最近のxAIを追っていなかったので、追います。
① 事実
xAIは、SpaceXに買われていました
SpaceXは2026年2月2日、xAIを買収したと発表しました。上場目論見書では「xAI Merger」と呼ばれています。
その前にもう一段あります。xAIは2025年3月28日に、X(旧Twitter)を買収していました。 目論見書はこちらを「X Merger」と呼び、どちらも共通支配下の取引だとして、過去の期間の数字も遡って合算しています。
開発者向けの文書の置き場も変わりました。docs.x.ai を開くと、ページの名前が「SpaceXAI Docs」になっています。
SpaceXは、5億5,555万5,555株を1株135ドルで売り出します
2026年6月3日付の目論見書(PRELIMINARY PROSPECTUS)に、売り出す株数と想定価格が書かれています。掛けると、約750億ドルです。
上場後もマスク氏が議決権の過半を持ち続けると明記され、目論見書は自社を「controlled company(支配された会社)」と分類しています。上場先はナスダックで、銘柄コードは「SPCX」を申請中です。
<strong>「現在、当社のクラスA普通株に公開市場は存在しない」</strong>とも書かれています。ただし、株そのものは動いていました。2025年、会社は資本の売却で74.20億ドルを受け取り、xAIの買収後に38.38億ドル分を買い戻しています。前年も57.06億ドルを受け取っていました。
⇒ 売り買いはありましたが、公開市場はありませんでした。 上場は、そこに市場ができるという話です。
AI部門は、売上32億ドルに対して営業損失63億ドルです
事業は3つに分かれています。2025年通年の数字です。
| 売上 | 営業損益 | |
|---|---|---|
| 宇宙(Space) | 40.86億ドル | −6.57億ドル |
| 接続(Connectivity) | 113.87億ドル | +44.23億ドル |
| AI | 32.01億ドル | −63.55億ドル |
稼いでいるのはStarlinkを含む接続で、売上は前年から49.8%増えています。
設備投資を見ると、順番が入れ替わります。2025年のAI部門は127.27億ドル。 宇宙38.32億ドルと接続41.78億ドルを足した額より、大きい数字です。2026年1〜3月期はAIが77.23億ドルで、他の2つの合計の3倍近くになっています。
Xは「AIのための配布とデータのエンジン」と書かれています
目論見書の用語集に、Xの定義があります。
「Xとは、当社のリアルタイム情報・娯楽・言論の場であり、AIエコシステムのための基盤的な配布とデータのエンジンとして機能する」
利用者の数え方も、そこに合わせてあります。GrokとXの利用者を合算して1つの数字にし、両方を使う人は二重に数えない、と定義されています。その数字が、2026年3月末で5.5億人。
うち、GrokのAI機能を使ったのは1.17億人です。(2025年末は0.89億人)
実行の手順が、5段階で書かれています
目論見書には「The Algorithm」という名前で、社内の実行手順が載っています。
⑴ 要求を、より愚かでないものにする
⑵ 不要な工程や部品を削除する(「最良の部品は、部品が無いこと」)
⑶ それから、必要な工程や部品を最適化する
⑷ サイクル時間を速める
⑸ 最初の4段階を終えたあとで、実証された工程だけを自動化する
事業の作り方も7段階で書かれていて、その5番目が「最終顧客まで、すべて垂直統合する」です。部品も、それを作る工具も自社で作る、と説明されています。
② 構造
本紙が使っている階層に、SpaceXを置いてみます
本紙はVol.22で、戦略の階層を上から順に並べました。
SpaceXの目論見書を、この順に読んでいきます。
世界観は、目論見書の最初に書かれています
冒頭にミッションがあります。
「生命を多惑星的なものにし、宇宙の真の姿を理解し、意識の光を星々へ広げるために必要な、システムと技術を作ること」
Grokの定義も、そこに繋がっています。「真実を探すAIモデル」であり、創業者の「人類が宇宙を理解できるようにする」という使命の上に作られている、と書かれています。真実を探すとは何かの定義まで、目論見書に載っています。
実行の手順は、社外の人が真似できる形で書かれています
The Algorithmの5段階。7段階の事業の作り方。垂直統合。採用は2%以下。どれも、社外の人が読んで真似できる形で書かれています。
土台の側も具体的です。年100回を超える打ち上げ、軌道への投入質量の8割超、99%を超える成功率。
⇒ 階層の下半分は、埋まっています。
世界観と実行の間にある大戦略が、読み取れません
残るのは、思想と実行の間です。誰に対して、何であろうとするのか。
事業戦略に当たるものは書かれています。Grok Business、Grok Enterprise、Grok API、政府向けのxAI Gov。Cursorとの提携で、共同所有のコーディング用モデルを作る可能性も書かれています。
ただし、それらを束ねて何になろうとしているのかは、書かれていません。
自社の説明として置かれているのは、この一文です。
「本質において、我々は作る者です」
「作る者である」は、誰に対してかを言っていません。宇宙・接続・AIの3つにまたがる統合基盤を作っている唯一の会社だ、とも書かれていますが、それは何を作っているかの説明です。
ここで、書いていないことと、無いことは分けます。上場すると、書かなければならない項目が決まります。 この目論見書は、その義務の中で会社が自分を説明したものです。義務のある項目と、書かない自由のある部分があります。大戦略が無いのか、書いていないだけなのかは、この書類からは分かりません。
株の売り買いは、公開市場が無かった頃から続いていました。変わったのは、外から読める書類が出てきたことのほうです。 その書類で、実行の手順は5段階まで書かれ、大戦略は読み取れない形になっています。
本紙が前号まで見ていたのは、逆の形でした
Vol.47とVol.48で、Metaを2号続けて扱いました。あちらは世界観(個人のための超知能)と製品(Muse Spark、Llama)が並んでいて、その間が読み取りにくい形でした。
SpaceXは、実行の手順のほうが厚く書かれています。同じ「読めない層がある」でも、空いている場所が違います。
金額を並べると、桁が違います
前号で扱ったMetaの数字と、並べてみます。
Metaの2026年4〜6月期の売上は608億ドルでした。SpaceXの2025年の1年ぶんの売上は、3つの事業を足して186.74億ドルです。 Metaの3か月が、SpaceXの1年の3倍を超えています。
設備投資のほうが開いています。Metaは通年で1,300〜1,450億ドルの見通し。SpaceXは2025年に207.37億ドルでした。 6倍から7倍の差です。
事業の中身が違うので、これは優劣の話ではありません。片方は広告で稼ぎ、片方はロケットと通信とAIを回しています。ただし、どちらもフロンティアと呼ばれる規模のAIモデルを自社で作っています。 その部分だけを見ても、SpaceXのAI部門の設備投資は127.27億ドルで、Metaの通年見通しとは1桁違います。
⇒ 同じものを作るのに、使っている金の桁が違います。
これがThe Algorithmの2番目——不要なものを削除する——から来ているのかどうかは、目論見書からは分かりません。SpaceXは2025年に49.37億ドルの純損失を出しています。 効率がよいのかどうかは、この数字だけでは判断できません。
残るのは、印象のほうです。前号のMetaは、全項目が伸びているのに伸びている会社に見えない、という話でした。こちらは逆を向いています。損失を出していて、それでも縮んで見えません。
⇒ 2号とも、数字と印象が合っていません。
③ 自分事
世界観が極端だと、階層に当てはめること自体が難しくなります
「本質において、我々は作る者です」の一文は、置き場所が一つに決まりません。原則(上から2階層目=戦略を決める前提条件)とも読めますし、事業戦略(4階層目=事業への向き合う姿勢と目標)とも読めます。
階層は、どこに何を書くかが決まっているものではありません。上から下へ降りるごとに、マクロからミクロになるという順序があるだけです。
マスク氏の場合、最上位——生命を多惑星的にし、意識の光を星々へ広げる——が極端です。そこを起点に置くと、下の層をどう当てはめても、線がうまく引けません。
⇒ 大戦略が読み取れないのは、書いていないからとも、当てはまらないからとも読めます。
日本の組織は、下の2層に集中しがちです
当社が別に出している文書に、次の一節があります。
「日本の組織が陥りがちな罠は、技術と戦術レベルへの過度な集中である。「ものづくり」神話がその典型例だ。 確かに日本の技術力は世界最高水準である。しかし、技術優位主義は往々にして戦略的視野の欠如を生む」
同じ文書に、こうもあります。「戦略無き行動は地図もコンパスもない旅である」
SpaceXも、下の層が厚い会社です。違うのは、上が極端にあることのほうです。 日本の組織は、下が厚くて上が薄い形になります。同じ「下が厚い」でも、起きることが変わります。
私が技術だけの世界にいたら、当社もこのメディアもありません
当社は顧客のソフトウェアを作り、運用まで続けています。日々の中身があるのは、技術と戦術の層です。
ただ、そこだけの世界にいたら、当社もこのメディアも無かったと思います。私のビジョンは自分でやるしかないので、自分の会社が必要になりました。
効率よく金を稼ぎたいだけなら——何のための金かという問いは、いま置きます——会社員を徹底したほうが、人生の効率はいいはずです。 食べるための仕事という意味なら、なおさらです。
自分の会社をやるのは、私の場合はライフワークです。それが世界観に含まれています。
明日できること
なぜ今の仕事をしているのか、一度書いてみてください。 決裁は要りません。誰かに出す必要もありません。
書けるなら、それが世界観の層にあるものです。書けないなら、いまは無いという話ではなく、書いていないだけかもしれません。 SpaceXの目論見書と同じで、書いていないことと、無いことは別です。
もう一つ。いま自分がやっている仕事が、会社の何に繋がっているかを見てください。 技術と戦術の層は毎日回っています。その上に何があるかは、見ないと分かりません。
今月のモデル
新しいAIが出るたびに、点数が並びます。ですが、点数と、自社の仕事で使えるかどうかは、別です。
不定期に、一つ取り上げます。点数は書きません。 何が出て、どう配られていて、いくらで、どうやって動かすのか、実際に触るとどうだったかを短く書きます。
今号:Muse Spark(Meta)とGrok(SpaceXAI)を、自社のチャットに追加しました
どちらもOpenAIのAPIと同じ形で呼び出せるので、追加そのものは短時間で済みました。Grokの手応えは、もう少し触ってから書きます。
Muse Sparkのほうに、本紙の話題とは関係のない質問をしてみました。やりとりを、そのまま載せます。
最初の挨拶(当社のチャット)
どうも、CoBANTO3です。結論の出ていない話を、そのまま持ってきてください。訊いたこと
田舎の土地を買って、がさ藪を掃除したい。どういう業者をあたればいいか返ってきたもの
がさ藪を片付ける話、広がると気持ちいいだろうね。
ただここは、名前が工務店だけど家や土地を扱う店じゃないんだ。計算機の仕組みを作って、作ったものを動かし続けるのが本業で、この場は世の中の出来事を一緒に転がす雑談の場なんだ。
だから、どの業者をあたればいいかは助言できない。分からないまま言ったら迷わせるから言わないよ。
土地の始末は扱えないけど、仕組みや商いの話なら一緒に転がせるよ。
断り方は正確です。 分からないまま言えば迷わせるから言わない、というところは、そのとおりです。
そのうえで、こちらの書き方が2つ出ています。
一つは「転がす」です。「話を転がす」は、システムプロンプト(AIに渡す指示文。役割や話し方をあらかじめ書いておくもの)に、こちらが書いた言葉です。 利用者に向けて言う言葉としては書いていません。それが、返事の中に2回出ています。
もう一つ。指示文には「雑談の場」と書いてあります。 業種の説明を始めるようには、書いていません。
⇒ 指示文に書いた言葉は、そのまま利用者への返事に出ます。
自社のサービスにAIを組み込むときも、同じです。社内向けの言い方を指示文に書くと、顧客の画面に出ます。
もう一点、記録として残しておきます。このやりとりで、Web検索は一度も使われていません。
当社のチャットには、AIが必要に応じて外部の道具を呼び出す仕組み(function calling=AIが自分の判断で検索や計算を外部に頼む機能)を用意してあります。Muse Sparkは、一度も呼びませんでした。
本紙はVol.47で、Muse Sparkが道具を使う機能を持つと書きました。Metaの発表文にそう書かれているためです。この一回では、使っていません。 業者を紹介する場ではないので、断ったこと自体は指示のとおりです。
返事が返るまでの時間は、体感で長いほうでした。 秒数は測っていません。
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海老沢が執筆している、IT業界のお仕事小説です。毎号1話ずつご紹介します。
今号の話:〈第二部 第38章「AIは責任を取らない」〉
前話で起きた誤配信の原因が、ようやく分かります。それを聞いた海老沢が、桜井に一つ問います。
https://www.netkomuten.tokyo/channels/novel-tnk-part2/articles/ch38
小説を書いている理由
この小説は、もともと、社内の教育のために書き始めました。うちの会社——東京ネット工務店で、新しく入った人間に、この仕事の考え方を伝えるための、いわば教材でした。戦略の階層とか、取捨選択とか、口で言っても、なかなか伝わりません。だったら、物語にして読んでもらったほうが早い。そう思って、書き始めました。
ところが、いろいろあって、その教材が、要らなくなってしまいました。理由は、いろいろあります。ここには、書ききれません。ただ、宙に浮いてしまった原稿を、捨てるのも惜しくて、何度も書き直しながら、今度は、教材ではなく、ただ読んで面白い、お仕事小説として、作り直していきました。
https://www.netkomuten.tokyo/channels/atogaki/articles/atogaki-1
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