中小企業基盤整備機構が、全国の中小企業1,668社にAIの導入状況を訊いた調査を公表しました。回答した会社の81.5%は従業員30人以下です。AIの導入率は20.4%、導入を阻んでいる要因の1位は「導入にあたっての高コスト」でした。その「高コスト」の割合を、導入した会社とこれから導入する会社で分けると、数字が違います。
① 事実
中小機構が、従業員30人以下が8割を占める1,668社に訊きました
独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が2026年3月、「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」を公表しました。調査の実施は東京商工リサーチで、2025年11月17日から12月12日に全国の中小企業10,000社へ調査票を郵送し、Webで1,668社から回答を得ています(回収率16.7%)。
回答した会社の属性は、従業員30人以下が81.5%、資本金5,000万円以下が93.4%です。回答者は代表者・経営者が57.2%、管理職が22.3%。代表者の年代は60代以上が57.3%です。
調査の言う「AI」は、画像認識・音声認識・需要予測・生成AIなどAI技術を用いたサービス。「IT」は、RPA(定型作業をソフトウェアに代行させる仕組み)・クラウド会計・勤怠管理・BIツール(社内の数字を集計して見せる道具)など業務効率化を目的としたツールです。調査票は同じ設問をITとAIの両方について訊いています。
AIの導入率は20.4%、ITの導入率は55.5%です
「全社的に導入している」3.6%と「一部の業務で導入している」16.8%を合わせて、AIの導入率は20.4%です(回答1,647社)。残りの79.6%は、「導入を予定・検討中」18.6%と「導入予定はない」61.0%に分かれます。
ITは「全社的に」18.3%、「一部の業務で」37.2%で、導入率55.5%です。
米国の同じ時期の数字は19.8%です
米国商務省センサス局が全米の企業に隔週で訊いている調査(Business Trends and Outlook Survey)では、2026年5月3日時点で「過去2週間に、何らかの業務でAIを使った」企業が19.8%でした。2025年12月から2026年5月まで、17〜20%の間で推移しています。従業員4人以下では20%未満、250人以上では37%です。
日本の20.4%は「導入している」と答えた割合で、米国の19.8%は「過去2週間に使った」割合です。設問が違うので、そのまま並べることはできません。並べられる範囲で言えば、日本の中小企業と米国の企業全体は、同じ水準にあります。
AIを導入している会社が使っているサービスは、「生成AI(文章・資料作成、アイデア出し)」が82.6%で最多です。需要予測や異常検知は広がっていません。導入の目的は「業務効率化・作業時間の短縮」87.0%、「品質向上」32.3%、「人手不足対応」31.7%の順です。
阻害要因の1位は「導入にあたっての高コスト」46.9%です
「IT・AI等の導入において、感じている課題」を、導入していない会社も含めた全社に訊いています(AIの回答1,636社)。
- 導入にあたっての高コスト:46.9%
- 社内のAI等ノウハウ不足:42.0%
- 社内のAI等人材不足:38.8%
- 導入の必要性や効果が不透明:24.1%
- 適切なサービスが見つからない:19.1%
- 現状で満足しており、導入の必要性を感じない/認められない:18.1%
- セキュリティ・情報漏洩の懸念:17.5%
ITについて訊いた同じ設問でも、1位は「導入にあたっての高コスト」52.4%、2位「ノウハウ不足」41.6%、3位「人材不足」38.2%で、順位は同じです。報告書は「AI・ITの両者間で大きな差は見られなかった」と書いています。
「高コスト」が何の費用か(初期費用か、月額か、人の時間か)は、調査票にありません。AIに幾ら払っているかも、この調査では訊いていません。訊いているのは、ITを導入している会社のクラウドサービスの年間契約額で、回答234社の中央値は68万9千円、100万円以下が61.5%でした。
「高コスト」と答えた割合は、導入済み45.6%・検討中61.0%です
同じ「導入にあたっての高コスト」を、AIの導入状況で分けた表が、報告書の表8にあります。
- 全社的に導入している(57社):45.6%
- 一部の業務で導入している(273社):48.0%
- 導入を予定・検討中(300社):61.0%
- 導入予定はない(986社):42.3%
「ノウハウ不足」も同じ形で、導入済みが29.8%と47.3%、検討中が59.3%です。「成功事例・活用事例の不足」は全体12.7%に対し、検討中が20.7%です。報告書はこの3項目について「導入を予定・検討している企業において5〜6割と、特に高い傾向がみられる」と書いています。
導入したあとの運用課題は別の設問で、全社的に導入している会社では「ランニングコストが高い」42.1%、「従業員による活用が進まない」40.4%です。「活用が進まない」は全体では28.9%で、全社的に導入している会社のほうが11.5ポイント高くなっています。
推進しているのは、88.0%が「特定の部署はなく、経営者・現場が個別に」です
「導入や活用を推進する担当部署はありますか」に対して、「特定の部署はなく、経営者・現場が個別に推進している」が88.0%(回答1,605社)。専任の部署がある会社は2.3%です。担当人材も「特定の担当者はおらず、経営者・現場従業員が個別に推進している」が85.9%で、専任の担当者がいる会社は3.0%でした。
社内の情報量については、「成功事例や活用事例などの情報が十分に入手できている」に当てはまらない会社が83.3%、「適切なベンダーや製品を選定する情報が十分にある」に当てはまらない会社が79.8%です。
必要な公的支援は「導入費用の助成」77.9%が最多で、「導入事例や活用事例などの情報提供」70.5%、「従業員向けの教育・研修」67.7%が続きます。
出典:
- 中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(令和8年3月・PDF70ページ。図13・図30・図33・図34・図36・図37・図43・表8・表10)https://www.smrj.go.jp/research_case/questionnaire/fbrion0000002pjw-att/202603_AI_report.pdf
- 米国センサス局 "Large Firms With at Least 20 Employees Biggest AI Users"(2026年5月26日・Business Trends and Outlook Survey)https://www.census.gov/library/stories/2026/05/ai-use-businesses.html
② 構造
導入前の会社のほうが、「高コスト」という判断を13〜15ポイント多くしています
ここまで、中小機構がAIの導入について1,668社に訊いた調査の数字を並べてきました。整理します。
AIの導入を阻む要因の1位「導入にあたっての高コスト」は、導入を検討中の会社で61.0%、導入した会社で45.6%と48.0%でした。検討中の会社は、導入した会社より13〜15ポイント多く「高い」と答えています。 検討中の会社はまだ払っていません。導入した会社は払っています。払った側のほうが、低く見ています。
ノウハウ不足(59.3%対29.8%)、人材不足(53.7%対33.3%)、成功事例の不足(20.7%対14.0%)も、同じ向きです。検討中の会社が挙げる障壁は、どれも導入した会社より高く出ています。
同じ調査で、導入したあとの課題を訊くと、全社的に導入している会社の40.4%が「従業員による活用が進まない」と答えています。全体より11.5ポイント高い数字です。払ったあとに残る課題は、金額より人のほうに寄っています。
「高コスト」を見積もっているのは、88.0%の会社で、専任ではない経営者か現場の社員です
「高コスト」が何の費用かは調査票にありません。その代わり、誰が答えているかは分かります。
推進する部署がない会社が88.0%、担当者がいない会社が85.9%です。AIはどの部門の担当でもないので、経営者本人か、現場の社員が本来の仕事と兼任で見ています。回答者は代表者・経営者が57.2%、管理職が22.3%。AIの導入を「高い」と見積もっているのは、その経営者か、兼任の社員です。 見積もる人と、導入したら手を動かす人が、同じ人です。
成功事例の情報が足りないと答えた会社が83.3%、ベンダーを選ぶ情報が足りない会社が79.8%。見積もりの材料が無いまま、金額を訊かれています。材料が無いときの見積もりは、高くなります。 検討中の会社の61.0%は、この状態で出た数字だと読めます。
ITの阻害要因と、AIの阻害要因は、同じ順位です
調査票は、ITとAIに同じ設問を並べました。答えの順位は同じで、1位が高コスト、2位がノウハウ不足、3位が人材不足です。ITの導入率は55.5%で、AIの20.4%より35.1ポイント高くなっています。導入率が違っても、阻んでいるものの順位は変わっていません。
本紙はVol.25で、エクセルの作業を自動化する段階を10点と呼びました。今回の調査で、AIを導入している会社の82.6%が使っているのは生成AIで、目的の87.0%は業務効率化です。ITで55.5%が通った道を、AIで20.4%が歩いている途中だと読めます。道の途中で見えている障壁は、ITのときと同じ名前で呼ばれています。
③ 自分事
当社の取引先は中小企業です。20.4%は、一見、朗報ではありません
私(海老沢)は、この数字をどう見るべきかを考えました。当社の取引先は中小企業です。取引先の側の導入率が20.4%で、61.0%が「導入予定はない」なら、当社の仕事は8割の会社に届いていないことになります。一見、朗報とは言えません。
裏返してみます。79.6%は、これからです。そのうち18.6%は検討中で、検討中の会社の61.0%が「高い」で止まっています。止まっている理由がモデルの値段なら、当社にできることはありません。値段は当社が決めていないからです。止まっている理由が、請求書の反対側に何を載せるかが決まっていないことなら、当社が売っているものそのものです。 当社は昨年、受託開発をやめて、AIありきのサービス業に転換しました(Vol.51)。売っているのは、取引先の社内でAIを使える形に残すまでの往復です。
推進する部署がない会社が88.0%というのも、同じ向きに読めます。当社の相手は、その会社の社長本人です。専任の担当者を通さずに、社長と話せます。Vol.40で、AXは発注の形では来ないので、頼まれた機能の中に染みこませる、と書きました。染みこませる相手が社長なら、決裁は要りません。
当社のAIの請求書は、経費の中で大きい項目です
当社は、私がAIの請求書を毎月見ている会社です。Vol.39で、数人の会社ではAIの請求書は社長が見ていて、先月より増えていれば、その場で理由が分かる、と書きました。使ったのは自分だからです。
載っているのは、月額のサービスの合計と、使った分だけ払うAPI(プログラムから呼ぶ口)の合計です。当社の経費の中で、AIは大きい項目です。 高いです。それでも、この金額で止まったことはありません。
止まらない理由は、請求書の反対側に売上が載っているからです。当社の仕事は、AIを仕事の真ん中に置いています(Vol.22)。取引先に納めるもの、提案の中身、社内の手順、その全部をAIが通っています。AIの請求書は、当社では原価です。原価は、売上が付いていれば高くても払えます。
検討中の会社の「高い」は、反対側に何も載っていない金額です
検討中の会社が見ている金額は、当社より小さいはずです。月額のサービスを数人分、試しに入れる段階の金額です。それでも61.0%が「高い」と答えています。
同じ金額が高いか安いかは、反対側に何が載っているかで決まります。 検討中の会社では、誰がどの仕事で使い、それで何が変わるかが、まだ決まっていません。反対側が空欄のままの金額は、幾らであっても高く見えます。導入した会社で45.6%に下がるのは、使い始めて反対側に何かが載ったからだと読めます。
反対側を埋めるには、誰かが触って試し、駄目だった使い方を捨てて、使える形に残す時間が要ります。当社では、その誰かは私です。この時間は、どの請求書にも載っていません。推進する部署がない88.0%の会社では、その時間を払うのは経営者本人か、兼任の社員です。検討中の会社の「高コスト」には、この時間も入っていると私は見ています。
この号の読者の多くは、その88.0%の側で、その仕事を拾っている本人のはずです。担当が決まっていない仕事を、興味があるから拾っている人に向けて、本紙は書いています。
御社で「高い」と言っている人は、幾らを見て言っていますか
御社でAIの導入が止まっているなら、止めている理由は「高コスト」だと言われている可能性が、この調査では46.9%です。その「高い」に、数字が付いているかを確かめてください。
数字が付いていれば、次に、その金額の反対側に何が載っているかを訊いてください。どの仕事で、誰が使い、何が変わるのか。反対側が空欄なら、金額を値切っても止まったままです。 空欄を埋めるのは、モデルの値段と関係がありません。
数字が付いていなければ、まだ請求書の話になっていません。誰が触るのか、その人の今の仕事はどうなるのか、が決まっていない状態が「高い」と呼ばれています。どちらも、社長が決めれば済みます。
明日できること
決裁は要りません。確かめるだけです。
⑴ 御社でAIに払っている金額を、請求書の行で数えてください。 月額のサービスがいくつあって、合計が幾らか。API の従量分があれば、それも1行です。経費の中で何番目に大きいかも見てください。
⑵ その金額の反対側に、何が載っているかを書いてください。 どの仕事で、誰が使い、何が変わったか。書けない行が、「高い」と言われている行です。
⑶ 御社でAIを推進しているのは誰か、名前を1人書いてください。 専任でなくて構いません。書けない場合は、この調査の88.0%の側にいます。
短信
Google、音声で会話しながら裏でツールを呼ぶ「Gemini 3.8 Live」を公開(2026年9月15日)
Googleが、音声から音声へ直接応答するモデル「Gemini 3.8 Live」と「Gemini 3.8 Live Extended Thinking」を、Gemini APIとGoogle AI Studioで公開しました。発表文は「会話を保ちながらタスクを実行できる」と書いています。会話の音声を返し続けながら、裏でAPIやツールの呼び出しを実行する「非同期の関数呼び出し」、カメラの映像を会話の文脈に入れる「視覚の文脈」、確認コードや請求番号を正確に聞き取る「英数字の精度」の3つを挙げています。価格は音声入力が1分あたり0.005ドル、音声出力が1分あたり0.018ドルです。同時に、85言語以上に対応する書き起こし専用モデル「Gemini 3.5 Transcribe」も出ています。
OpenAIは9月10日に、音声対話のモデル「GPT-Live-1」をAPIで一般提供しました。こちらは音声部分が1分あたり0.05ドルで、深い推論は別のモデルに委ねる設計です。同じ週に、2社が電話応対のような用途に向けた音声モデルを、分単位の値段で出したことになります。Extended Thinking版の価格差は、価格表に書かれていません。
出典:
- https://blog.google/innovation-and-ai/technology/developers-tools/build-real-time-voice-applications-gemini-audio/
- https://ai.google.dev/gemini-api/docs/pricing
- https://community.openai.com/t/introducing-gpt-live-1-in-the-api/1396471
今月のモデル
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ライトノベル「ようこそ、東京ネット工務店へ」
海老沢が執筆している、IT業界のお仕事小説です。毎号1話ずつご紹介します。
〈第2.5部 第6章「無駄の理由」〉
神崎リナが、荒木町の焼き鳥屋で、店主の愚痴を聞きます。営業に勧められて入れた予約アプリが、常連の焼き加減を「標準はミディアムです」と返してくる。
https://www.netkomuten.tokyo/channels/novel-tnk-part2-5/articles/ch06
小説を書いている理由
この小説は、もともと、社内の教育のために書き始めました。うちの会社——東京ネット工務店で、新しく入った人間に、この仕事の考え方を伝えるための、いわば教材でした。戦略の階層とか、取捨選択とか、口で言っても、なかなか伝わりません。だったら、物語にして読んでもらったほうが早い。そう思って、書き始めました。
ところが、いろいろあって、その教材が、要らなくなってしまいました。理由は、いろいろあります。ここには、書ききれません。ただ、宙に浮いてしまった原稿を、捨てるのも惜しくて、何度も書き直しながら、今度は、教材ではなく、ただ読んで面白い、お仕事小説として、作り直していきました。
https://www.netkomuten.tokyo/channels/atogaki/articles/atogaki-1
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