは、標準製品に入った部分だけです。
顧客のためだけに作った部分は、作った技術者の頭の中に、なぜそう作ったかが残ります。技術者が帰れば、仕組みは動いていても、直せる人がいなくなります。Gartnerが知識の引き継ぎと出口を契約の前に決めるよう勧めているのは、この点だと読めます。
日本の会社は、同じ形を基幹システムで通っています
本紙はVol.12で、日本の会社が基幹システムを自社の業務に合わせて独自に作り込んできたことを書きました。問題は作ったことより、作り直せなくなったことでした。作った当時の業務のやり方がそのままプログラムとして固定され、業務が変わってもシステムは変わらず、やがて業務のほうがシステムに合わせて曲がっていきました。
エージェントは、基幹システムより軽く作れます。それでも、作った時点の仕事のやり方を写し、作った人が帰れば直せなくなる点は同じです。同じ形を、エージェントでもう一度通っていると読めます。
小さく付けたAIは、いまの仕事のやり方の上に載っています
Lovelock氏が書いた、企業のお金の向かう先の変化も、同じ方向を指しています。業務の変革を丸ごと頼むより、すでに使っているソフトにAIの機能を足す。こうした使い方は、いまの仕事のやり方をそのままにして、その上にAIを載せる形です。始めやすく、費用も見えやすい一方で、仕事のやり方そのものは変わりません。