米国の公式統計に、AIの利用記録が入りました。ClaudeとMicrosoft Copilotのものです。
① 事実
米労働統計局が、831の職業をAIへの近さで4段階に分けました
米労働統計局(BLS=米国の雇用や物価を調べて公表する政府機関)が2026年8月27日、新しい分類を公表しました。831の職業を、AIへの「曝露度」で4段階に分けたものです。
曝露度(exposure)とは、その職業の仕事の中身が、AIにできることとどれだけ重なるかの度合いです。段階は下から Low・Moderate・High・Very high の4つ。2025〜35年の雇用予測を補うものとして出されました。
5つの指標のうち2つは、ClaudeとCopilotの利用データです
分類には、外部の5つの研究が使われています。
3つは理論の指標です。職業の仕事内容とAIの能力を突き合わせて点数を付けたもので、うち2つはGPT-4とGPT-3.5 Turboに判定させています。 残る1つは、人間の調査回答者に「10種類のAIの用途が、その職業に必要な能力と関係するか」を訊いたものです。
残る2つが、実際の利用データです。
Anthropicの指標は、Claude.aiの会話と、AnthropicのAPIの通信を使っています。APIは、他社のソフトウェアからプログラムで呼び出す口です。仕事に関わる利用だけを含め、AIが人の代わりに済ませる用途が、人を補助する用途より多いタスクに、高い重みを付けています。
Microsoftの指標は、Copilotの利用データを職業の作業活動に対応づけたものです。AIがその作業をどれだけ担ったか、成功率も織り込んでいます。
BLSは「仕事で使ったかは直接見ていない」と書いています
BLSは、この2つの指標についてはっきり書いています。
その職業の労働者が、仕事でAIを使ったかどうかを、直接観察しているわけではない。
見ているのは、AIとの会話がどの職業のどんな作業に当たるかです。会話の相手が何の仕事をしている人かは、分かりません。
いちばん近い区分は206職業、5,321万人でした
集計した結果です。ファイルを開いて831行を数えました。
| 区分 | 職業数 | 2025年の雇用 | 構成比 |
|---|---|---|---|
| Low | 213 | 3,027万人 | 17.8% |
| Moderate | 206 | 4,465万人 | 26.2% |
| High | 206 | 4,214万人 | 24.8% |
| Very high | 206 | 5,321万人 | 31.3% |
いちばんAIに近いとされた区分が、人数では最大です。 働いている人の3割がここに入ります。
「最高経営責任者」は、いちばん近い区分に入っています
Very high に入っている職業を、雇用の多い順に見ます。
- 小売販売員 400万人/カスタマーサービス 267万人/一般事務 260万人/秘書・事務補助 189万人
- ソフトウェア開発者 172万人/会計士・監査人 160万人/簿記・会計事務 153万人
- 経営コンサルタント 108万人/プロジェクト管理 109万人
管理職も入っています。Chief executives(最高経営責任者)は Very high。 情報システム管理者、財務管理者、マーケティング管理者も同じ区分です。統括管理者は High でした。
Very high の206職業のうち、141は雇用が増える予測です
同じ区分の中で、予測は分かれています。
減るほう=一般事務 −6.0%、秘書 −6.0%、簿記 −5.6%、カスタマーサービス −5.3%。
増えるほう=情報システム管理者 +15.8%、ソフトウェア開発者 +10.2%、経営コンサルタント +10.1%、財務管理者 +9.7%、最高経営責任者 +3.2%。
Very high の206職業のうち、雇用が増える予測が141、減る予測が60です。
BLSは「雇用の増減の予測ではない」を、7つ並べています
分類ページには、限界の節があります。そこに並んでいるものです。
- 曝露度の区分は、雇用の増減の予測ではない
- 「High」「Very high」だからといって、雇用が減るとは限らない
- 「Low」だからといって、AIの影響を受けないとも、将来の技術変化から安全とも限らない
- 賃金の予測ではない
- AIが導入される確率の推定ではない
- 労働者が置き換わることの推定ではない
- 生産性の予測ではない
加えて、区分は他の職業と比べた相対的なもので、絶対的な高低を意味しない、とも書いています。自動化と補強の区別もしていません。
測り方の限界も書かれています。理論の3指標が前提にしているAIの能力は、2023年半ばまでのものです。 実際の利用データのほうは、特定のモデルを早くから使った人に偏る可能性がある、とあります。
831職業×5指標=4,155通りのうち、実際に観測できたのは3,944通り。211は他の指標から推定して埋めています(75職業が該当)。
② 構造
民間企業しか持っていないデータが、公式統計の入力になりました
ここまで、米国の政府機関が出した分類を見てきました。整理します。
この分類の半分は、民間企業のログでできています。 Claude.aiの会話とAPIの通信、そしてCopilotの利用。どちらも、その会社しか持っていないデータです。
政府が自前で集めたものではありません。企業の研究者が論文にした指標を、BLSが採用した形です。Anthropicの論文もMicrosoftの論文も、著者の所属がそのまま企業名になっています。
企業のログが統計に入れたのは、O*NETという共通の枠があったからです
O*NET(米労働省が持つ職業データベース。どの職業がどんな作業でできているかを分解してある)は、職業を作業の単位まで分けてあります。AIとの会話をその作業に当てはめると、職業ごとの点数になります。
⇒ 会話ログそのものは統計になりません。既にある職業の枠に載せて、初めて統計の入力になります。
本紙は前号で、Atlassianが自社のデータ層に文脈を溜めている話を書きました。あちらは、集めたものを自社の中で使う形です。今回は、集めたものが外に出て国の統計の一部になりました。
BLSの5つの指標のうち4つは、AIの出力かAIの利用記録です
BLSの分類が見ているのは、AIの側の記録です。人がどう働いたかではありません。
BLS自身が「その職業の人が仕事で使ったかは直接見ていない」と書いています。分かるのは、会話の内容がある職業の作業に似ているところまでです。
理論の指標2つは、GPT-4とGPT-3.5 Turboが判定しています。AIにできる仕事かどうかを、AIが採点した形です。
⇒ 5つのうち、人間に訊いたのは1つだけです。
同じ Very high に、一般事務(−6.0%)とソフトウェア開発者(+10.2%)が並んでいます
Very high の206職業のうち、141は雇用が増える予測でした。
BLSが7つも「これではない」を並べたのは、この点だと読めます。曝露度は、AIとの重なりを測ったものです。仕事が無くなるかどうかは、そこからは出てきません。
③ 自分事
あなたの職業は、いちばんAIに近い区分に入っていますか?
Very high の206職業を、もう一度見てください。最高経営責任者、情報システム管理者、ソフトウェア開発者、経営コンサルタント、会計士、簿記、一般事務、秘書、カスタマーサービス。
雇用が増えると予測された側でしょうか。減ると予測された側でしょうか。
探しても、自分の行が見つからないかもしれません。この表はO*NETの職業分類に沿って831に分かれていて、一人が一つの職業をやっている前提で作られています。
「経理」と呼ばれている人が、請求書を作り、入金を確かめ、給与を回し、電話も取る。この表で言えば、簿記・会計事務(−5.6%)と、一般事務(−6.0%)と、秘書・事務補助(−6.0%)にまたがっています。担当が決まっていない仕事を拾っていれば、またがる行はさらに増えます。
増える予測の行と減る予測の行を、同じ人が持っていることもあります。 社長が最高経営責任者(+3.2%)であり、簿記・会計事務(−5.6%)であり、カスタマーサービス(−5.3%)でもある場合です。
⇒ 一行を見ても、その人の答えは出てきません。あるのは職業ではなく、作業です。
当社は昨年、受託開発をやめました。職業の名前は変えていません
ソフトウェア開発者は Very high で、+10.2%。 当社は顧客のソフトウェアを作り、運用まで続けているので、この職業に当たります。
この数年で、仕事のやり方が変わりました。プロダクトの設計、顧客への提案、その提案がどこを目的地に置くか。全部がAIありきに変わりました。
昨年、個別の受託契約をやめました。ソフトウェア開発そのものが役務として通用しなくなると見て、工数見積もやめています。個別の契約書は、AIありきの利用規約に変えました。労働集約の役務から、サービス業への転換です。
AIが広がることは想定して、長年準備してきました。それでも、変えるときの痛みは想定を超えました。
外から見えるやっていることは、たいして変わっていません。変えたのは、売る物の定義です。
⇒ BLSの表で、当社はいまも「ソフトウェア開発者」の行にいます。曝露度は職業の名前に付いています。売る物が変わっても、名前のほうは変わりません。
明日できること
決裁は要りません。数えるだけです。
⑴ 自分の一日を、作業に分けてみてください。 何時間を何に使ったか。会議、見積、請求、電話、現場の確認、判断。AIとの会話に置き換えられそうなものが、いくつありますか。
⑵ その中で、いちばん時間を取っているものを見てください。 それが渡せる作業なら、渡した先に何が残るかを考えます。渡せない作業なら、渡せる作業のほうを先に減らせます。
⑶ 隣の人の一日でも、同じことをしてみてください。 自分の仕事は分かっていても、隣の席の一日は意外と分かっていません。分けて数える相手が自分しかいなければ、今日中に終わります。
短信
Google、脆弱性の発見に特化したAIを一般提供しない(2026年9月2日)
Google DeepMindが、汎用の「Gemini 3.8 Flash」と、脆弱性(悪意ある第三者に突かれうる欠陥)の発見と修正プログラムの作成に特化した「Gemini 3.8 Flash Cyber」を同時に出しました。
特化版は、一般には提供しません。 新設した「Fairwind Program」を通じて、政府機関・重要インフラ事業者・ソフトウェア保守者に優先的に渡す形です。
理由は発表文に書かれています。特化版はサイバーセキュリティ面の制限を通常版より緩めてあり、そのため<strong>「より包括的なサイバー能力を必要とする、信頼できる防御側」にのみ提供する</strong>、というものです。
数字も出ています。Chromeのセキュリティチームの検証では、Chrome内の脆弱性に対する正しい修正プログラムが、はるかに規模の大きい最良の商用モデルの2.6倍の数だけ作れました。
セキュリティ企業Wizは、自社のペネトレーションテスト(侵入テスト=防御側が自社に攻撃を仕掛けて弱点を探す点検)の基準で測っています。他の主要なフロンティアモデルと比べて、再現率(見つけるべき脆弱性のうち、実際に見つけられた割合)が7.5〜9.7%高く、費用は2.3〜5.2分の1でした。
ただし、外部の基準(CWE-Bench)では47.2%で、主要なフロンティアモデルの47.8%をわずかに下回っています。 費用のほうは大きく下回る、とGoogleは書いています。
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序章は、その入口です。就活で5社に落ちて宙ぶらりんのリナが、同級生で既に起業している葉山に口説かれます。
https://www.netkomuten.tokyo/channels/novel-tnk-part2-5/articles/ch00
小説を書いている理由
この小説は、もともと、社内の教育のために書き始めました。うちの会社——東京ネット工務店で、新しく入った人間に、この仕事の考え方を伝えるための、いわば教材でした。戦略の階層とか、取捨選択とか、口で言っても、なかなか伝わりません。だったら、物語にして読んでもらったほうが早い。そう思って、書き始めました。
ところが、いろいろあって、その教材が、要らなくなってしまいました。理由は、いろいろあります。ここには、書ききれません。ただ、宙に浮いてしまった原稿を、捨てるのも惜しくて、何度も書き直しながら、今度は、教材ではなく、ただ読んで面白い、お仕事小説として、作り直していきました。
https://www.netkomuten.tokyo/channels/atogaki/articles/atogaki-1
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