CoBANTO3-AI

創刊準備号 Vol.54 / 「AIで人を減らす」と発表した米国企業、5カ月連続の首位から8月は4位へ——集計元は「AIと書けば投資家に受ける」と書いています

今年、辞めた人や役割が変わった人の理由を一語で書くとしたら、何と書きますか。

2026年09月14日 一般公開

米国で人員削減の理由に「AI」と書いた発表が、5カ月連続で最多でした。8月は4位に下がりました。集計している会社は、7月の時点で「言い方が変わる」と書いています。

① 事実

Challengerは、米国企業の発表から人員削減の理由を分類しています

Challenger, Gray & Christmas(米国の再就職支援会社。1993年から、米国内で発表された人員削減計画を月次で集計している)が2026年9月3日、8月分のレポートを公表しました。

集めているのは、企業が公表した削減の計画です。会社が発表の中で挙げた理由を、Challengerが分類します。 AIは2023年から独立した理由として数えています。発表に理由が無いものは「理由の記載なし」に入ります。

8月の削減は52,881件で、2022年以来いちばん少ない8月でした

8月に米国企業が発表した人員削減は52,881件です。7月の33,429件から58%増え、前年8月の85,979件から38%減りました。

1月から8月の累計は529,914件で、前年同期の892,362件から41%減っています。前年は連邦政府の人員削減が大きく、政府部門を除くと15%減です。

採用計画は8月に12,325件、年初来で119,825件です。前年同期から37%増えました。Andy Challenger(同社の最高収益責任者)は、採用の計画は増えたが「その職が早く埋まっているようには見えない」と書いています。

8月の理由の首位は事業再編で、AIは4位です

8月の削減理由の上位です。

  • 事業再編:16,173件(31%)
  • 市場・経済状況:15,260件
  • 閉鎖:6,743件
  • AI:3,462件

AIの3,462件は、2025年12月の142件以来の少なさです。事業再編の16,173件は、1月の20,044件に次ぐ今年2番目の多さです。

理由の表には、8月に「牛不足」が2,500件で載っています。Tyson(米国の食肉大手)が、記録的な牛の不足を理由に挙げた分です。表の行は、会社が挙げた言葉に沿って増えます。

AIを理由とする削減は、3月から7月まで5カ月連続で首位でした

各月のレポートから、AIを理由とする削減の推移を並べます。

  • 1月:全体の7%
  • 3月:首位(全体の25%)
  • 4月:26%
  • 5月:38,579件(40%)。2023年に集計を始めてから最多
  • 6月:約14,000件(5月と7月の累計からの差し引き)
  • 7月:10,970件(33%)
  • 8月:3,462件(4位)

年初来では<strong>116,175件・約22%</strong>で、8月が終わった時点でも首位です。2025年の1年間でAIを理由とした削減は54,836件でした。今年は5月の時点で、それを超えています。

業種では、テクノロジーが年初来155,126件で全体の29%です。医療でAIを理由とした削減は、集計開始以来1件(2025年10月、カリフォルニア州の遠隔医療の会社、39人)です。

「新技術(AIの可能性あり)」の分類は、2025年の20,219件から2026年は12件になりました

Challengerの表には「Technological Update (possibly AI)」という行があります。会社が新技術を主因と言い、AIをほのめかしているが、直接は結びつけていない発表です。

2025年は20,219件、2026年は8月までで12件です。

7月レポートに、その12件の中身があります。ニューヨークの病院Montefioreが、Datavant(医療データを扱う米国のソフト会社)のソフトを導入して看護職12人を削減しました。看護師の組合は「AIのソフトで人を置き換えた」と発表し、病院側は地元メディアに「誤解を招く」と答えました。Datavantは自社サイトでAIの機能を掲げています。病院がどの製品を使ったかを明らかにしていないので、Challengerはこの12人を「AIの可能性あり」に入れました。

集計元は7月に「AIを名指しすると投資家には受け、従業員は離れる」と書いています

7月レポートのAndy Challengerの発言です。

人員削減の発表でAIを名指しすると、投資家には受け、現在と将来の従業員は離れていく。だから発信は、ぼかす形から、積極的に名指しする形へ振れた。

規制が形になり始めれば、企業は発表にもっと慎重になる。そうなると、AIが雇用に与える影響の追跡は、不透明になる。

8月レポートは、AIが4位に下がった理由を書いていません。

出典:

② 構造

Challengerの表は、1件の発表に理由を1つ入れています

ここまで、米国の人員削減の集計で、理由の首位が5カ月ぶりに「AI」から「事業再編」に替わった話を見てきました。整理します。

Challengerの表は、会社が発表に書いた理由を分類したものです。AIで減った人数を数えたものとは、別のものです。1件の発表に、理由は1つ入ります。表に載るのは、会社が名指しした一語です。

一つの削減に、要因は複数あります。事業を再編し、その中でAIに移す仕事を決め、人を減らす。この一件を「事業再編」と書くか「AI」と書くかは、発表を書く側が決めます。表の「牛不足」も「AIの可能性あり」も、会社の言葉に沿ってできた行です。

8月レポートは、AIが4位に下がった理由を書いていません

5カ月首位から4位へ。読み方は二つあります。AIを理由とする削減そのものが減ったか、AIと名指しする発表が減ったか。8月レポートは、どちらとも書いていません。

7月レポートは、後者を予告しています。「規制が形になり始めれば、企業は発表にもっと慎重になる」。

「AIの可能性あり」の数字も、書き方が動くことを示しています。2025年は20,219件、2026年は12件です。ぼかす発表が名指しする発表に置き換わった、と読めます。 その振れ幅の頂点が5月の40%で、8月の4位はその反対側にあると推測できます。どちらが実態に近いかは、もう少し先まで見ないと分かりません。

Challengerは、発表の聞き手を「投資家」と名指ししました

本紙はVol.33で、米国企業の決算説明会で「AIで生産性が上がる」と語る発言の95%が将来形で、実測の生産性は1年で0.07%だった話を書きました。Vol.32では、5人に1人が肩書きにAIを書き加えていた話を書きました。

人員削減の理由も、同じ列に並びます。決算説明会の発言も、肩書きも、削減の理由も、聞き手がいる場所で選ばれる言葉です。 Challengerは、その聞き手を「投資家」と名指ししました。

本紙はVol.02で「大企業はAIで人を切り、中小は逆」と書きました。その大企業側の「AIで切る」が投資家に向けた言葉である可能性を、集計元が書いています。

③ 自分事

当社では、社員を維持するための仕事が、AIシフトで消えました

読者の会社に当てる前に、当社の実態を書きます。

当社は、代表の海老沢(私)が設計と開発をしている会社です。2年以上、段階を踏んでAIシフトを進めてきました。顧客との契約形態を変え(本紙Vol.51。受託開発の個別契約をやめ、利用規約に基づくサービスにしました)、AIが担う仕事と人が担う仕事を分けました。痛みを伴う改革で、相当に悩みました。それでも、AIシフト後の生き残りを懸けて進め、いまに至ります。世界に型がなく、事例もない試みなので、幅広く読書とリサーチをして、仮説を立てて検証しました。

その結果、私が作った簡単な開発タスクを捌く社員は行き場を失いました。この部分は、AIに置き換わっています。「私が簡単なタスクを切り出す」「社員ができそうな仕事の形で受注する」という、社員を維持するための仕事が、消滅しました。

事業再編のために、業績改善計画(PIP=改善する項目と期限を決めて本人と合意する手続き)を行うことを決めました。目的は改善でした。1年ほどかけて、社員にビジョンを段階的に説明し、AIの研修を行い、物語で伝える研修のためにライトノベルを書きました(号末で紹介している小説です)。最後にPIPを完成させ、実施しました。結果として、二人とも辞めました。

当社の一件をChallengerの表に入れるなら、事業再編です

当社は、事業再編の真っ只中にありました。この一件を表に入れるなら「事業再編」です。AIは要因の一つで、直接の理由は役割の変更です。「AI」と書く選択もありました。一つの削減に要因が複数あるとき、どの一語で書くかは、会社が決めます。 米国企業の発表で起きているのは、この選択です。

8月の米国企業の発表で、事業再編は16,173件でした。その中に、当社と同じ形——AIへ移行した結果、ある役割が消えた——がどれだけ入っているかは、この集計からは分かりません。AIが3,462件に下がり、事業再編が16,173件に上がった間で何が動いたかも、同じです。

読者の会社で、削減の理由を聞くのは社員と取引先です

中小企業に投資家はいません。人員削減の理由を聞くのは、残る社員と取引先です。「AIを入れるから」と聞いて、削減が先にあると受け取る社員もいます。当社で消えたのは、社員の仕事を作る側の仕事でした。それを「AI」と一語で言えば、社員には別の形で伝わります。

「AIで人を減らした」という他社の話は、発表に書かれた一語から来ています

取引先や同業から「あの会社はAIで人を減らした」という話が来ることがあります。その話の元は、投資家に向けて選ばれた一語かもしれません。 8月の3,462件を見るか、年初来の116,175件を見るかで、AIが人を減らしているかどうかの印象は変わります。集計元は、どちらも同じ表に載せています。

明日できること

決裁は要りません。

⑴ 今年辞めた人や役割が変わった人の理由を、一語で書いてみてください。当社は「事業再編」でした。要因が複数あって一語に落ちないなら、米国企業の発表と同じ場所に立っています。

⑵ 社内で「AIを入れる」と言ったとき、社員がどう受け取ったかを訊いてください。削減が先にあると受け取った人がいるかどうかは、訊かないと分かりません。

⑶ 「AIで人を減らした」という他社の話を聞いたら、その会社の発表文で理由が何と書かれているかを確かめてください。発表文に書かれていなければ、そこまでしか分かりません。


短信

米国の労働者の43.0%がAIを仕事で使い、欧州との差が生産性の差に対応——セントルイス連銀(2026年3月公表、8月に同連銀ブログで再紹介)

セントルイス連銀の研究者ら(Alexander Bick、Adam Blandin、David Deming、Nicola Fuchs-Schündeln、Jonas Jessen)が「Mind the Gap: AI Adoption in Europe and the U.S.」を公表しました。米国と欧州6カ国(英・独・仏・伊・スウェーデン・オランダ)の労働者に2025年5〜6月と2026年1〜2月に訊いた調査と、欧州32カ国の企業調査に基づいています。

2026年1〜2月に仕事でAIを使っていると答えた労働者は、米国で43.0%、英国で36.3%、イタリアで25.6%です。米国では総労働時間の5.2%がAIの利用に充てられています。

産業ごとに見ると、労働者のAI利用率が10パーセントポイント高い産業は、累積の労働生産性の伸びが2.9パーセントポイント多いという関係がありました。米欧の利用率の差から換算すると、2022年以降で米国は欧州より3.2パーセントポイント多く生産性が伸びたことになります。

論文は、この関係を「因果ではない」と書いています。もともと生産性が伸びていた産業で、AIの利用が高い可能性があります。

出典:https://www.stlouisfed.org/on-the-economy/2026/mar/mind-gap-ai-adoption-europe-us


今月のモデル

今号は、新ネタ無しです。


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ライトノベル「ようこそ、東京ネット工務店へ」

海老沢が執筆している、IT業界のお仕事小説です。毎号1話ずつご紹介します。

〈第2.5部 第3章「鏡」〉

神崎リナが作った接客AIを、久我が却下します。「状態遷移図がない。再現性がない。たまたまそれっぽく動いているだけだ」。

https://www.netkomuten.tokyo/channels/novel-tnk-part2-5/articles/ch03

小説を書いている理由

この小説は、もともと、社内の教育のために書き始めました。うちの会社——東京ネット工務店で、新しく入った人間に、この仕事の考え方を伝えるための、いわば教材でした。戦略の階層とか、取捨選択とか、口で言っても、なかなか伝わりません。だったら、物語にして読んでもらったほうが早い。そう思って、書き始めました。

ところが、いろいろあって、その教材が、要らなくなってしまいました。理由は、いろいろあります。ここには、書ききれません。ただ、宙に浮いてしまった原稿を、捨てるのも惜しくて、何度も書き直しながら、今度は、教材ではなく、ただ読んで面白い、お仕事小説として、作り直していきました。

https://www.netkomuten.tokyo/channels/atogaki/articles/atogaki-1


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