2026年8月13日/株式会社東京ネット工務店 海老沢敦
① 事実
中小企業3,666社に、生成AIをどう使っているか聞いた調査があります。
商工中金が2026年1月に実施し、3月に公表したものです。設備投資の動向調査に付けて聞いているので、答えているのは経営の側です。
いちばん多かった答えは、これでした。
「会社での導入はなく、使用は個人の判断に任せている」——64.9%
タグ=統計, 運用
6割を超えています。
禁止しているわけでは、ありません
「会社での使用を禁止・制限している」は、1.4%でした。
ほとんどの会社は、止めていません。
そして、会社として入れてもいません。
止めてもいない。入れてもいない。
会社として何らかの形で前に進めている企業——調査ではこれを「生成AI積極活用層」と呼んでいます——は、<strong>31.1%</strong>でした。内訳はこうです。
- 自社専用のモデルやAIエージェントを導入:0.9%(=自社の仕事に合わせて作り込んだAI、または人が逐一指示しなくても自分で手順を判断して動くAI)
- 全社的にパッケージを導入:4.1%(=会社が契約した既製のAIサービスを、全社で使っている)
- 一部の部署やメンバーがパッケージを導入:11.2%
- 会社では導入していないが、個人が登録したAIを社内業務に使うことを推奨:14.9%
3割のうち、半分近くは「推奨しているだけ」です。
会社が入れると、増える使い方が変わります
まず、実際に何に使われているか。
- メール/報告書/議事録の作成・要約:74.0%
- デスクワーク作業支援・自動化:48.7%
- 戦略・計画策定の支援、アイディア出し:30.0%
- デザイン生成:29.3%
- 調べ物の効率化・代行:20.2%
- アプリ開発・プログラミング:16.9%
- 人材育成・社内研修:9.9%
- 現場業務/対人業務の支援・自動化:9.5%
事務系で、決まった形のある仕事が上位です。
そして調査は、これを「会社が導入している先」と「個人の利用を推奨しているだけの先」に分けて、差を出しています。
会社が入れると、増えるもの。
- デスクワーク作業支援・自動化:+14.5ポイント
- アプリ開発・プログラミング:+10.1
- 現場業務/対人業務の支援・自動化:+7.6
- メール/報告書/議事録:+4.4
- デザイン生成:+4.3
- 人材育成・社内研修:+4.0
会社が入れても、増えないもの。
- 戦略・計画策定の支援、アイディア出し:−1.4ポイント
- 調べ物の効率化・代行:−2.8ポイント
この二つだけ、符号が逆です。
会社が入れていないところのほうが、多く使われています。
効果の感じ方も、違います
積極活用層に「いまのところ、どう評価しているか」を聞いています。
- 経営への大きなインパクトあり:1.9%
- 効率化など、経営へのプラス効果あり:29.8%
- 有効な事例が出てきている:42.0%
- いまのところ効果はみられない:19.3%
- 評価はこれから/評価は行わない:7.1%
<strong>「経営へのプラス効果を感じている」は31.7%。</strong> 「有効事例が出てきている」まで含めると、<strong>なんらかポジティブな評価は73.7%</strong>です。
そして、会社導入と個人推奨で分けると、差が出ます。
- 会社として導入(592社):<strong>36.6%</strong>が経営へのプラス効果を感じている
- 個人の利用を推奨(534社):26.0%
10.6ポイントの差です。
悩みが、逆転しているところがあります
導入の課題/導入しない理由も聞いています。 そして使っている層(1,144社)と、そうでない層(2,522社)に分けています。
使っていない層に多い悩み。
- 具体的な活用場面が不明:使っていない層42.0% / 使っている層 21.5%
- 自社業務になじまない:29.5% / 6.1%
使っている層に多い悩み。
- 一部の部署や職員に、知識・ノウハウが偏る:使っている層24.7% / 使っていない層10.2%
- 業務プロセスに組み込めず、定着しない:16.3% / 10.0%
下の二つは、逆転しています。
もう一つ、両者でほとんど差がなかったものがあります。
「社内ルールや方針の整備が追い付かない」——使っている層24.8% / 使っていない層25.2%
ほぼ同じです。
経営課題の優先度も、聞いています
同じ調査で、経営課題の取り組み優先度を先に聞いています。
「重大な経営課題」と答えた割合は、こうでした。
- 直接部門の人手不足対応・業務効率化:39.7%
- 販路拡大:34.1%
- 社内人材の活用・教育・組織力強化:32.6%
- 仕入コスト・経費削減:27.0%
- 顧客価値の向上・ブランディング:19.4%
- 間接部門の人手不足対応・業務効率化:15.3%
- 新規事業開発:15.0%(取り組みは劣後、と答えたのが46.1%)
- ビジネスモデルの変革:10.5%(取り組みは劣後、が47.6%)
現場の課題が上に来て、経営そのものを変える話は下に来ています。
出典:
- 【一次・2026-08-13 全文確認済】商工中金「中小企業の生成AIの利用にかかる調査(2026年1月調査)」2026年3月31日公表
- 中小企業設備投資動向調査(2026年1月)の付帯調査。 n=3,666(生成AI積極活用層 n=1,144/積極活用層以外 n=2,522)。設備投資動向調査の付帯なので、回答者は経営の側。
- 導入状況(P4)=会社導入なし・個人の判断に任せる64.9%/禁止・制限1.4%/その他2.5%/積極活用層31.1%(自社専用モデル・AIエージェント0.9%+全社パッケージ4.1%+一部部署11.2%+個人利用の推奨14.9%)。
- 経営課題の優先度(P3)=直接部門の人手不足対応・業務効率化が「重大な経営課題」39.7%(+「経営課題のひとつ」45.6%)/新規事業開発15.0%(取組劣後46.1%)/ビジネスモデルの変革10.5%(取組劣後47.6%)。
- 評価(P5)=経営への大きなインパクト1.9%/プラス効果29.8%/有効事例42.0%/効果みられない19.3%/評価これから7.1%。「プラス効果を感じている」31.7%/「なんらかポジティブ」73.7%。 会社導入(n=592)36.6% vs 個人登録(n=534)26.0%=差10.6pt。
- 活用事例(P6)=メール/報告書/議事録74.0%/デスクワーク48.7%/戦略・計画策定30.0%/デザイン29.3%/リサーチ20.2%/アプリ開発16.9%/人材育成9.9%/現場業務9.5%/生成AIサービス開発3.4%。
- <strong>⭐ 会社導入−個人登録のpt差(P7)</strong>=デスクワーク<strong>+14.5</strong>/アプリ開発+10.1/現場業務+7.6/メール等+4.4/デザイン+4.3/人材育成+4.0/生成AIサービス開発+2.7/<strong>戦略・計画策定−1.4/リサーチ−2.8。</strong> <strong>符号が逆なのはこの2つだけ。</strong>
- 課題(P9・P10)=導入以前「具体的な活用場面が不明」35.6%/導入検討「推進する人材がいない」32.0%/導入後「社内ルールや方針整備が追い付かない」25.1%。
- 活用状況別(P10)=活用場面が不明(積極21.5% / 以外42.0%)/自社業務になじまない(6.1% / 29.5%)/知識・ノウハウが偏る(24.7% / 10.2%)/業務プロセスに組み込めず定着しない(16.3% / 10.0%)=この2つは逆転。 社内ルール整備が追い付かない(24.8% / 25.2%)=ほぼ同じ。
- ⭐ 経営課題×活用事例のリフト値(P8)=顧客価値の向上・ブランディング × 生成AIサービスの開発が最高(リフト2.22/共起24)。ビジネスモデルの変革 × 戦略・計画策定支援(1.40/共起77)。顧客価値の向上 × 戦略・計画策定支援(1.33/共起120)。⚠️ 本文では使っていない(②が散るため。別号の種として保持)。
- https://www.shokochukin.co.jp/report/data/assets/pdf/futai202603.pdf
- ⚠️ inboxの2本は、一次で確認した結果、どちらも使わなかった(2026-08-13)
- ❌ 三菱UFJリサーチ&コンサルティング経由の「人材不足63.4%/日常活用13%」——63.4%が一次で確認できない。 帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」(有効回答10,538社)にあるのは正社員50.6%/非正社員28.3%。MURC自体が集約物であり、数字はPDF内で本文には出ていない。 恒久ルール(集約レポートは一次ではない)に従い不採用。
- ❌ Leach「中小企業AI導入実態調査2026」——サンプルが「40社超(個人含む)」で、方法は「当社支援先企業へのヒアリング」。 導入率12%と大企業40%超は総務省白書・IPA白書・自社実績の混成。目玉の「顧問型先行で成功率3倍」は、定義・比較群・サンプル数・根拠データがいずれも非開示。 末尾はLeach自身の顧問サービス(月額5万円から)の宣伝。 調査ではなく営業資料と判断し、不採用。
- ⚠️ Vol.16・19・20に続く4例目だが、今回は種類が違う。 これまでは「数字が歪んでいた/出典が別文書だった」。今回は出典そのものの質が低かった。 → 一次に降りたら、はるかに良い素材(n=3,666の中小企業特化調査)が見つかった。
② 構造 — 「決めていない」は、決めたことになる
64.9%を、もう一度置きます。
会社での導入はなく、使用は個人の判断に任せている。
これは、態度を保留している状態に見えます。
ですが、保留は保留のまま置かれません。
禁止している会社は、1.4%です。
つまり、ほとんどの会社で、社員はもう使っています。 会社が決めていないだけで、現場では動いています。
そして、会社が把握していない使い方が、そこにあります。
本紙のVol.09で、こう書きました。
決めていないことは、決めていないまま、そこにある。
「個人の判断に任せる」というのは、決めていない、ということです。 そして決めていないあいだも、使用は進みます。
会社が入れると、増えるのは「作業」です
①の、符号が逆になった二つを、もう一度見てみます。
会社が導入すると増えるもの——デスクワークの自動化、プログラミング、現場業務の支援。
会社が導入しても増えないもの——戦略や計画を立てる支援、そして調べ物。
この二つだけ、個人が勝手に使っているほうが多いのです。
デスクワークの自動化には、道具の設定が要ります。 社内のデータに繋ぐ、決まった形式で出す、誰でも同じ結果になるようにする。これは、会社が入れないとできません。
一方、「この案件、どう進めるべきか」を相談するのは、一人でできます。 会社の承認も、設定も、要りません。
だから、会社が入れると作業のほうが伸びる。 そして考えることのほうは、会社が入れても、あまり変わらない。
ここで、本紙が繰り返し使っている「戦略の階層」に当てはめてみます。
上から順に、こうなっています。
世界観 — 原則 — 大戦略 — 事業戦略 — 行動 — 戦術 — 技術
まとめると、四つです。
- 思想(世界観・原則)=どこへ向かうか
- 企画・計画(大戦略・事業戦略)=何をやるか
- 実行(行動)=実際の仕事
- 土台(戦術・技術)=それを支える能力と環境
この四つに、①の数字を置いてみます。
会社が入れて増えたもの——デスクワークの自動化、プログラミング、現場業務の支援。
これは、実行と、その下の土台です。
会社が入れても増えなかったもの——戦略や計画を立てる支援、そして調べ物。
これは、企画・計画の層です。
会社が入れているのは、下の層です。
上の層は、会社の外で、個人が勝手にやっています。
経営に近い使い方ほど、会社の管理の外にある。
経営課題の優先度も、同じ形をしています
①の最後に挙げた数字です。
「重大な経営課題」として挙がったのは、<strong>直接部門の人手不足対応・業務効率化(39.7%)</strong>が最多でした。
<strong>一方で、新規事業開発は15.0%、ビジネスモデルの変革は10.5%。</strong> どちらも<strong>「取り組みは劣後」が46〜47%</strong>です。
現場の効率化は急ぐ。事業の形を変える話は、後回し。
これは、間違った判断ではありません。 目の前で人が足りていないなら、そちらが先です。
ただ——後回しにされた「新規事業開発」と「ビジネスモデルの変革」は、さきほどの階層でいうと、企画・計画の層です。
AIが入っていないのも、同じ層でした。
同じ層が、二重に空いています。
経営課題としても後回しで、そこにAIも入っていない。
そして、その層で使っている人は、社内にいます。会社が知らないだけです。
そして、悩みが逆転します
①で挙げた、逆転している二つです。
使っていない会社は、こう言います。
- 具体的な活用場面が分からない(42.0%)
- 自社の業務になじまない(29.5%)
使っている会社は、こう言います。
- 一部の部署や人に、知識が偏る(24.7%)
- 業務プロセスに組み込めず、定着しない(16.3%)
悩みの種類が、違います。
そして——後者の悩みは、使い始めないと手に入りません。
「偏る」も「定着しない」も、やってみて初めて出てくる問題です。「使い道が分からない」の段階では、そこまで行けません。
前に進むと、悩みが変わります。
悩みが変わっていないなら、進んでいません。
ただし、一つだけ、進んでも変わらないものがあります
「社内ルールや方針の整備が追い付かない」だけは、両者でほぼ同じでした。
使っている会社が24.8%、使っていない会社が25.2%。
つまり——使っていても、使っていなくても、ルールは追いついていません。
使い始めれば整う、というものではありません。
そして、ここで①の64.9%に戻ります。
6割の会社は「個人の判断に任せて」います。 ルールが無いまま、使用だけが進んでいる。そして、使い始めた会社でも、ルールは追いついていない。
どちらの側にいても、同じ穴が空いています。
②の芯を、一行にします。
「個人の判断に任せる」は、決めていないということ。そして決めていないあいだも、使用は進む。
会社が入れると増えるのは作業のほうで、経営に近い使い方は、会社の管理の外にある。
③ 経営者の自分事 — 私たちは、これを4回やっています
先に、自分の話から書きます。
私は、この30年近く、会社に新しいものが入るところを、内側から見てきました。 作る側としても、使う側としてもです。
そして、毎回、同じやり方をしてきました。