CoBANTO3-AI

創刊準備号 Vol.40 / 「単なるAIの組み込み・代替にとどまることなく」(経産省の資料)——うちが入れたのは、道具か、仕組みか?

去年入れたAIを止めたら、元のやり方に戻れますか。

2026年09月01日 一般公開

2026年9月1日/株式会社東京ネット工務店 海老沢敦

① 事実

経産省は「AIによるビジネスモデル転換」をAXと呼んでいます

2026年3月5日、経済産業省の産業構造審議会(有識者会議)新機軸部会で、事務局が資料を出しています。その日の議題は「『新技術立国・競争力強化』の実現等に向けた課題と政策の方向性について」でした。

資料に、定義が書かれています。

①AIによるビジネスモデル転換(AIトランスフォーメーション=AX)

同じページに、こうもあります。

AIが経済社会に与えるインパクトは甚大であり、あらゆる経済・社会基盤(OS)は、AIを中心に置いた形で再構築することが必要となる。

OSは、資料が使っている言葉です。 経済と社会の土台、という意味で使われています。

政策の5つの方向性が並び、その5番目が「地方を出発点としたAXによる産業構造・就業構造転換」です。

資料には「単なるAIの組み込み・代替にとどまることなく」と書かれています

同じ資料の、企業経営についての節です。

あらゆる産業においてAIの実装が急務となっていることは論を俟たないが、競争力強化に向けては、既存の事業活動・企業行動への単なるAIの組み込み・代替にとどまることなく、AIをはじめとしたデジタル技術を活用し、ビジネスモデルや業務プロセス、さらには企業の基幹システム、経営のあり方を非連続的に変革し続けることが必要。
タグ=制度, 運用

続く一文は、こうです。

しかし、日本企業はこうした変革は総じて不得意であり、デジタル敗戦の歴史を鑑みれば、AXの波に乗り遅れるリスクもある。

⚠️ 「デジタル敗戦」は資料の言葉です。 本紙の評価ではありません。

福田映美委員は、DXとAXをこう区別しました

同じ日の議事録にある発言です。 福田映美委員は日本共創プラットフォームのマネージングディレクターで、地方の中小企業の現場にいる立場として話しています。

DXはある意味、ITだったり、デジタル化を用いて、省人化や業務効率化を推進していくということと理解していますが、AXは、AIがあることを前提に、企業の意思決定の仕組みそのものだったり、サービスだったらサービス提供の仕組みそのものを再設計していくことかなと思っています。

⭐ 区別は、道具ではありません。 どちらもAIやITを使います。違うのは、何を変えるかです。

落合陽一委員は「水の温度」と「水蒸気」で言い分けました

同じ日、落合陽一委員(メディアアーティスト)が、資料の書き方についてこう言っています。

今回のフレームワークは、頑張ってつくったなと思っているのですけれども、AIが入ってきたことによって、ソフトウェアを作る速度が上がったような、例えば蒸気で言うと、水の温度が上がったぐらいの変化を書かれている。ただ問題は、水が水蒸気に変わるぐらいの変化が起こるというのが、AI事案に対しては変わってくるところだなと私は思っています。

⭐ 温度が上がるのと、水が水蒸気になるのは、別の変化です。 前者は同じものが速くなること、後者は状態そのものが変わることです。

落合委員は、この部会について「今回、AXというのが中心的なテーマだと私は思っている」とも言っています。

「サービス産業こそAXの主戦場」——就業者の50%強がそこにいます

福田委員は、続けてこう言っています。

日本の就業構造を踏まえますと、サービス産業こそAX、産業構造転換の主戦場になるのではないかと思っております。……日本の就業者の50%強はエッセンシャル産業に係るサービス業に関わっており、地方ではその割合がさらに高くなっています。

実際に製造業企業を中心としているような地域においても、その地域の存続を支えているのは医療だったり、介護だったり、小売、物流等のサービス企業かなと思っていますので、この分野の生産性と付加価値が上がらない限りは、日本全体の産業構造は実質的に変われないのではないかなと思っております。

エッセンシャル産業は、生活に欠かせないサービスを担う産業のことです。

⚠️ 部会の議論は、半導体などの成長戦略産業が中心でした。 その中で出た発言です。

出典(一次情報):

  • 経済産業省「事務局説明資料」(2026年3月5日/第30回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 資料1)https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/030_01_00.pdf
    • AXの定義=「AIによるビジネスモデル転換(AIトランスフォーメーション=AX)」(14ページ「『新技術立国・競争力強化』総論」)/「あらゆる経済・社会基盤(OS)は、AIを中心に置いた形で再構築することが必要」/5つの方向性の5番目=「地方を出発点としたAXによる産業構造・就業構造転換」
    • 企業経営の節(19ページ)=「既存の事業活動・企業行動への単なるAIの組み込み・代替にとどまることなく……非連続的に変革し続けることが必要」/「日本企業はこうした変革は総じて不得意であり、デジタル敗戦の歴史を鑑みれば、AXの波に乗り遅れるリスクもある」
  • 議事録(同部会・第30回)https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/030_gijiroku.pdf
    • 福田映美委員(日本共創プラットフォーム マネージングディレクター)=DXとAXの区別/「サービス産業こそAX、産業構造転換の主戦場」/「就業者の50%強はエッセンシャル産業に係るサービス業」
    • 落合陽一委員(メディアアーティスト)=「今回、AXというのが中心的なテーマだと私は思っている」/「水の温度が上がったぐらいの変化を書かれている。ただ問題は、水が水蒸気に変わるぐらいの変化が起こる」
  • 委員名簿(同部会)https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/030_00_02.pdf
  • ⚠️ 当社が確かめていないこと=「就業者の50%強」の算出根拠。発言のとおりに引いています。

② 構造

道具を入れる話と、仕組みを作り直す話です

AIを入れる、という言い方には、二つの中身が混ざっています。

  • いまのやり方を、速くする。 見積書を作る時間を半分にする。問い合わせの一次返信を自動にする。
  • やり方そのものを、作り直す。 誰が何を決めるかを、AIがある前提で組み直す。

前者を、資料は「単なるAIの組み込み・代替」と呼んでいます。 後者が、AXです。

⚠️ どちらも悪い話ではありません。 見積が速くなれば、その分の時間は空きます。ただし、空いた時間に何が起きるかは、別の話です。

同じAIを入れても、残るものが違います

同じ道具を、同じ会社に入れたとします。

速くする目的で入れると、残るのは「速くなった作業」です。 手順は同じ。決める人も同じ。AIを止めれば、元に戻ります。

仕組みを作り直す目的で入れると、残るのは「新しい決め方」です。 誰が何を見て決めるかが変わっている。AIを止めても、前のやり方には戻りません。

⭐ 判定は、導入した後に分かります。 使うのをやめたとき、元に戻るかどうか。

本紙はVol.38で、仕事の定義を書き直す話を書きました

本紙はVol.38で、職種の話を書きました(ソフトウェアを書けることを「英語職」のような枠にせず、いまある仕事の定義に入れる、という話です)。あれは職務の定義でした。

今回は、仕事の仕組みです。 同じ形をしています。足すのか、作り直すのか。

⭐ 足し算は、元に戻せます。 作り直しは、戻せません。戻せないほうが、AXと呼ばれています。

50%強がいる場所は、半導体工場ではありません

部会の議論の中心は、半導体などの成長戦略産業でした。 官民投資ロードマップの17分野。

その中で、委員が別の場所を指しています。 就業者の50%強がいるのは、医療、介護、小売、物流。製造業が中心の地域でも、その地域を支えているのはそこだ、と。

⚠️ 投資の話と、人がいる場所は、別々に動いています。 金は17分野へ、人はサービス業に。本紙はVol.39で、世界のAI支出2.59兆ドルの45%超がインフラに張られている、と書きました(土台に金が集まり、応用は遅れて広がる、という話です)。同じ形が、国内にもあります。


③ 自分事

取引先が認識していない作業を、AIで片付けています

当社は、法人向けのサブスクリプションのサービスをやっています。 説明が難しい形ですが、近いのは、コンサルや顧問がソフトウェアも書く形です。

中身は、お客様の業務課題を解決すること。 顕在化しているものも、まだ言葉になっていないものも扱います。その手段としてソフトウェアを作り、AIは取り入れられるだけ取り入れます。もちろん、お客様の承諾のうえでです。

⭐ 顧問は、お客様が気づいていないことを見つけるのが仕事です。 当社の場合、見つけたものを、その場で作ってしまいます。

例を一つ。 CMS(サイトの中身を更新する仕組み)で、SEO(検索されたときに上位へ出るための設定)をどうするか。

「SEOの設定をAIにやらせます」とは言いません。 AIで処理してしまいます。

⚠️ 黙ってやっているのではありません。 お客様は、SEOの設定という作業があること自体を認識していません。 認識されていない領域を、こちらで片付けています。

⭐ だから、お客様はSEOを学びません。 学ぶ必要が無くなるとまでは言いませんが、あえて学ばず、知らないままで、効果は出ます。

AXは、発注の形では来ません

頼まれる形は、だいたい決まっています。 「この作業を自動化したい」「この入力を減らしたい」「問い合わせの返信を速くしたい」。

⭐ どれも、いまのやり方を前提にしています。 速くする話です。「決め方を作り直したい」という発注は、ほとんど来ません。

理由は単純だと思っています。 発注書に書けるのは、いまある作業だからです。「見積書の作成」は書けます。「誰が何を決めるか」は、書けません。

⇒ だから、こちらで染みこませます。 頼まれた機能の中に、入れてしまう。

取引先から見ると道具、当社から見ると仕組みです

同じ導入が、立つ場所で違って見えます。

  • 取引先から見ると、そこに作業があったこと自体が見えていません。やり方は同じです。 何も増えていないように見えます。
  • 当社から見ると、その機能をAIがある前提で作り直しました。元の作り方には戻せません。

⭐ 認識されていない作業なので、取引先は学びません。 学ばないので、使い方を間違えません。

⚠️ AIの導入がうまくいかない理由の一つは、ここだと思っています。 「AIを使ってください」と渡すと、渡された人が学ぶ必要が出ます。 学ぶ時間を持っていない人のところでは、使われないまま残ります。

その先に、売り物そのものを作り替える形があります

染みこませるのは、いまある機能の中です。 その先があります。

取引先が持っている、外に出していない情報。 業界の中でしか通じない知見、長年たまった実務の記録、社内にしかない台帳。これまでは、社内で使うだけのものでした。

それを、AIが読める形に整えます。 そのうえで、その情報を使えること自体を、サービスとして売る形を作ります。

⭐ 作業を速くしたのではありません。売り物が変わっています。

⚠️ ①で引いた定義に当てはめると、この形がAXです。 「AIによるビジネスモデル転換」。「単なるAIの組み込み・代替にとどまることなく」の、とどまらなかった先です。

⭐ 元手は、取引先がすでに持っていたものです。 新しく集めた情報ではありません。社内で使うだけだったものが、外へ出せる形になっただけです。

判定は「使うのをやめたら、元に戻るか」です

自社の導入がどちらだったかは、簡単に判定できます。

そのAIを、明日から止めたとします。

  • 元のやり方に戻れるなら、道具でした。 遅くはなりますが、仕事は回ります。
  • 戻れないなら、仕組みが変わっています。 前のやり方を知っている人が、もういないかもしれません。

⚠️ どちらが良いという話ではありません。 道具として入れたなら、それでいい。問題は、仕組みを変えたつもりでいて、実は道具だった場合です。

数人の会社では社長が決め方を持っています。数十人になると、決め方は書類の中にあります

数人の会社では、決め方は社長の頭の中にあります。 当社もそうです。だから、作り直すのも社長です。 その日から変えられます。

数十人になると、決め方は書類と手順の中にあります。 承認の順番、様式、締めの日。AIを入れても、その書類が残っていれば、決め方は変わりません。

⭐ 「AIを入れたのに、何も変わらない」と言われる会社は、たいてい書類が残っています。

明日できること

決裁は要りません。止めてみる想像と、書き出すだけです。

  1. 去年入れたAIを、明日から止めたと想像する。 元のやり方に戻れるか。 戻れるなら、道具として入っています。
  2. その導入で、誰が何を決めるかが変わったか書き出す。 変わっていなければ、速くなっただけです。
  3. 速くなって空いた時間に、何が入ったか訊く。 別の仕事で埋まっていれば、それも道具です。
  4. 承認の順番と様式を、いつ最後に変えたか確かめる。 AIを入れた日より前なら、決め方は変わっていません。
  5. 自社が持っていて、外に出していない情報を3つ挙げる。 業界の中でしか通じない知見、長年の記録、社内にしかない台帳。売り物になるかどうかは、その後の話です。まず、あるかどうかを数えます。
  6. 自社が医療・介護・小売・物流のどれかに関わっているなら、資料の該当箇所を見る。 委員が「主戦場」と呼んだのは、その場所です。

最初の問いに戻ります。 うちが入れたのは、道具か、仕組みか。判定は、止めてみれば分かります。 戻れるなら道具です。戻れないなら、もう作り直しています。


今月のモデル

新しいAIが出るたびに、点数が並びます。ですが、点数と、自社の仕事で使えるかどうかは、別です。

今号は、新ネタ無しです。


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ライトノベル「ようこそ、東京ネット工務店へ」

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今号の話:〈第二部 第30章「賭ける」〉

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