2026年8月17日/株式会社東京ネット工務店 海老沢敦
① 事実
稼ぐより、多く使っている
AIの設備を大規模に持つ5社——Microsoft、Amazon、Alphabet、Meta、Oracle。
⚠️ この5社は、私たちが使っているAIを作っている会社とは、必ずしも一致しません。 MicrosoftはOpenAIに出資し、AmazonはAnthropicに出資しています。作る側と、その計算機を持つ側は、別の会社です。 その関係は後で書きます。
この5社の設備投資と、本業で稼ぐ現金を並べた分析があります。出所は、各社が米国の証券当局に提出している四半期・年次の報告書です。
- 2025年7〜9月期——本業で稼いだ現金 1,671億ドル/設備投資 1,058億ドル
- 2027年7〜9月期(見通し)——本業で稼ぐ現金 2,307億ドル/設備投資 3,155億ドル
二年で、逆転します。
伸び方が違うためです。本業で稼ぐ現金は年率およそ23%。設備投資は年率およそ70%。
分析は、5社を合計したフリーキャッシュフロー(本業で稼いだ現金から設備投資を引いた、手元に残る現金)が、2026年7〜9月期ごろにゼロへ達すると見ています。
5社は、同じ場所にいない
ゼロに達する時期は、会社ごとに違います。
| 会社 | 手元に残る現金がゼロになる時期 |
|---|---|
| Oracle | すでに超えている |
| Amazon | いま、その前後 |
| Alphabet | 2027年1〜3月期ごろ |
| Meta | 2027年7〜9月期ごろ |
| Microsoft | 2028年7〜9月期ごろ |
同じ「AIの大手」で、足元の余力に3年の開きがあります。
では、足りない分をどうするか。分析はこう書いています——手元の資産を取り崩す、借りる、新株を発行して資金を集める。 そして複数の社が、すでに外部からの資金調達を実施したか、検討しているとしています。
電気のほうは、もっと動きが遅い
国際エネルギー機関(IEA)の分析です。
- <strong>2024年、データセンターが使った電力は 415TWh</strong>(テラワット時=電力量の単位)。<strong>世界の電力消費の約1.5%</strong>にあたります。
- 2030年には約945TWhへ、倍以上になる見通し。
- 2024年時点で、世界のデータセンターの電力消費の45%が米国です。
- 2030年までの世界の電力需要の増加分のうち、約10分の1がデータセンター。 先進国に限れば、増加分の20%超です。
ここまでは、需要の話です。IEAはもう一つ、供給の側を書いています。
計画されているデータセンターのうち、およそ20%が遅延の危機にある。
理由は、電力系統への接続(発電所から需要地まで電気を届ける送電網に、新しい施設をつなぐこと)です。そして——
先進国では、新しい送電線を建設するのに4年から8年かかる。
作る側は、持つ側の設備を、買い戻している
出資の関係が、片方向ではありません。
Anthropicの公式発表(2026年4月)です。
Amazonは今回50億ドルを投資し、将来さらに最大200億ドルを追加する。これまでに投資した80億ドルに積み上がる。
Anthropicは今後10年で、1,000億ドル超をAWSの技術にコミットする。
出資が最大330億ドル。買い戻しが1,000億ドル超です。
同じ形が、もう一組あります。Microsoftは2025年11月にAnthropicへ50億ドルを出資し、Anthropicは300億ドル分のAzureを購入する約束をしています(この一組は二次情報です。一次に当たれていません)。MicrosoftはOpenAIに130億ドル超を出資し、約27%を保有しています。
設備を持つ会社が、モデルを作る会社に出資する。モデルを作る会社が、その設備を買う。
出典(一次):
- Epoch AI「Hyperscaler capex vs cash flow」(出所=SEC EDGAR の 10-Q および 10-K=各社が米国証券取引委員会に提出した四半期報告書・年次報告書/更新 2026年6月16日/5社名・2025年Q3と2027年Q3の数値・年率23%と70%・集計FCFが2026年Q3にゼロ・各社の時期・資金調達の記述) https://epoch.ai/data-insights/hyperscaler-capex-vs-cash-flow
- IEA「Energy and AI」Executive Summary(415TWh・1.5%・945TWh・米国45%・需要増の約10分の1・先進国20%超・計画の約20%が遅延の危機・送電線4〜8年) https://www.iea.org/reports/energy-and-ai/executive-summary
- Anthropic 公式「Anthropic and Amazon expand collaboration for up to 5 gigawatts of new compute」(2026年4月/今回50億ドル・将来最大200億ドル・既存80億ドル・10年で1,000億ドル超をAWSへ・最大5GW) https://www.anthropic.com/news/anthropic-amazon-compute
出典(二次のみ・一次に当たれていない):
- Microsoft の Anthropic への50億ドル出資(2025年11月)と、Anthropic による300億ドル分のAzure購入の約束/MicrosoftのOpenAIへの130億ドル超の出資と約27%の保有(TechCrunch 2026年7月29日)
② 構造 — 速いものが、遅いものの上に乗っている
1. 投資が先、回収が後
歴史循環で読むと、これは何度も通った道です。鉄道、電信、そしてドットコム期の光ファイバー。
新しい基盤が敷かれる局面では、投資が需要の裏付けより先に膨らみます。 先に敷かなければ商売が始まらないからです。順番が、そうなっているだけです。
ただし、そこには必ず回収の時期が来ます。そして回収は、使う側から取ります。
2. 桁が違うものが、積み重なっている
①の数字を、時間の長さで並べ直します。
| 層 | 変わるまでの時間 |
|---|---|
| モデル | 6ヶ月(一般提供のもので、終了の予告が最低6ヶ月。特化版は3ヶ月、試験提供のものは2週間程度で終わることもある) |
| 設備投資の回収 | 数年 |
| 送電線 | 4〜8年 |
上に行くほど速く、下に行くほど遅い。
速いものが、遅いものの上に乗っています。
6ヶ月で入れ替わるものを動かすために、4年から8年かかる送電線が要る。 この二つは、同じ計画表に乗りません。
IEAが「計画の20%が遅延の危機」と書いているのは、そういう意味です。 建てる場所も、機械を買う金も用意できて、電気を引く順番を待っている。
Vol.05で「買えても、そのままでは動きません」と書きました。 あれは中小企業の話でしたが、世界最大の会社でも、同じところで止まっています。
3. 「大手だから安心」が、成立しない
①の表のとおり、手元に残る現金がゼロになる時期は、5社で3年ずれています。
同じ「AIの大手」という一語で括られていますが、足元は別々です。
ここで注意すべきは、これが業績の良し悪しではないことです。5社とも本業では現金を稼いでいます。稼いだ以上に投資している、というだけです。
投資を止めれば、その瞬間に現金は残ります。 つまりこれは、続けるか、やめるかを、いつでも選べる状態でもあります。
問題は、選ぶのは向こうだということです。
4. 出資と売上が、同じ相手のあいだで回っている
①に書いた関係です。設備を持つ会社が、モデルを作る会社に出資する。モデルを作る会社が、その設備を買う。
- Amazon → Anthropic:出資、最大330億ドル
- Anthropic → AWS:10年で1,000億ドル超
出資より、買い戻しのほうが大きい。
モデル会社が払う金は、設備を持つ会社の売上に立ちます。 ①の「本業で稼ぐ現金」には、それが入っています。
では、モデル会社はその金をどこから得ているか。 出資と、外部からの資金調達と、利用者が払う料金です。
⚠️ この形そのものは、珍しくありません。 取引先に出資して、その会社から仕入れる。系列でも、下請けでも、フランチャイズでも起きています。違うのは規模です。
二重計上ではありません。 出資は資産に、売上は売上に、それぞれ正しく載ります。ただし、片方が止まると両方が止まります。
5. いま払っている料金は、原価ではない
投資している最中の値段と、回収に入ったあとの値段は、違います。
いま各社は、現金を取り崩し、借り、新株を出して、設備を建てています。その費用は、いまの料金には入っていません。 入っていたら、これほど安くなりません。
Vol.24で、材料の値段が150分の1になった話を書きました。 その安さがどこから出ているかが、①の数字です。
いま安いのは、回収前だからです。
③ 経営者の自分事
当社は、システムを作って納め、そのあとの保守を月額で受けています。
見積りも、月額の金額も、そのときの原価で計算します。
②に書いたのは、その原価が、こちらの外側で決まっているという話です。
契約は、数ヶ月から数年続きます。 その間、AIの単価は何度も変わります。
②2に書いたとおり、モデルは半年で入れ替わります。 契約のほうは、そんなに速く書き換えられません。
②で「速いものが、遅いものの上に乗っている」と書きました。 あれは供給側の話です。同じ形が、こちら側にもあります。上に乗っているのは、うちが結んだ契約です。
交渉できない変動費が、原価に入った
変動費には、これまで交渉の相手がいました。 材料も、外注費も、運賃も。規模が小さくても、話はできました。 相手にも人がいて、量や時期を持ち出せば、単価は動きました。
AIの単価には、その窓口がありません。
②に書いたとおり、値段を決めているのは供給側の投資の回収スケジュールです。こちらが使う量を増やしても、交渉の相手が出てきません。
AIだけの話ではありません。
当社の原価で、AIより高い二つ——GCPと、クレジットカードの決済手数料。どちらも定価です。
クラウドも、SaaSも、決済も、同じ形をしています。 表に単価が出ていて、申し込めば使えて、値段の話をする相手がいません。
当社の原価は、交渉できない項目で埋まってきています。
⚠️ 規模がかなり大きければ、話は変わります。 量をまとめれば、個別の条件が出てきます。そこは大企業の世界です。
Vol.02で、同じAIを入れても、大企業と中小では逆の答えが出ると書きました。 仕入れの側でも、符号が逆です。 同じ定価表を見ていて、片方は交渉ができ、片方はできません。
与信の話も、しておきます。
AIの料金は前払いです。 クレジットを先に買って、使った分が減る。貸しているのは、こちら側です。
当社は、AIの提供元の与信を見ていませんでした。
ただし、金額では終わります。 当社は500ドルのオートチャージ(残高が減ったら、その額まで自動で補充される設定)を入れています。 先に渡っているのは、その分です。実質のリスクは、その規模で止まります。
⇒ ここで見るべきものは、回収ではありませんでした。
もう一つ。当社が使っているのは、①の5社ではありません。
Vol.05・15・16・17・18に書いたとおり、当社はAnthropicのAIを使っています。①の表に、その名前はありません。
そこに、②4の関係が来ます。 Anthropicは、Amazonの設備の上で動いています。当社が払う料金は、そこへ流れていきます。
Vol.24で、素性とは、何かあったときに話をしに行く相手がいることだと書きました。その相手の足元に、別の会社の設備投資があります。
見るべき相手は、一段では終わりません。
原価の中で、AI利用料はまだ小さい
当社のシステムの原価のうち、AI利用料はいまのところ限定的です。
GCP(Googleのクラウド。サーバーなどを借りる費用)と、クレジットカードの決済手数料のほうが高い。
来年には、この順番が変わると予想しています。 AIの費用が当社のメインのコストになり、コストの半分以上まで行く。 そこまで行くのを、覚悟しています。
そうなると、値上げが厳しくなります。
AIの利用料はドル建てです。当社の売上は円です。 単価が上がるのと、円が安くなるのが、同時に来ます。
いまの構成比を見て「AIの費用は小さい」と判断すると、来年の話が落ちます。
構成比は、いまの姿です。項目ごとに伸び率が違うので、構成比は毎年書き換わります。
私は、限定的だと思っていました。 数字としては、いまも限定的です。限定的なのは、いまの姿だけです。
一つ、訂正します
Vol.18で、新しいモデルへの入れ替えを「できませんでした」と書きました。 併用になった、とも書きました。
失敗ではありません。選択です。
起きたことは、こうです。じっくり考えてから答える機能(Thinking)が、常に働く仕様のモデルが出てきました。 以前は、その機能を入れる/切るで指定できました。新しいモデルでは、その指定そのものが無くなっています。
当社は、チャットではその機能があったほうがいいと判断しました。 だからチャット用のプログラムは、機能を入れた側で通しています。
一方、分析のように、前のやりとりを引き継ぐ必要が薄い作業では、その機能が無いモデルも使えるようにしてあります。
世代によって指定できる項目が違うので、全部のモデルには対応していません。 それだけです。使い分けています。
Vol.18の書き方は、大袈裟でした。
ここから先は、私の見方です。
値上げは、来ると思っています。
①の数字を見て、来ないと考える理由が見当たりません。投資は続いていて、回収はまだ始まっていません。
ただし、「AIが値上がりする」という形で来るとは限りません。
- 安いものが、静かに終わる(Vol.18=提供元の都合で消える)
- 同じ値段のまま、使える量が減る
- 安い区分と高い区分に分かれ、実務で使えるのは高いほう
<strong>どれも、値上げです。</strong> どれも<strong>「値上げします」とは書かれません。</strong>
私が身構えているのは、そこです。
もう一つ、逆のことも書いておきます。
②に書いたとおり、投資を止めれば、その瞬間に現金は残ります。 各社は続けるかやめるかを選べる状態にいて、選ぶのは向こうです。
これは、こちらから見れば「どちらに転ぶか分からない」ということです。
Vol.05で、AIが三週間止まった話を書きました。あのとき止めたのは政府でした。 今回の話で止まるとしたら、止めるのは提供元の採算です。
理由は違いますが、こちらの現場で起きることは同じです。
明日できることを、二つ書きます。
一つ目:ドル建ての支出を、円建てと分けて並べる
AI利用料、クラウド、海外のソフト。ドルで請求が来るものを抜き出してください。
- 月の合計はいくらか
- それは売上の何%か
- 為替が10円動くと、いくら動くか
これはAIの話ではありません。 ドル建ての仕入れがある会社なら、前からやっていることです。AIの費用は、その表に1行増えただけです。
⚠️ ただし、その1行だけ、伸び方が違います。 他のドル建ての項目は、使う量が急に倍にはなりません。
二つ目:原価表を、構成比ではなく伸び率で書き直す
構成比はいまの姿です。来年の姿は、伸び率でしか出ません。
項目を、伸び方で分けてください。
- 動かないもの——家賃、リース、固定の人件費
- 売上に比例するもの——決済手数料、外注費、材料
- 使った量で動くもの——AI利用料、クラウド
三つ目だけ、量と単価の両方が動きます。
いま三つ目が原価の10%なら、来年20%になったとき、何が押し出されるか。
押し出されるのは、たいてい利益です。 他の項目は契約で決まっていて、その年のうちには動きません。
そこに、もう一本線を引けます。 その項目には、値段の話をする相手がいるか。
- いる——材料、外注、運賃、家賃
- いない——AI、クラウド、SaaS、決済手数料
いないほうが増えているなら、原価は自分の手の外にあります。 ⇒ 打つ手は、単価交渉ではなく、使う量の設計に移ります。
⇒ ここまで出すと、値上げ交渉の材料になります。 「AIが高くなったので」では通りません。「原価の構成が変わったので」なら、相手の側にも同じことが起きています。
Vol.07で、AIの料金は作り方で桁が変わると書きました。あのときは「下げられる」話でした。 同じ構造が、上げられたときにも働きます。 作り方が原価に直結している以上、単価が動けば、そのまま乗ります。
——明日、こう話してみてください。「AIの会社、稼いでる金より多く投資してるらしいよ。……ってことは、いまの値段は回収前か。うちの原価、値段の交渉ができる相手って、どれくらい残ってるんだっけ」
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