2026年8月25日/株式会社東京ネット工務店 海老沢敦
① 事実
セントルイス連邦準備銀行(米国の中央銀行にあたる連邦準備制度を構成する、地区の銀行の一つ)が、2026年7月31日に、こういう分析を出しました。
米国の上場企業が決算説明会(四半期ごとに、経営陣が投資家に向けて業績と見通しを説明する場)で、生産性について何を話しているか。それを25年分さかのぼって数えたものです。
対象は5,198社、約49万件の記録。期間は2000年から2025年。
49万件を、91万955文に分けました
手順は二段階です。まず、生産性に関わる語を含む文を機械で抜き出す。前後の文も一緒に取る。この段階は広く取っていて、「有意義な会議(productive meeting)」のような関係のない用例も混じると、連銀は書いています。
次に、抜き出した文を Qwen3-3B(中国のアリババが重みを公開しているQwen3シリーズの小型版。誰でもダウンロードして自分の環境で動かせます)に一つずつ渡し、三つを判定させます。
- その話にAIが関わっているか
- 生産性が上がると言っているか、下がると言っているか、変わらないと言っているか
- 話し手が、すでに起きたことを話しているか、これから起きることか
企業の生産性の話ではなかった文は、印をつけて落としました。 残ったのが91万955文です。
生産性について話した文のうちAIにも触れている文は、ChatGPTが出る前はほぼゼロでした。<strong>2025年末には約15%</strong>に達しています。
95%は、二つありました
この報告には「95%」が二つ出てきます。別の指標です。
一つ目は、いつの話をしているかです。 AIが絡む文は、2000年から2025年までを通して、約95%が「これから得られる利得」を指していました。 AIの出てこない生産性の話では、約4分の3です。 この比率は、2023年でも2025年でも同じでした。
<strong>二つ目は、上がると言っているか、下がると言っているかです。</strong> <strong>AIの出てこない話では、75%が「上がっている」、約20%が「変わらない」。</strong> AIが絡む文は<strong>95%が「上がる」</strong>で、下がったという記述は無視できる量しかありませんでした。
⚠️ 数字が同じなので混同されやすい形です。 比べる相手がどちらも75%前後なのは偶然で、この分析を報じた記事のなかには、二つを一つに混ぜているものがあります。
実際の生産性は、1年で0.07%でした
<strong>利用調整済みの全要素生産性</strong>——設備の増加でも人員の増加でも説明できない残りの伸びだけを取り出し、<strong>設備がどれだけ稼働していたかで補正した数字</strong>です——は、<strong>2026年第1四半期までの1年間で0.07%</strong>しか伸びていません。
語られている量は15%まで増え、そのうち95%が「上がる」と言い、実測は0.07%。
連銀が最後に書いたこと
AIは、企業が生産性をどう語るかを、すでに作り変えた。効果が集計された統計にはっきり見えていないとしても。
そのうえで連銀は、今後の決算説明会で、AIの生産性の話が「これから」から「すでに得られた」へ移るかどうかを監視し続けると書いています。いつ、何をもって答え合わせをするかを、書いています。
⭐ 連銀は注もつけています。 AIを前向きに語る企業は、実際に設備投資と研究開発も増やしていました(サンフランシスコ連銀による別の分析)。発言が増えただけでなく、支出も増えています。
同じ4人が、2年前にも分析しています
2024年9月30日、同じ連銀の、同じ著者を含む4人が、同じように決算説明会を分析した調査記事を出しています。手法は text-as-data(データとしてのテキスト)。測ったのは、量と、肯定的か否定的かでした——AIが出てくる文が5倍を超えて増えたこと、そのうち30%超が前向きな評価、10%が後ろ向きな評価だったこと。
⚠️ この2本の元記事は、サイトの改修でURLが失われています。 本紙はサンフランシスコ連銀に転載された版(2025年2月)で確認しました。
出典(一次):
- セントルイス連銀 On the Economy「AI and Productivity: What Firms Are Saying on Earnings Calls」(Serdar Ozkan/Aakash Kalyani/Nicholas Sullivan・2026年7月31日/5,198社・約49万件・91万955文・95%・約4分の3・15%・0.07%・二語の組み合わせ・引用した記述はすべて本文から) https://www.stlouisfed.org/on-the-economy/2026/jul/ai-productivity-what-firms-say-earnings-calls
- 【先行研究・2本/⚠️ 元記事のURLは消失。サンフランシスコ連銀への転載版で確認】
- 「AI Optimism and Uncertainty: What Can Earnings Calls Tell Us Post-ChatGPT?」(Kalyani/Ozkan/Bass/Dueholm・元=2024年9月30日/転載=2025年2月18日/text-as-data・5倍超・30%超と10%) https://www.frbsf.org/research-and-insights/publications/system-research-st-louis-fed/2025/02/ai-optimism-uncertainty-what-can-earnings-calls-tell-us-post-chatgpt/
- 「AI Hype or Reality? Shifts in Corporate Investment after ChatGPT」(同4人・元=2024年10月3日/転載=2025年2月4日/"cheap talk"・10-Kとの突き合わせ) https://www.frbsf.org/research-and-insights/publications/system-research-st-louis-fed/2025/02/ai-hype-or-reality-shifts-in-corporate-investment-after-chatgpt/
② 構造
連銀は、手順を全部書いています
米国の上場企業5,198社が、決算説明会で生産性について話した25年分の記録。それを分析したセントルイス連邦準備銀行の報告には、測られた側と、測った側がいます。
測られた側は、発言した経営陣です。生産性についての発言のうちAIが絡むものは、95%がこれからの話で、95%が「上がる」でした。
測った側は、連銀の3人。何をしたか。
- 対象を数えられる形にした(5,198社・49万件・91万955文)
- どう分類したかを開示した(二段階・使ったモデルの名前・判定させた三項目)
- 雑に取れてしまう例を、自分から書いた(「有意義な会議」が混じる)
- 何を落としたかを書いた(企業の生産性の話でなかった文)
- 自分たちの数字と、実測の0.07%を並べた
- いつ答え合わせをするかを書いた(今後の決算説明会で、「これから」が「すでに」に変わるかを見る)
⭐ 後から間違いを指摘できる形で書いています。
2024年10月、この連銀の同じチームは、経営陣の前向きな発言について「実際の導入を反映しているのか、単なる cheap talk(安い言葉)か」と問いました。確かめる相手に選んだのは、10-K——書き換えると法律に触れる書類です。
そのときの答えと、現在の答えは違っています。2024年の時点では、発言の急増と設備投資・研究開発の伸びが噛み合っていませんでした。2026年の報告の注では、AIを前向きに語る企業の投資が実際に高く伸びていたと書かれています。2年追ったから、変わったことが分かります。
答え合わせができる形と、できない形
「これから生産性が上がります」は、外れません。
いつまでに、どれだけ、何を測って上がるのかが入っていないからです。3年経って何も変わらなくても、まだ「これから」の途中だと言えます。95%は、この形を選んだ発言が積み上がった数字です。
決算説明会は投資家に向けた場で、見通しを語るのは仕事のうちです。2023年に95%だったのも分かります。出たばかりの道具について、実績を語れる会社は少ない。2025年も95%だったことが、この分析の中身です。
AI以外の話では、20%が「変わらなかった」と言えています
同じ決算説明会で、同じ経営陣が、AIに触れない生産性の話もしています。そちらでは、約20%が「変わらなかった」と言えています。 4分の1は、過去形か現在形で話せている。
AIが絡む文では、その割合が消えます。生産性一般については「今期は変わりませんでした」と言える人が、AIについては言っていません。
③ 自分事
連銀は、2年で調査のやり方を変えました
セントルイス連銀は、2年前にも同じように決算説明会を分析しています。 生産性についての発言を数えた点は同じで、やり方が違いました。
2024年の調査記事に、LLMは出てきません。手法は text-as-data と書かれているだけです。2026年の記事には、使ったモデルの名前が載っています。
| 2024年 | 2026年 | |
|---|---|---|
| 道具 | text-as-data | LLM(Qwen3-3B) |
| 測ったもの | 量(5倍超)/前向きか後ろ向きか(30%超・10%) | 話題 × 上がるか下がるか × いつの話か |
| 突き合わせた相手 | 10-K に載った投資額 | 実測の生産性(1年で0.07%) |
⚠️ 2024年に何を使っていたかは、記事に書かれていません。
前向きか後ろ向きかは、単語で取れます。「改善」は前向き、「懸念」は後ろ向き。いつの話かは、単語で取れません。「上がる」と「上がった」を分けるには、前後まで読む必要があります。
読める道具が無いあいだ、「95%がこれからの話だった」という問いは立ちません。
素材は、どちらも同じ49万件です。動いたのは問いのほうでした。
自社に、これが無いと成立しない仕事はありますか
当社で言えば、本紙の日次収集がそれです。毎朝、3軸で回しています。選別を人がやる前提なら、週1回、1軸にしていました。