CoBANTO3-AI

創刊準備号 Vol.31 / 「方針は決めていない」が、いちばん多い答えでした

社内でAIを使っている人に、何を渡して訊いているか、確かめたことはありますか。

2026年08月22日 一般公開

2026年8月22日/株式会社東京ネット工務店 海老沢敦

① 事実

6,327社に訊いた調査があります

東京商工リサーチが2026年3月31日から4月7日にかけて、生成AIについてのアンケートを実施しました。有効回答は6,327社です。

最初の設問は、生成AIツールの活用をどう進めているか。いちばん多かった答えが、これでした。

「方針は決めていない」——37.5%(2,374社)
タグ=統計, 運用

次が「個人で活用していることもある」27.1%、その次が「会社として活用を推進」20.3%。

前回調査(2025年8月)と比べると、「方針は決めていない」は50.9%から37.5%へ、13.4ポイント下がっています。 決めていない会社は、減っています。

大企業と中小企業で、差が開いていました

「会社として活用を推進」と「部門によっては活用を推進」を合わせたものを、組織的活用と呼びます。会社として決めて使っている、という状態です。

前回(2025年8月) 今回(2026年4月)
大企業(資本金1億円以上・455社) 43.3% 59.1%
中小企業(資本金1億円未満・5,872社) 23.4% 32.3%
差 19.9ポイント 26.8ポイント

中小企業も、8.9ポイント伸びています。止まっていません。

それでも差は、19.9ポイントから26.8ポイントへ、6.9ポイント開きました。

中小企業の内訳を見ると、こうなっています

  • 方針は決めていない:38.7%(2,276社)
  • 個人で活用していることもある:27.7%(1,632社)
  • 会社として活用を推進:19.1%(1,123社)
  • 部門によっては活用を推進:13.2%(776社)

上の二つを足すと、66.4%です。 3社に2社が、会社としては決めていません。 そのうち27.7ポイント分では、個人が使っています。

業種でも差が出ています。 「方針は決めていない」が高いのは、建設業47.3%(451社/952社)、農林漁業・鉱業53.9%。低いのは情報通信業で、こちらは組織的活用が64.4%あります。

人を減らす、と答えた会社は16.1%でした

組織的に活用している2,088社に、生成AIが人員構成に影響するかを訊いています。

  • 人員構成への影響はない:46.5%(971社)
  • 従業員配置転換の可能性:28.9%(605社)
  • 総従業員数抑制の可能性:16.1%(337社)

いちばん多いのは「影響はない」です。 減らす(16.1%)より、動かす(28.9%)のほうが多い。

ホワイトカラーの早期退職を募集する可能性があるかという設問には、「ある」が3.6%(211社)でした。中小企業3.7%、大企業3.0%。

配置転換の回答には、規模差があります。

  • 大企業:46.7%(115社/246社)
  • 中小企業:26.6%(490社/1,842社)

出典:東京商工リサーチ「2026年4月『生成AI』に関するアンケート調査」
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1202766_1527.html

② 構造

AIに触るだけなら、費用はかかりません

主要なチャットサービスは無料の枠を持っていて、社員が自分の携帯電話からでも使えます。

それでも、組織的活用の差は開きました。

中小企業の27.7%が「個人で活用していることもある」と答えています。触っています。会社としては、決めていません。

大企業でいちばん多い答えは「会社として活用を推進」36.4%です。 東京商工リサーチは調査のなかで、大企業では個人利用が減り、組織的な導入へ軸足が移り始めていると書いています。

同じものに触っていて、置き場所が違います。

個人で使うことと、会社として使うことは、別の階層です

本紙は、戦略の階層という見方を使っています。 現場が手元でやることが戦術、経営が資源の置き場所を決めることが戦略です。

個人が自分の判断でチャットに質問するのは、戦術です。 早く終わる、調べ物が楽になる。その人の作業が速くなります。

会社として活用を決めるのは、戦略です。 どの業務に当てるか、何を渡してよいか、誰が確かめるか。決めた時点で、他の人の仕事も変わります。

この二つは、連続していません。 個人利用がいくら増えても、そのままでは組織的活用になりません。間に、決めるという行為が入るためです。

Vol.30で、「構想は、判断ではない」と書きました。方向を持っていることと、一つずつ決めることは別です。今回の数字は、その手前を映しています——3社に2社が、まだ決めていない。

同じ場所で詰まるのは、二度目です

情報化投資でも、同じ順番でした。 大企業が先に情報システム部門を持ち、社内の業務に合わせて仕組みを組んだ。中小企業は数年遅れて、外部に頼んで追いかけた。

このとき差を作ったのは、パソコンの値段ではありません。 パソコンは、どちらの会社にも同じ値段で売られていました。差になったのは、自社の業務に合わせて組む人が社内にいるかどうかです。

今回も、同じ場所で詰まっています。

⚠️ ただし、今回のほうが見えにくくなっています。 情報システムの導入は、目に見える買い物でした。生成AIは、社員が個人で使い始めてしまうため、「うちも使っている」という状態が先に成立します。

使っている、という実感と、会社として決めた、という状態が、別々に存在しています。

③ 自分事

動かせることと、話になることは、別です

当社は、AIチャットのサービスを運営しています。そこに先日、6つのモデルを追加しました。 中国製のものが5つと、公開されているモデルが1つです。

追加した理由は、この種のモデルを、自社の文脈を載せた状態で試せる場所が、案外ないためです。

モデルを動かすだけなら、方法はあります。 手元の機械で動かす道具もありますし、提供元のサイトで試すこともできます。

ただし、それでは、あの会話ができません。

モデルが起動している状態と、こちらの事情を踏まえた会話が成立する状態は、別のものです。 間に、チャット基盤が要ります——これまでのやりとりを覚えておく仕組み、過去の資料を必要なときに取り出して質問に添える仕組み、誰が何を訊いてよいかの制御。

この環境構築は、エンジニアの仕事です。

⚠️ これは、能力の話ではありません。 中小企業の社長は、決算書を読み、資金繰りを回し、人を雇い、契約を結んでいます。分業の話です。社内にその役割の人がいるかどうかで決まります。

素で試すと、どれも同じに見えます

素のチャットに素の質問を投げると、どのモデルも、だいたい同じような答えを返します。 賢そうな一般論が返ってきて、自社の話にはなりません。

理由は、AIが学習で身につけたものにあります。

身についているのは、正確で幅広い知識ではありません。次に何が来そうかという見込みの広がり——確率分布(どの言葉がどれくらい来そうかの分布)——と、渡された材料でその見込みを絞り込む力です。

知識も入っています。ただし、知識を引き出す使い方が、この道具のいちばん弱い使い方です。 出てくるのは、学習した時点の平均的な答えになります。

渡した材料を処理させたときに、性能が出ます。

その状態で「試した」と判断すると、結論は一つになります。「思ったほどではなかった」。

差が出るのは、自社の文脈を載せてからです。 自社の見積の作り方、断ってきた仕事の条件、過去に揉めた案件の経緯。それを渡したあとで、初めて使えるかどうかが分かります。

多くの判断が、差の出る手前で下されています。

⚠️ 判断が間違っているのではありません。 素で試した限りにおいて、その判断は正しい。試した範囲が、まだそこまで届いていないだけです。

当社の場合

当社はソフトウェアの開発会社です。 環境を組むのは本業なので、自社のサービスに文脈を載せて、モデルだけ差し替えられる形にしました。

やってみて分かったのは、モデルを替えても、載せた文脈は残るということです。 新しいモデルが出るたびに、載せ直す必要はありません。替わるのは答える側で、渡す材料のほうは、こちらに残ります。

この順番は、逆にはなりません。 文脈が無ければ、どのモデルを持ってきても一般論しか返らない。先に要るのは、渡すものを持っていることのほうです。

明日できること

一つ目。社内で生成AIを使っている人に、「何を渡して訊いていますか」と訊いてみてください。

質問文だけを打っているなら、そこには会社の文脈が載っていません。 見積書や過去のやりとりを貼り付けてから訊いているなら、その人は、すでに載せる作業を自分でやっています。誰がやっているかが分かります。

二つ目。自社で、社員からいちばんよく訊かれる質問を10個、書き出してみてください。

その答えが社内のどこにあるかを、確かめます。 文書になっているのか、特定の人の頭の中にあるのか。

文書になっていなければ、載せるものが、まだありません。 これは、Vol.30で書いた「判断が記録されていない」の、別の現れ方です。

⚠️ どちらも、買うものは要りません。訊くことと、確かめることだけです。

決めていない、という状態は、決めていないまま外に出ます。 3社に2社という数字が、それです。


今月のモデル

新しいAIが出るたびに、点数が並びます。ですが、点数と、自社の仕事で使えるかどうかは、別です。

不定期に、一つ取り上げます。点数は書きません。 何が出て、どう配られていて、いくらで、どうやって動かすのか、実際に触るとどうだったかを短く書きます。

今号:中国製モデル5つ+公開モデル1つを、自社のチャットに追加しました

入れたのは、DeepSeek(中国)、Kimi(中国 Moonshot AI)、GLM(中国 Zhipu AI)、MiniMax(中国)、Qwen(中国 Alibaba)、そして gpt-oss(OpenAIが公開しているモデル)です。

動かし方が、これまで書いてきた3つのどれとも違いました。

これまでは、申し込めばすぐ使えるもの、自社のサーバーに入れて起動しておくもの、手元の道具を通して呼び出すもの、の3つでした。今回は、4つ目です。

手元でAIを動かす道具に、Ollama があります。 Vol.22とVol.24で取り上げたものです。その提供元が、自社のクラウドでモデルを動かすサービスを用意しています。そこを通して呼び出しています。

理由は、大きさです。

Vol.24で、DeepSeekのモデルを取り上げました。3,040億のパラメータ(AIの規模を表す数値)があります。 公式の実行例では、GPU(AIの計算に使う演算装置)を積んだサーバーを4台使っていました。手元のパソコンでは動きません。

今回追加したQwenは、3,970億です。自社の機械では動きません。

そこで、借りています。

⚠️ ここで、多くの方が気にされることがあると思います。中国のモデルを使うと、入力した内容が中国に送られるのか。

送られません。

提供元の公式の記述では、モデルの実行は米国が主体で、需要に応じて欧州とシンガポールに振り分けることがある、とあります。

"Ollama hosts models and compute resources primarily in the United States. To serve global demand, we may route to Europe and Singapore for additional capacity."

入力と応答についても、記録せず、学習にも使わないと明記されています。

"Prompt or response data is never logged or trained on."

⚠️ ただし、保存期間は明示されていません。 「保持を最小限にするための技術的措置を講じている」という書き方までです。「どこにも残らない」とは書かれていません。

⭐ ここに、公開されているモデルの意味があります。

モデルの中身(重み——AIが学習した結果そのもののデータ)が公開されていると、作った会社を通さずに動かせます。 だから、どこで動かすかを選べます。

公開されていないモデルは、こうはなりません。 使うには、作った会社のサーバーに送るしかない。選択肢がありません。

⚠️ 公開されている、というのは、動かす場所を選べるという意味です。自社で動かせる、という意味ではありません。 3,970億のモデルは、公開されていても、うちの機械では動きません。

料金は、月額20ドルからです(無料の枠もあります)。月ごとの契約です。

触ってみました。

Kimi(中国 Moonshot AI)で、寿司屋の商売の構造について話しました。 原価率、客単価、ロス率。日本の飲食の話です。

崩れませんでした。 豊洲の仲卸との関係、おまかせの構成、ネタごとに粗利がまるで違うこと。日本の商習慣を外していません。 応答を待たされる感じもありませんでした。

⚠️ 書けるのは、この用途で問題が出なかった、というところまでです。 別の仕事に当てれば、違う結果が出るかもしれません。

⭐ そして、こちらのほうが大きい観察でした。モデルを替えても、答え方は変わりませんでした。

前提が違うときに、否定せず論点を一段上げる。成功例を出すときは、代償も一緒に出す。 この振る舞いは、モデルの側にあるものではありません。こちらが用意した指示のほうに書いてあります。

替わったのは答える側で、答え方は、こちらに残っていました。

③に書いたことの、自社での実例です。


CoBANTO3-AIチャット

https://www.netkomuten.tokyo/lp/co-banto3-ai

本紙のバックナンバーを記憶し、本紙の読み方(戦略の階層・歴史循環)で、あなたの会社の状況に当てて答えるAIチャットです。記事は「地図」ですが、地図は現地には当たりません。「この号の話、うちの場合はどうなるのか」を訊く場所として用意しました。

ご利用は事前購入のクレジット制です(1,000円から)。月額の契約ではないので、解約の手続きはありません。使った分だけ減り、無くなれば止まります。

読者登録をいただいた方に、無料クレジットを500クレジット追加させていただきました。ぜひ使ってみてください。


ライトノベル「ようこそ、東京ネット工務店へ」

https://www.netkomuten.tokyo/channels/novel-tnk-part2/articles/ch22

小さなIT企業の現場を書いた小説です。毎号1話ずつご紹介します。

今号の話:〈第二部 第22章「装飾じゃない」〉

前職で「言われた通りに速く作る」ことを磨いてきたハルカが、旅館のサイトを二日で仕上げます。出来は、非の打ちどころがありません。海老沢が、それを見ます。


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