CoBANTO3-AI

創刊準備号 Vol.03 / 消えた梯子の一段目——エントリーレベルの仕事は、戻らない

新人の仕事は、なぜ戻ってこないのか。

2026年07月19日 一般公開

2026年7月19日/株式会社東京ネット工務店 海老沢敦

① 事実

新卒・未経験向けの初級職(エントリーレベル職)が崩れている。Z世代の受け止めは厳しい。

  • <strong>78%</strong>が、AIをキャリア初期の機会に対する大きなマイナス要因と見ている。
  • <strong>58%</strong>が、企業がAIを理由に新卒採用を減らしていると考えている。
  • 求職者の<strong>半数</strong>がAIを理由に将来のキャリアを再考し、<strong>15%</strong>はすでに進路を変えた。

(採用支援プラットフォームiCIMSの調査。Forbes JAPAN、2026年7月)

記事の主張はこうだ。「崩壊はAIのせいだけではない。本当の問題は、エントリー職を『雑用』で定義してきた職務設計にある」。 雑用——反復的な作業——こそAIが最も得意な領域だから、真っ先に消えた。ならば職務を戦略的に再設計すれば、初級職の一部は市場に戻ってくる。記事はそう締めくくる。AIプロジェクトの多くは期待通りに動かず、PoC(本格導入前の試験導入)の段階で止まっている。拙速な削減には揺り戻しが来る、と。

診断は鋭い。だが、結論には同意しない。

出典:

② 構造 — 「戻る」と「戻らない」は、どの階層で見るかで分かれる

記事は、振り子が戻るように読む。切りすぎた→反省が来る→一部戻る。これは循環の見方だ。短期の行き過ぎは、たしかに揺り戻す。

だが一段上の構造で見ると、別の絵が出る。

そもそもエントリー職は、二つのものの抱き合わせだった。<strong>〔誰かがやらねばならない雑用〕</strong>と、<strong>〔その作業を通じた暗黙の見習い育成〕</strong>だ。企業が新人に給料を払えたのは、雑用という目に見える産出があったからで、育成はそこに"おまけ"で乗っていた。

AIが食べたのは、この片方——雑用の側だけだ。すると束が割れる。育成の側は、それを担いでいた経済的な理由を失う。

ここで記事は「では育成の側だけを、戦略的な役割として再設計しよう」と言う。だが、即時の産出がない役割は、純粋なコストだ。それを広く抱える企業は、そう多くない。戻るとすれば、ごく一部の選抜された見習い枠(IBMのリスキリング=学び直しのような)だけ。万人に開かれていた入口の梯子は、戻らない。

記事は「職務の設計を直せば初級職は戻る」と言う。これは、仕事のやり方をどう組むかという戦術の階層の話だ。 だが一段上の構造の階層では、新人を雇う理由そのもの——雑用という、目に見える産出——が消えている。 この二つがぶつかったとき、上位の構造が勝つ。

③ 経営者の自分事

エントリーレベルの仕事は、戻りません。「再設計すれば戻る」は、優しい希望的観測です。

これは、あなたの会社の話です。記事の一文が正しい——「ハシゴの段を取り除くことは、リーダーシップの基盤を空洞化させる行為であり、それを『コスト削減』と呼んでいるにすぎない」。若手が雑用をこなす日々の中で、その事業を分かった人間が自然に育っていた。Vol.01で書いたとおり、AIが肩代わりできるのは書類や手順のところまでで、「この客はなぜこの条件なのか」「この工程はなぜこの順なのか」——書き残されていない事情を分かっている人間だけが、最後まで会社の側に残ります。 それが、こうやって現場で勝手に累積していたのです。

その自然に育つ場が、消えた。

だから、戻るのを待つのは筋が悪い。やるべきは、若手が"事業を分かった主体"に育つ経路を、雑用に頼らず、意図して作り直すことです。かつては、雑用をやる→現場が分かる→任される→もっと分かる、という輪が、放っておいても回っていました。これからは、この輪を意図して組まないと回りません。

これは、一社のコスト問題を超えています。社会全体が、「分かった主体」を育てる入口を失いつつある。だからこそ、中小の経営者が自社で意図的な育成の経路を持つことには、自社の得を超えた意味がある。

——明日、こう考えてみてください。「うちで、若手が事業を本当に分かった人間に育つ道は、雑用以外に何があるか」。雑用は、もう戻ってこない前提で。


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