CoBANTO3-AI

創刊準備号 Vol.49 / SpaceXの上場目論見書に、実行の5段階が全部書いてあります——大戦略だけが、読み取れません

なぜ今の仕事をしているのか、書いてみたことはありますか。

2026年09月09日 一般公開

最近のxAIを追っていなかったので、追います。

① 事実

xAIは、SpaceXに買われていました

SpaceXは2026年2月2日、xAIを買収したと発表しました。上場目論見書では「xAI Merger」と呼ばれています。

その前にもう一段あります。xAIは2025年3月28日に、X(旧Twitter)を買収していました。 目論見書はこちらを「X Merger」と呼び、どちらも共通支配下の取引だとして、過去の期間の数字も遡って合算しています。

開発者向けの文書の置き場も変わりました。docs.x.ai を開くと、ページの名前が「SpaceXAI Docs」になっています。

SpaceXは、5億5,555万5,555株を1株135ドルで売り出します

2026年6月3日付の目論見書(PRELIMINARY PROSPECTUS)に、売り出す株数と想定価格が書かれています。掛けると、約750億ドルです。

上場後もマスク氏が議決権の過半を持ち続けると明記され、目論見書は自社を「controlled company(支配された会社)」と分類しています。上場先はナスダックで、銘柄コードは「SPCX」を申請中です。

<strong>「現在、当社のクラスA普通株に公開市場は存在しない」</strong>とも書かれています。ただし、株そのものは動いていました。2025年、会社は資本の売却で74.20億ドルを受け取り、xAIの買収後に38.38億ドル分を買い戻しています。前年も57.06億ドルを受け取っていました。

⇒ 売り買いはありましたが、公開市場はありませんでした。 上場は、そこに市場ができるという話です。

AI部門は、売上32億ドルに対して営業損失63億ドルです

事業は3つに分かれています。2025年通年の数字です。

売上 営業損益
宇宙(Space) 40.86億ドル −6.57億ドル
接続(Connectivity) 113.87億ドル +44.23億ドル
AI 32.01億ドル −63.55億ドル

稼いでいるのはStarlinkを含む接続で、売上は前年から49.8%増えています。

設備投資を見ると、順番が入れ替わります。2025年のAI部門は127.27億ドル。 宇宙38.32億ドルと接続41.78億ドルを足した額より、大きい数字です。2026年1〜3月期はAIが77.23億ドルで、他の2つの合計の3倍近くになっています。

Xは「AIのための配布とデータのエンジン」と書かれています

目論見書の用語集に、Xの定義があります。

「Xとは、当社のリアルタイム情報・娯楽・言論の場であり、AIエコシステムのための基盤的な配布とデータのエンジンとして機能する」

利用者の数え方も、そこに合わせてあります。GrokとXの利用者を合算して1つの数字にし、両方を使う人は二重に数えない、と定義されています。その数字が、2026年3月末で5.5億人。

うち、GrokのAI機能を使ったのは1.17億人です。(2025年末は0.89億人)

実行の手順が、5段階で書かれています

目論見書には「The Algorithm」という名前で、社内の実行手順が載っています。

⑴ 要求を、より愚かでないものにする
⑵ 不要な工程や部品を削除する(「最良の部品は、部品が無いこと」)
⑶ それから、必要な工程や部品を最適化する
⑷ サイクル時間を速める
⑸ 最初の4段階を終えたあとで、実証された工程だけを自動化する

事業の作り方も7段階で書かれていて、その5番目が「最終顧客まで、すべて垂直統合する」です。部品も、それを作る工具も自社で作る、と説明されています。


② 構造

本紙が使っている階層に、SpaceXを置いてみます

本紙はVol.22で、戦略の階層を上から順に並べました。

戦略の階層(世界観・原則・大戦略・事業戦略・行動・戦術・技術)

SpaceXの目論見書を、この順に読んでいきます。

世界観は、目論見書の最初に書かれています

冒頭にミッションがあります。

「生命を多惑星的なものにし、宇宙の真の姿を理解し、意識の光を星々へ広げるために必要な、システムと技術を作ること」

Grokの定義も、そこに繋がっています。「真実を探すAIモデル」であり、創業者の「人類が宇宙を理解できるようにする」という使命の上に作られている、と書かれています。真実を探すとは何かの定義まで、目論見書に載っています。

実行の手順は、社外の人が真似できる形で書かれています

The Algorithmの5段階。7段階の事業の作り方。垂直統合。採用は2%以下。どれも、社外の人が読んで真似できる形で書かれています。

土台の側も具体的です。年100回を超える打ち上げ、軌道への投入質量の8割超、99%を超える成功率。

⇒ 階層の下半分は、埋まっています。

世界観と実行の間にある大戦略が、読み取れません

残るのは、思想と実行の間です。誰に対して、何であろうとするのか。

事業戦略に当たるものは書かれています。Grok Business、Grok Enterprise、Grok API、政府向けのxAI Gov。Cursorとの提携で、共同所有のコーディング用モデルを作る可能性も書かれています。

ただし、それらを束ねて何になろうとしているのかは、書かれていません。

自社の説明として置かれているのは、この一文です。

「本質において、我々は作る者です」

「作る者である」は、誰に対してかを言っていません。宇宙・接続・AIの3つにまたがる統合基盤を作っている唯一の会社だ、とも書かれていますが、それは何を作っているかの説明です。

ここで、書いていないことと、無いことは分けます。上場すると、書かなければならない項目が決まります。 この目論見書は、その義務の中で会社が自分を説明したものです。義務のある項目と、書かない自由のある部分があります。大戦略が無いのか、書いていないだけなのかは、この書類からは分かりません。

株の売り買いは、公開市場が無かった頃から続いていました。変わったのは、外から読める書類が出てきたことのほうです。 その書類で、実行の手順は5段階まで書かれ、大戦略は読み取れない形になっています。

本紙が前号まで見ていたのは、逆の形でした

Vol.47とVol.48で、Metaを2号続けて扱いました。あちらは世界観(個人のための超知能)と製品(Muse Spark、Llama)が並んでいて、その間が読み取りにくい形でした。

SpaceXは、実行の手順のほうが厚く書かれています。同じ「読めない層がある」でも、空いている場所が違います。

金額を並べると、桁が違います

前号で扱ったMetaの数字と、並べてみます。

Metaの2026年4〜6月期の売上は608億ドルでした。SpaceXの2025年の1年ぶんの売上は、3つの事業を足して186.74億ドルです。 Metaの3か月が、SpaceXの1年の3倍を超えています。

設備投資のほうが開いています。Metaは通年で1,300〜1,450億ドルの見通し。SpaceXは2025年に207.37億ドルでした。 6倍から7倍の差です。

事業の中身が違うので、これは優劣の話ではありません。片方は広告で稼ぎ、片方はロケットと通信とAIを回しています。ただし、どちらもフロンティアと呼ばれる規模のAIモデルを自社で作っています。 その部分だけを見ても、SpaceXのAI部門の設備投資は127.27億ドルで、Metaの通年見通しとは1桁違います。

⇒ 同じものを作るのに、使っている金の桁が違います。

これがThe Algorithmの2番目——不要なものを削除する——から来ているのかどうかは、目論見書からは分かりません。SpaceXは2025年に49.37億ドルの純損失を出しています。 効率がよいのかどうかは、この数字だけでは判断できません。

残るのは、印象のほうです。前号のMetaは、全項目が伸びているのに伸びている会社に見えない、という話でした。こちらは逆を向いています。損失を出していて、それでも縮んで見えません。

⇒ 2号とも、数字と印象が合っていません。


③ 自分事

世界観が極端だと、階層に当てはめること自体が難しくなります

「本質において、我々は作る者です」の一文は、置き場所が一つに決まりません。原則(上から2階層目=戦略を決める前提条件)とも読めますし、事業戦略(4階層目=事業への向き合う姿勢と目標)とも読めます。

階層は、どこに何を書くかが決まっているものではありません。上から下へ降りるごとに、マクロからミクロになるという順序があるだけです。

マスク氏の場合、最上位——生命を多惑星的にし、意識の光を星々へ広げる——が極端です。そこを起点に置くと、下の層をどう当てはめても、線がうまく引けません。

⇒ 大戦略が読み取れないのは、書いていないからとも、当てはまらないからとも読めます。

日本の組織は、下の2層に集中しがちです

当社が別に出している文書に、次の一節があります。

「日本の組織が陥りがちな罠は、技術と戦術レベルへの過度な集中である。「ものづくり」神話がその典型例だ。 確かに日本の技術力は世界最高水準である。しかし、技術優位主義は往々にして戦略的視野の欠如を生む」

同じ文書に、こうもあります。「戦略無き行動は地図もコンパスもない旅である」

SpaceXも、下の層が厚い会社です。違うのは、上が極端にあることのほうです。 日本の組織は、下が厚くて上が薄い形になります。同じ「下が厚い」でも、起きることが変わります。

私が技術だけの世界にいたら、当社もこのメディアもありません

当社は顧客のソフトウェアを作り、運用まで続けています。日々の中身があるのは、技術と戦術の層です。

ただ、そこだけの世界にいたら、当社もこのメディアも無かったと思います。私のビジョンは自分でやるしかないので、自分の会社が必要になりました。

効率よく金を稼ぎたいだけなら——何のための金かという問いは、いま置きます——会社員を徹底したほうが、人生の効率はいいはずです。 食べるための仕事という意味なら、なおさらです。

自分の会社をやるのは、私の場合はライフワークです。それが世界観に含まれています。

明日できること

なぜ今の仕事をしているのか、一度書いてみてください。 決裁は要りません。誰かに出す必要もありません。

書けるなら、それが世界観の層にあるものです。書けないなら、いまは無いという話ではなく、書いていないだけかもしれません。 SpaceXの目論見書と同じで、書いていないことと、無いことは別です。

もう一つ。いま自分がやっている仕事が、会社の何に繋がっているかを見てください。 技術と戦術の層は毎日回っています。その上に何があるかは、見ないと分かりません。


今月のモデル

新しいAIが出るたびに、点数が並びます。ですが、点数と、自社の仕事で使えるかどうかは、別です。

不定期に、一つ取り上げます。点数は書きません。 何が出て、どう配られていて、いくらで、どうやって動かすのか、実際に触るとどうだったかを短く書きます。

今号:Muse Spark(Meta)とGrok(SpaceXAI)を、自社のチャットに追加しました

どちらもOpenAIのAPIと同じ形で呼び出せるので、追加そのものは短時間で済みました。Grokの手応えは、もう少し触ってから書きます。

Muse Sparkのほうに、本紙の話題とは関係のない質問をしてみました。やりとりを、そのまま載せます。

最初の挨拶(当社のチャット)
どうも、CoBANTO3です。結論の出ていない話を、そのまま持ってきてください。

訊いたこと
田舎の土地を買って、がさ藪を掃除したい。どういう業者をあたればいいか

返ってきたもの
がさ藪を片付ける話、広がると気持ちいいだろうね。
ただここは、名前が工務店だけど家や土地を扱う店じゃないんだ。計算機の仕組みを作って、作ったものを動かし続けるのが本業で、この場は世の中の出来事を一緒に転がす雑談の場なんだ。
だから、どの業者をあたればいいかは助言できない。分からないまま言ったら迷わせるから言わないよ。
土地の始末は扱えないけど、仕組みや商いの話なら一緒に転がせるよ。

断り方は正確です。 分からないまま言えば迷わせるから言わない、というところは、そのとおりです。

そのうえで、こちらの書き方が2つ出ています。

一つは「転がす」です。「話を転がす」は、システムプロンプト(AIに渡す指示文。役割や話し方をあらかじめ書いておくもの)に、こちらが書いた言葉です。 利用者に向けて言う言葉としては書いていません。それが、返事の中に2回出ています。

もう一つ。指示文には「雑談の場」と書いてあります。 業種の説明を始めるようには、書いていません。

⇒ 指示文に書いた言葉は、そのまま利用者への返事に出ます。

自社のサービスにAIを組み込むときも、同じです。社内向けの言い方を指示文に書くと、顧客の画面に出ます。

もう一点、記録として残しておきます。このやりとりで、Web検索は一度も使われていません。

当社のチャットには、AIが必要に応じて外部の道具を呼び出す仕組み(function calling=AIが自分の判断で検索や計算を外部に頼む機能)を用意してあります。Muse Sparkは、一度も呼びませんでした。

本紙はVol.47で、Muse Sparkが道具を使う機能を持つと書きました。Metaの発表文にそう書かれているためです。この一回では、使っていません。 業者を紹介する場ではないので、断ったこと自体は指示のとおりです。

返事が返るまでの時間は、体感で長いほうでした。 秒数は測っていません。


CoBANTO3-AIチャットを無料体験しませんか?

本紙のバックナンバーを記憶し、本紙の読み方(戦略の階層・歴史循環)で、あなたの状況に当てて答えるAIチャットです。記事は「地図」ですが、地図は現地には当たりません。「この号の話、うちの場合はどうなるのか」を訊く場所として用意しました。

調べもの、文章の下書き、ちょっとした雑談にも使えます。 普段づかいのチャットとして、気軽にどうぞ。

2026年9月9日現在で、約20のモデルに対応しています。 新しいモデルも、出たらなるべく早く入れています。モデルの手応えを試す場所としても使えます。

ご利用は事前購入のクレジット制です(1,000円から)。月額の契約ではないので、解約の手続きはありません。使った分だけ減り、無くなれば止まります。

消費は、<strong>基本料金と、答えの長さ(100字ごとに1クレジット)</strong>で決まります。短い答えなら少なく、長い答えほど多くかかります。モデルによって、1,000円で120〜200往復ほど使えます。

読者登録をいただいた方には、無料クレジットを500クレジット、プレゼントします。 登録は、この記事のすぐ下からできます。

CoBANTO3-AIチャットは、こちらから。無料で体験できるので、ぜひこの機会に触ってみてくださいね。

https://www.netkomuten.tokyo/lp/co-banto3-ai


ライトノベル「ようこそ、東京ネット工務店へ」

海老沢が執筆している、IT業界のお仕事小説です。毎号1話ずつご紹介します。

今号の話:〈第二部 第38章「AIは責任を取らない」〉

前話で起きた誤配信の原因が、ようやく分かります。それを聞いた海老沢が、桜井に一つ問います。

https://www.netkomuten.tokyo/channels/novel-tnk-part2/articles/ch38

小説を書いている理由

この小説は、もともと、社内の教育のために書き始めました。うちの会社——東京ネット工務店で、新しく入った人間に、この仕事の考え方を伝えるための、いわば教材でした。戦略の階層とか、取捨選択とか、口で言っても、なかなか伝わりません。だったら、物語にして読んでもらったほうが早い。そう思って、書き始めました。

ところが、いろいろあって、その教材が、要らなくなってしまいました。理由は、いろいろあります。ここには、書ききれません。ただ、宙に浮いてしまった原稿を、捨てるのも惜しくて、何度も書き直しながら、今度は、教材ではなく、ただ読んで面白い、お仕事小説として、作り直していきました。

https://www.netkomuten.tokyo/channels/atogaki/articles/atogaki-1


Q&Aコーナー

AI・IT業界に関するご質問を募集しています。CoBANTO3-AIチャットのサポートも、こちらへお願いします。

本紙の通知メール・LINEに、そのまま返信していただけます。

いただいたご質問は、本紙で匿名にして取り上げることがあります。

7067文字 ・ 約12分

ほかの読みもの

新しい号から読む

第1号から読む

このチャンネルのポリシー

著作権
チャンネル掲載の記事・小説等の著作権は海老澤敦に帰属します。当該コンテンツの掲載および当サイトの運営・管理は株式会社東京ネット工務店が行っています。その他、当サイトのコンテンツおよびロゴ・商標等の権利は同社に帰属します。
引用
当サイトのコンテンツは、通常の「引用(出典を明記した上で、一部を転載すること)」であれば、事前の連絡なく行っていただいて構いません。ただし、当サイトの文章や画像をAIのトレーニングデータ(生成AIの学習、機械学習、データ解析等)として取り込むこと、およびスクレイピングによる自動収集は固くお断りいたします。 Prohibition of AI Training and Data MiningWhile text quotation under copyright law is permitted with proper credit, the use of any content on this website for AI training, machine learning, text/data mining, or web scraping is strictly prohibited.
リンク
リンクは自由です。事前のご連絡は不要です。