① 事実
OpenAIは、ChatGPTの広告が200日で年10億ドルに達したと発表しました
OpenAIが8月31日、ChatGPT Adsについて公表しました。開始から200日足らずで、年換算の収益ペースが10億ドル。広告主は数万社で、40か国以上に広がっています。
同日から、インド・欧州・中東・北アフリカで、広告主が管理画面から直接買えるようになりました。
中小企業も出せます。 5月にAds Managerを出して開放し、いまは「相当の割合」を占めるとしています。ある技術パートナーの報告として、広告経由でChatGPTから来た人の80%超が新規顧客だったという数字も載っています。
広告は、無料層を維持するためだと書かれています
OpenAIは、広告を収益の柱の一つとして説明しています。消費者向けの月額契約、企業向けの提供、使った分だけ払うAPI、そして広告。
「これらの提供物が合わさって……広告に支えられた無料層を含め、ChatGPTを週あたり10億人を超える利用者が使える状態に保つ助けとなります」
「稼ぐ」という言葉は使われていません。 無料層を保つため、と書いてあります。
広告は、会話の文脈と、蓄積された体験から選ばれます
どの場面に出すかも、書かれています。
「人々は、はっきりした目的を持ってChatGPTに来ます。自社の業務用ソフトを選んでいる、新しい言語を学んでいる、リフォームを計画している、仕事を探している、といったことです」
「発見、検討、意思決定が、一つの体験の中で同時に起きます」
タグ=モデル, 制度
そして、広告の選び方です。
「当社の広告システムは、いまの会話の文脈を使って、その人が調べていることに関連する広告を表示します。国と利用者の設定によっては、その利用者のより広いChatGPT体験の文脈も使うことがあります」
いまの会話だけでなく、これまでの会話の蓄積も材料になります。
「広告は回答に影響しない」と書かれています
OpenAIは、原則も併記しています。
「ChatGPT内の広告は、常に明確にラベルが付き、ChatGPTの回答とは分離されています。広告が、ChatGPTの提供する回答に影響することはありません。広告主が人々の非公開の会話にアクセスすることはありません」
同じ週に、OpenAIは「危険水準に達した最初のモデル」も発表しています
9月1日、OpenAIはAstraというモデルについて公表しました。自社の安全性の枠組みで、サイバーセキュリティ能力が「重大(Critical)」の水準に達したと判断した最初のモデルだとしています。適切な道具とアクセスがあれば、未知の欠陥を見つけ、人が一手ずつ指示しなくても攻撃の手段を作れる、と書かれています。
無料層で使われるモデルと、Astraは別のものです。それでも、普及を保つための広告と、危険水準の告知が、同じ週に出ました。
② 構造
判断の基準を作る場所に、金で選ばれたものが置かれます
OpenAIの説明を、順に置き直します。
ChatGPTは、判断の枠組みを作り、基準を決めるのを助けます。 OpenAI自身の言葉です(原文は「frame the decision, establish criteria」)。そのうえで発見・検討・意思決定が一つの体験の中で同時に起きるとし、その体験の中に広告を置くと書いています。
基準ができる前に、選択肢が置かれます。
これには名前が付いています。アンカリング(先に示された情報が、そのあとの判断の基準になること)です。価格の交渉で経験のある方は多いはずです。最初に出された金額が、その後のやり取りの土台になります。
技法は古い。変わったのは、再現性です
アンカリングは新しくありません。上手な営業マンが昔から使ってきた技法です。
商談の最初に何を訊くかを思い出してください。予算はいくらか。いつまでに必要か。どこで使うか。その答えが返ってきた時点で、提案できる範囲が決まります。 予算を聞いてから出す見積と、聞かずに出す見積は、別のものになります。
ただし人がやる場合、属人的です。 訊く順番を心得ている人と、いきなり商品説明を始める人がいます。同じ人でも、忙しい日は雑になります。覚えていられる客の数にも、限りがあります。
サービスがやる場合、そこが変わります。訊く順番は毎回同じで、忙しい日がありません。 前に話したことも残っています。全員に、同じ精度で。 差が出るとすれば、人の技量ではなく、設計と金額のほうです。
⇒ 変わったのは技法ではなく、それをどれだけ確実に繰り返せるかです。
AIが人を操っている、という話ではありません。 ここは分けて読む必要があります。
やっているのは、サービスの設計です。どの文脈を材料にするか、どこに何を出すか、いくらで売るか。モデルの性能とは別の場所で決まっています。
本紙は同じ形を何度か書いてきました。Vol.17では、報じられた「AIの暴走」の一次を開くと、閉め忘れた口の話でした。Vol.42では、AIが途中で止まるのは、モデルの能力ではなく使っている入口の作りでした。今回も、同じ場所です。
OpenAIがやっているのは、Googleが通った道の再現です
検索は無料でした。 誰でも使えて、収益は広告から取ります。この形で、Googleは世界の「探す場所」を押さえました。前号で書いたとおり、Alphabetの売上の68%はいまも広告です。
押さえたのは、探す場所でした。何があるかを調べるところに広告が出て、決めるのは別の場所です。見積を取り、社内で話し、決裁を通す。その過程は、検索の外にありました。
いま起きているのは同じ型で、押さえる場所が一段上がった形だと読めます。 OpenAIは、発見と検討と意思決定を一つにしたと書いています。そこに広告を置く理由も書いていて、週10億人の無料層を保つためです。無料で配り、広告で支える。順番まで同じです。
三者を並べると、扱いが分かれます。Googleは探す場所、OpenAIは決める場所。 そしてAnthropicが公表している事業に、広告はありません。 新しいデータ保持の仕組みは企業向け契約の顧客が対象で、基本料金も下げていません。無料で広く配ることを、収益の柱にしていない形です。
⇒ 判断の場を持つと、そこは売り物になります。 持たなければ、なりません。
同じ形が、攻撃なら防がれ、商売ならラベルで通ります
プロンプトインジェクション(AIが処理する内容の中に、悪意ある指示を紛れ込ませる攻撃)という言葉があります。本紙もVol.17で扱いました。入力に何かを差し込んで、AIの動きを変える手口です。
今回の形を、同じ言い方で置くとこうなります。記憶インジェクション——蓄積された会話の文脈に、金で買われたものを差し込む。
形は同じです。扱いが違います。 前者は防ぐべき攻撃として扱われ、後者は「明確にラベルを貼り、回答とは分離している」という説明で通ります。
OpenAIは、回答に影響しないと書いています。
これを外から確かめる方法は、公表されていません。 影響していると書けば推測になります。影響していないと書けば、発表をそのまま繰り返すだけになります。
ただし、確かめるまでもないことが一つあります。
回答が変わらなくても、読んだ人は変わります。 視界に入ったものが、判断にまったく残らないということはありません。アンカリングは、回答にではなく人に効く技法です。
質問する側は、聞きたいことがあって来ています。受け入れる態勢がある状態で、基準が作られます。回答の中立が保たれていても、その隣に選択肢が並べば、基準はそこで作られます。