春編 第4章:一人で任された仕事が、二度
壊れた
入社から二ヶ月半。
賭けは三連敗。世界観、累積戦略、三方良
しPlus——ことごとく言い負かされ、現
実に負けてきた。
でも、僕にはまだ切り札があると思ってい
た。技術と、スピード。理屈で負けても、
「ちゃんと動くものを誰よりも速く作る」—
—それなら誰にも負けない。それこそが僕が
この会社に証明したい「効率」の本体だった。
そんな時、僕は初めて一人で担当するタス
クを任された。
既存クライアントの予約システムに新しい
フィルタ機能を追加する。納期は一週間後。
「桜井くん、これ任せていい?」
白石さんが聞いた。
「大丈夫です」
僕は自信を持って答えた。
技術的には難しくない。UIにフィルタを
追加して、バックエンドで条件に合うデータ
を返すだけ。アルゴリズムもデータ構造も理
解している。院の演習でも実装した内容だ。
一週間あれば余裕だ。これで僕のやり方が
正しいって証明する。賭けの、初白星だ。
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三日後。
僕はコードを書き上げた。
一週間の納期を、三日。半分以下だ。どう
だ。これがスピードだ。
フィルタは動く。テストプログラムも全パ
ターン緑(グリーン)。完璧に動いた。
「念のため、ステージングでも一通り触って
おくか?」——頭の隅でそんな声がした。で
も、すぐに打ち消した。ちゃんと動いてるん
だから大丈夫。それより早く「できました」
と言いたかった。賭けの白星を一日でも早く、
突きつけたかった。
「白石さん、できました」
「お、早いね。じゃあ、テストサーバーにデ
プロイしておいて。明日クライアントに見せ
るから」
「はい!」
僕はテストサーバーにデプロイした。
問題なし。
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翌日、午後。
オフィスは静かだった。白石さんは打ち合
わせに出ていて、黒田さんも作業に集中して
いる。PCのファンの音だけが静かに響いて
いる。
僕は、次のタスクのコードを書いていた。
その時、Slackの通知音が鳴った。
「ポン」
普段なら気にもしない音が今日はやけに大
きく聞こえた。
白石さんからのメッセージ。
クライアントから連絡 フィルタ動かないっ
て
一瞬、文字の意味が理解できなかった。
え?
血の気がすっと引いた。
具体的には「カテゴリー別」で絞り込むと何
も表示されないらしい
そんなはずはない。僕はテストした。ちゃ
んと動いた。
手のひらがじんわりと汗ばみ始めた。
慌ててテストサーバーにアクセスする。マ
ウスを握る手が微かに震えている。
ブラウザでテストサーバーを開く。画面の
読み込みがやけに遅く感じる。
カテゴリー別で絞り込む。
ローディングアイコンが回る。
……あれ?
画面に、何も表示されない。空白だ。
息が一瞬止まった。