2026年8月9日/株式会社東京ネット工務店 海老沢敦
① 事実
前号の最後に、宿題を残しました。
AIに仕事を任せた結果、当社では<strong>「人に渡すための仕事」が丸ごと消えました</strong>。取ってくる、切り分ける、教える、確認する——<strong>渡す先で成立させるための作業</strong>です。
では、渡す先にいた人は、どうなったのか。
その話を書きます。まず、世の中の数字から並べます。
役割まで変えているのは、9.5%
リスキリング——学び直し、と訳されます。AIで仕事が変わるから、人に新しい技能を身につけてもらう、という話です。言葉としては、もう何年も前から流通しています。
2026年3月、日本の調査が出ました。 従業員500人以上の企業で、人事や企画に関わる400人への調査です。
そこに、こういう数字があります。
- 61.0%の企業が、「職務や役割の転換は前提にしない」と答えている
- そして、実際の役割転換を伴うリスキリングを実践しているのは、9.5%
残りの多くは、研修を用意しています。 ですが、受けた人がどこに移るのかは、決めていません。
学び直したあと、同じ席に戻る。 それが、いま多数派です。
推進の最大の障壁として挙げられたのは、予算でも時間でもありませんでした。
「指導者・メンターが不足している」——25.9%
教える人が、いない。(メンター=相談相手になり、面倒を見る役)
次いで多いのが「人材データの基盤が整っていない」(24.3%)です。お金の問題は、上位に来ていません。
なお、生成AIの影響で、育成の中身を見直す必要が出たと答えた企業が半数を超えています(カリキュラムの更新が必要37.1%/抜本的な設計の見直しが必要17.4%)。
これは従業員500人以上の企業の数字です。 人事の部署があり、研修の予算があり、担当者がいる会社で、この結果です。
やった側の、91.6%
もう一つ、海外の調査を並べます。
2026年2月、過去1年に人員削減を実施した人事担当者600人への調査です。
⚠️ 先に書いておきます。この調査を出したのは、再就職支援を事業にしている会社です。 「もっと社内で配置転換すべきだった」という結論は、その会社の商売と一致します。 そのうえで読んでください。
- 55.1%の会社で、学び直しや配置転換が、正式に検討すらされていなかった
- 51.3%の会社が、「適切な支援があれば、削減した人の4分の1までは社内で別の役割に移せた」と考えている
人員削減が意図したとおりの結果を出し、同じやり方をもう一度やる、と答えた人事担当者は 8.4%。
残りの91.6%が、「やり直せるなら、違うやり方をする」と答えています。
二つの調査は、対象が違います。 片方は日本の大企業の育成担当、もう片方は海外で人を減らした会社の人事です。足したり、並べて比べたりはできません。
それでも、同じ方向を指しています。
- 役割まで変えるところに手をつけている会社は、少数
- そして、手をつけた側も、うまくいったとは言っていない
出典:
- 【一次・2026-08-09 確認済】みらいワークス「日本企業におけるリスキリングの認識とAI影響に関する実態調査2026」
- 調査期間=2026年3月19日〜22日/対象=従業員500人以上の企業で、2022年以前から企画・人事・人材開発に携わる400人。
- 61.0%=「職務や役割の転換は前提にしない」/9.5%=政府の定義(実際の労働移動・役割転換を伴う)に沿ったリスキリングを実践。
- 最大の障壁=「指導者・メンターが不足している」25.9%/次いで「人材データ基盤が未整備」24.3%。
- 生成AIの影響=カリキュラム更新が必要37.1%/抜本的な設計見直しが必要17.4%(合計50%超)。
- ⚠️ 二次記事にあった「大企業60.7%/中小企業41.7%」は、このリリースに存在しない(別調査の混入)。使わない。
- ⚠️ 500人以上の企業の調査であり、中小企業の調査ではない。 本文でも「従業員500人以上の企業の数字」と明示している。
- https://mirai-works.co.jp/news/news14908/
- 【自社調査・2026-08-09 出所確認済】Careerminds(米・再就職支援会社)
- 2026年2月/過去12ヶ月に人員削減を実施した人事専門職600人。
- 55.1%=リスキリングと再配置が正式に議論・検討されなかった/51.3%=「適切な支援があれば削減者の最大4分の1は社内で移せた」/28.3%=「26〜50%に再配置の余地があった」。
- 8.4%=「再編は意図どおりの結果を出し、同じやり方を繰り返す」→ 91.6%が「やり直せるなら違うやり方をする」。
- ⚠️ 利害の開示が必要:再就職支援(アウトプレースメント)を売っている会社の自社調査。 「もっと再配置すべきだった」は商売と一致する。本文でも先に開示した(Vol.16で確立した型)。
- ⚠️ 報告書名がなくブログ記事のみ。質問文も非公開。 数字は限定して使う。
- https://careerminds.com/blog/cost-of-ai-layoffs
- ⚠️ 二つの調査は対象が違うので、足さない・比較しない。 本文でも「対象が違います。足したり、並べて比べたりはできません」と明示。
② 構造 — ちゃんとやることと、うまくいくことは、別
この二つの数字を並べると、ふつうはこう読めます。
多くの会社が手を抜いている。ちゃんとやれば、うまくいく。
そうは読めません。
役割まで変えているのは9.5%。 そしてやった側の91.6%が「違うやり方をする」と言っています。
手をつけた側も、うまくいったとは言っていません。
障壁が「指導者不足」である、ということ
①の数字に戻ります。最大の障壁は、指導者・メンターの不足でした。
これは、中小企業ではもっとはっきり出ます。
500人の会社なら「指導者が不足している」と言えます。人が足りない、という話になるからです。
5人の会社では、そうなりません。 教える人は、たいてい一人です。社長か、いちばん分かっている人。 そしてその人は、教える以外の仕事も全部やっています。
統計では「指導者・メンター不足」と書かれるものが、小さな会社では「一人の人間が疲れる」という形で現れます。
そして、人が疲れたことは、どこにも記録されません。
前号で「増えた仕事は『忙しい』としか言われず、集計されない」と書きました。教える負担も、同じです。 予算には出ません。工数にも出ません。出るのは、続かなくなったときだけです。
「頑張れば誰でもできる」という前提
学び直しの計画を立てるとき、私たちは一つの前提を置いています。
やり方さえ用意すれば、人は移れる。
この前提は、たいてい疑われません。 疑うと、計画が立たなくなるからです。
この前提を強く持っている人ほど、自分が移れた側です。
独学で技術を身につけた人は、「本を読めば分かる」と言います。実際、その人には分かりました。
現場で覚えた人は、「やっていれば身につく」と言います。実際、その人には身につきました。
これは、技術の話に限りません。
売れる人は、「とにかく回れば分かる」と言います。
ですがその人は、回る前から、相手の顔色が変わった瞬間に気づける人だったかもしれません。それは回って身についたのか、元から持っていたのか。 本人には、区別がつきません。
段取りのうまい人は、「何回かやれば覚える」と言います。
ですがその人は、最初から全体の絵が頭に浮かぶ人だったかもしれません。浮かばない人が同じ回数やっても、同じところには行きません。
どちらも嘘ではありません。ただ、そこには書かれていないものがあります。
本を読んで分かるためには、読んで分かるだけの土台が要ります。
やって身につくためには、やったことから学び取れる土台が要ります。
そして——その土台を持っている人には、土台の有無が見えません。
自分がいつのまにか持っていたものだからです。
「頑張ればできる」は、正確にはこうです。
土台のあるところまで来た人が、そこから頑張れば、できる。
そこまで来ていない人に同じ本を渡しても、同じことは起きません。
この前提が、いちばん危ないところ
「頑張れば誰でもいける」と信じている限り、うまくいかなかったときの説明が、一つしか残りません。
頑張りが足りなかった。
他の説明が、構造上、出てこないのです。
そして、これは優しさの顔をしています。 「誰でもできる」と言うのは、相手を信じているように聞こえます。見捨てていない、とも言えます。
ですが、裏返すとこうなります。
相手がどこにいるかを見ずに、努力の量だけを見ている。
本紙のVol.14で「梯子の一段目が、二段目の高さに付け替えられた」と書きました。新人がまず任されていた簡単な仕事をAIが引き受け、入口の求人に残ったのは、いきなり中堅並みの条件だけ、ということです。 一段目が無くなった梯子に、「頑張って登れ」と言っているとしたら、それは励ましではありません。
②の芯を、一行にします。
土台の有無は、土台を持っている人には見えない。
そして見えないまま計画を立てると、うまくいかない理由は「頑張りが足りない」しか残らない。
③ 経営者の自分事 — 私は、その9.5%の中にいました
ここからは、当社の話です。
1年ほど前から、変化が始まりました。
AIに任せるほうが、社員に任せるより、私の手間が少なくなり始めたのです。
最初は一部の作業でした。それが広がりました。そして去年の年末には、社員に渡す仕事が、ほとんど残らなくなりました。
正直に書きます。
その時点で私がやっていたのは、渡す仕事を探すことでした。