中小企業の経営者の66.5%がAIの活用を「理解している」。フォーバルの研究所が9月28日に出したプレスリリースの見出しです。見出しは続けて、業務で活用している会社は36.9%にとどまると書いています。報告書の本編を開くと、二つの数字は選択肢の文言も割っている人数も違います。
① 事実
調査は、フォーバル GDXリサーチ研究所が6月に、全国の中小企業の経営者に訊いたものです。プレスリリースに出ているのは要約で、全14ページの報告書(ブルーレポート)が8月21日に公開されています。本編には、設問の選択肢と、設問ごとに誰に訊いたかが書かれています。そこから読むと、「理解」と「活用」の数字の意味が変わります。
フォーバルの研究所は、6月に中小企業の経営者1,653人に訊きました
フォーバル GDXリサーチ研究所は、中小企業向けに情報通信機器や経営支援のサービスを売っている株式会社フォーバル(東証スタンダード上場)が、2022年に立ち上げた研究所です。
調査は2026年6月1日から30日まで、ウェブのアンケートで行われ、有効回答は1,653人でした。対象は全国の中小企業の経営者です。
「理解している」66.5%のうち、43.8%は「自社事業への適用方法までは理解できていない」と答えています
最初の設問は、事業におけるAI活用をどの程度理解しているかです。「仕組みや活用メリットを深く理解し、業務にどう適用できるか把握している」が22.7%、「概要は知っているが、自社事業への適用方法までは理解できていない」が43.8%でした。残りは、関係がないので関心を持ったことがない15.7%と、わからない17.8%です。
見出しの66.5%は、はじめの二つを足した数です。そのうち43.8%は、<strong>「自社事業への適用方法までは理解できていない」</strong>という選択肢を選んだ人です。報告書の本文も、自社の業務への具体的な活用を理解している企業は2割程度にとどまる、と書いています。
「既に業務で活用」の36.9%は、1,099人のうちの割合です
2問目のAIの導入・活用状況は、1問目で上の二つを選んだ1,099人にだけ訊いています。結果は「既に業務で活用している」36.9%、「導入に向けて検討・試験運用している」20.1%、「必要だと思うが導入できていない」34.2%、「導入するつもりはない」8.7%でした。
回答者の1,653人全体で数え直すと、既に業務で使っているのは約406人で、<strong>およそ4人に1人</strong>です。
深く理解している人は80.8%が使っていて、概要だけの人は14.2%でした
報告書は、2問目の結果を1問目の答えで分けています。
「深く理解し、業務にどう適用できるか把握している」人では、80.8%が既に業務で使っていました。「概要は知っているが、自社事業への適用方法までは理解できていない」人では、既に使っているのは14.2%で、半分の50.4%が「必要だと思うが導入できていない」と答えています。
報告書は、導入の鍵になるのは実務での運用方法を具体的にイメージできるかどうかだ、と書いています。
使い道の上位は文書作成と調査で、答えたのは「深く理解して、使っている」303人です
使っている業務と、導入した理由を訊いた設問の回答者は303人です。1問目で「深く理解している」と答えた約375人のうち、既に使っている80.8%にあたります。報告書の効果の節には、この303人を「AIの仕組みや活用メリットを深く理解し、既に業務で活用している企業」と書いています。プレスリリースは、この限定を「既に業務で活用している企業」とだけ書いています。
使っている業務(複数回答)は、文書作成・要約・校正が71.9%、情報収集・調査が61.7%、企画案・アイデア出しが52.8%、営業資料・提案書の作成が50.5%でした。定型業務・入力作業の自動化は31.4%、現場作業・業務プロセスの自動化は27.4%です。
導入した理由は、業務効率化・工数削減が75.9%、生産性向上が67.7%でした。新規事業や新たな収益機会の創出は22.4%、競合他社との差別化は16.8%です。
使っているAIは、会社が管理しているサービスが47.2%、<strong>個人で登録したサービス</strong>が38.0%、両方の併用が13.5%でした。
導入できない376人の理由は、1位が人材、2位が「どの業務に使えるかわからない」でした
「必要だと思うが導入できていない」と答えた376人に、理由を訊いています(複数回答)。
専門知識・ノウハウを持つ人材がいないが53.7%、どの業務に使えるかわからないが47.9%、具体的な進め方がわからないが47.3%でした。費用対効果が不明確は25.5%、費用を確保できないは22.1%、セキュリティや情報漏洩のリスクは15.2%です。
出典:
- フォーバル GDXリサーチ研究所「〈2026年度第1回 中小企業経営実態調査〉政府が『日本AX』を掲げるなか、中小企業のAI活用に『理解から実践』への壁」(PR TIMES・2026年9月28日) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000096.000117855.html
- フォーバル GDXリサーチ研究所「中小企業の経営状況の変化への対応<3>~AI活用の実態と中小企業の取り組み~」(2026年8月21日) https://gdx-research.com/wp-content/uploads/2026/08/bluereport_202609.pdf
- 内閣府「人工知能基本計画」(2026年7月14日閣議決定) https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_plan/ai_plan.html
- 内閣府経済社会総合研究所「消費動向調査 主要耐久消費財等の普及率(全世帯)」(平成16年3月末現在) https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/0403fukyuritsu.xls
- 公益社団法人発明協会「戦後日本のイノベーション100選 ATM」 https://koueki.jiii.or.jp/innovation100/innovation_detail.php?eid=00069&age=stable-growth&page=keii
- セブン‐イレブン・ジャパン「沿革」 https://www.sej.co.jp/company/enkaku.html
- Drew Johnston, David Holtz, Alex Martin Richmond, Christopher Ong, Prasanna Tambe, Aaron Chatterji「The Shift to Agentic AI: Evidence from Codex」(arXiv・2026年6月25日) https://arxiv.org/abs/2606.26959
② 構造
フォーバルの調査で、AIを使っているかどうかを分けていたのは、自社のどの業務に当てるかを言えるかどうかでした。調査の設問そのものも、業務の一覧にAIを当てはめる形で組まれています。政府の人工知能基本計画は、同じAIを組織の単位で書いています。二つを戦略の階層で並べると、調査が測っている段が見えます。AIを多く使っている人の使い方を、利用の記録から調べた論文もあります。パソコンが家庭に広がったときの数字も、並べておきます。
「理解」と「活用」を分けていたのは、自社のどの業務に当てるかを言えるかどうかでした
フォーバルの調査で「理解している」の66.5%を二つに割ると、違いは一点です。自社の業務にどう当てるかを把握しているか、していないか。把握している22.7%は8割が使っていて、把握していない43.8%は1割台です。
導入できない理由の2位と3位も、「どの業務に使えるかわからない」「具体的な進め方がわからない」でした。1問目で43.8%が選んだ選択肢と、同じことを言っています。
プレスリリースは「理解から実践」への壁、と書いています。本編の数字からは、壁は理解と実践の間より手前、<strong>AIを一般論として知っていることと、自社の業務の名前で言えることの間</strong>にあると読めます。
使っている303人が挙げた使い道も、業務の一覧の中にありました
いちばん分かっている303人が挙げた使い道は、文書作成、調査、企画、資料作成でした。どれも、会社にもともとある業務の名前です。目的も、効率化と工数削減が上位で、差別化は16.8%です。
報告書の結びで、研究所長の平良学氏は「国が描く『変革』と現場の『効率化の手段』との間には、現状ではギャップがあると考えられる」と書いています。
政府の計画は、AIを業務より上の、組織の単位で書いています
内閣府の人工知能基本計画は、副題に「日本AX」を掲げ、具体的な取組の最初に「AIを基軸とした組織経営改革を促す」と書いています。制度や政策についても「AIを前提として再構築する」としています。本紙はVol.40で、経済産業省の審議会の議論から、DXは道具を入れる話、AX(AIトランスフォーメーション)は仕組みを作り直す話だと読みました。
戦略の階層で並べると、政府の計画は組織をどう組むかという戦略の段で書かれていて、調査の設問は、いまある業務のどれにAIを当てるかという戦術の段で訊いています。組織の組み方が変わる使い方は、「どの業務に使っていますか」という設問の選択肢には現れません。調査は6月に行われていて、7月14日の閣議決定より前です。
OpenAIの論文は、AIを多く使う人は「使い方の形が違う」と書いています
OpenAIの研究者が、コロンビア大学、ペンシルベニア大学ウォートン校、デューク大学の研究者と共著で、6月25日に論文を出しています。OpenAIのAIエージェント(人が逐一指示しなくても、自分で手順を判断して動くAI)「Codex」の利用の記録を、個人の利用者、会社で契約している利用者、OpenAIの社員の三つに分けて調べたものです。OpenAIが自社の製品と自社の社員を調べた論文なので、その前提で読む必要があります。
多く使う人はたまに使う人と<strong>質的に違って見える</strong>、と論文は書いています。具体的には、スキル(繰り返す仕事の手順や決まりごとを書いておき、AIに毎回読ませる仕組み)を使う、長く複雑な仕事を任せる、複数のエージェントを同時に動かす、の三つです。
同時に動かしているエージェントの数では、会社で契約している利用者の67.4%が、1週間のうちに一度も同時に動かしていませんでした。OpenAIの社員では、一つずつしか動かしていない人が10.7%で、28.6%が五つ以上を同時に動かしたことがありました。スキルを1週間に一度でも使った人は、会社で契約している利用者で30.4%、OpenAIの社員で96.2%です。
論文は結論で、AIの広がりは使う道具が変わることにとどまらず、AIを中心に仕事をどう組むかが変わることだ、としています。多く使う人の役割は、仕事を任せ、見て、確かめ、束ねる側へ移っている、とも書いています。そのうえで、利用者の数や会話の数のような、これまでのAI利用の測り方は、情報として役に立たなくなっていくかもしれない、と書いています。
パソコンは、世帯の半分に届くまで14年かかりました
内閣府の消費動向調査がパソコンを調べ始めた1987年3月、世帯の普及率は11.7%でした。1993年まで10〜12%の間を行き来し、半分を超えたのは2001年3月の50.1%です。
その前から、多くの人は、自分で操作しないままコンピューターに関わっていました。1969年12月に住友銀行が日本で初めて現金自動支払機を支店に置き、1982年10月にはセブン‐イレブンがPOS(販売時点情報管理=レジで売れた商品を記録し、発注に使う仕組み)を始めています。
消費動向調査の普及率は、家にパソコンがあるかどうかを数えた数字です。何に使っているかは、数えていません。