2026年7月19日/株式会社東京ネット工務店 海老沢敦
① 事実
AIは、働く人を静かに二つに分けはじめた。AIを使いこなして価値を上げる層と、これまでの居場所を失っていく層だ。AIを導入した企業は、新卒採用をすでに約13%減らしている。初級のホワイトカラー職が、最も早く危険にさらされている。マッキンゼーは、2030年までに仕事の作業の最大30%が自動化されうると見る。
これに対し、2026年は「答え」の案が一気に噴き出した年になった。いずれも大がかりだ。
- OpenAIが13ページの政策提言を出した。ロボット税(自動化を進める企業への課税)、公共資産ファンド(国がAI企業の株を持ち、その配当を国民に配る仕組み)、給与を維持したままの週休3日、そしてAIによる失業が一定水準を超えたら自動で発動する安全網。
- 米国では保証所得——条件をつけず、決まった額の現金を毎月配る仕組み——の試験導入法案が動く(3年・約4.95億ドル)。月500〜1000ドルを配る先行実験では、フルタイムで働く人が12%増えた。
- イーロン・マスクは「ユニバーサル・ハイインカム(全員への高めの給付)」を唱え、サム・アルトマンも近い考えを支持する。
- サンダース上院議員らは連邦雇用保障——政府が「最後の雇い手」になる案を推す。
出典:
- OpenAIの経済ビジョン(TechCrunch) https://techcrunch.com/2026/04/06/openais-vision-for-the-ai-economy-public-wealth-funds-robot-taxes-and-a-four-day-work-week/
- ベーシックインカムとAI・税制(Forbes) https://www.forbes.com/sites/taxnotes/2026/06/16/universal-basic-income-ai-and-tax-policy/
- ロボット税の論点(Brookings) https://www.brookings.edu/articles/navigating-the-future-of-work-a-case-for-a-robot-tax-in-the-age-of-ai/
② 構造 — 「引き上げる層」への答えに、国の性格が出る
二極化した先の、後者——社会が引き上げないと居場所を失う層——を、どう抱えるか。ここに、その国・その陣営の世界観がまっすぐ出る。
同じ一つの問題に、答えはこれだけ割れる。企業に課税して財源にする(ロボット税)。政府が直接雇う(雇用保障)。全員に一律で配る(ベーシックインカム)。日本なら、おそらく別の型が出てくる——企業規模に応じて義務とコスト負担を課すやり方だ。すでに障害者雇用にその前例がある。従業員が一定数を超える企業には法定雇用率(全体の何%は障害のある方を雇うという義務)が課され、届かない企業は不足人数に応じた納付金を国に納める。 この発想を、AIで弾かれた層に広げる筋だ。
処方がここまで割れるのは、「社会をどう見るか」という、一番上の世界観の違いだ。そして、はみ出す層を社会がどう抱えるかという問いは、産業構造が変わるたびに繰り返されてきた。新しいのは、今回の引き金がAIだという点だけだ。
だが、これだけ多彩な案に、一つだけ共通する穴がある。どれも「お金」で解こうとしている。
③ 経営者の自分事
ロボット税も、ベーシックインカムも、週休3日も、根っこは同じ発想です。失われた「所得」を、別のルートで配り直す。だが、前号(Vol.03)で見たとおり、消えたのは所得だけではありません。新人が雑用や下働きを任され、失敗し、直され、そのうち「この事業はこう回っている」と分かるようになる。 若手が"その事業を分かった主体"に育っていく経路——お金では買えず、現場で回すしかないループが、一緒に消えたのです。
お金をいくら配っても、この経路は戻りません。ベーシックインカムはその極端な行き先で、生活の所得は保証しても、「分かった主体に育つ場」は一切作らない。だから、本質的な答えにはならない。これは制度の善し悪しの話ではなく、お金という道具が、経路という別のものを作れない、というだけの話です。