夏編 第6章:AI鏡の原則 ── 道具が
、態度を映す
入社から四ヶ月。
「桜井くん、Claude Code使って
る?」
白石さんが聞いた。デスクに肘をつきなが
ら画面を見てる。いつもの軽い口調だ。
「えっと、まだちゃんとは……」
「じゃあ、今日から使ってみて。コード書く
のめちゃくちゃ速くなるから」
僕はその日からClaude Codeを
使い始めた。
最初は半信半疑だった。AIにコードを書
かせるなんて、本当に使えるものなのか。院
にいた頃はどこかAIツールをなめていた部
分があった。
でも、使ってみると確かに速い。
「この関数テストコード書いて」
「このバグ原因調べて」
「このコードリファクタリングして」
何でも答えてくれる。しかも即座に。これ、
すごいな……。
まるで有能な後輩がいるみたいだ。聞けば
すぐ動いてくれて、文句も言わない。
僕はどんどんClaude Codeに頼
るようになった。
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一週間後。
その一週間僕はAIを使いまくった。タス
クが終わるたびにAIに投げて、返ってきた
コードをそのまま使う。スピードだけは確か
に上がった。「効率的になった」と思ってい
た。技術とスピード、それにAIまで乗れば、
誰にも負けない。
賭けのことはもう口にしなくなっていた。
それでも、心のどこかでまだ証明したかった
んだと思う。効率こそが正解だって。AIは
その最強の相棒に見えた。
「桜井くん、このコード見せて」
白石さんが僕のコードをレビューした。
白石さんがキーボードをスクロールしてい
る間、僕は画面の端を見つめていた。特に問
題ないはずだ。ちゃんと動いている。テスト
も通っている。
「うーん……」
その一言で胃が少し重くなった。
「何か問題ありますか?」
「動くことは動くけど……なんか読みにくい
な」
「読みにくい……?」
「スコープが浅いところなのに変数名とか、
関数名とか。パッと見て何をしてるのか分か
らない」
僕は画面を見た。
確かに変数名が`data1`、`dat
a2`、`temp`とかになっている。
「あとこのコメント」
白石さんが指差した。
// AIが生成したコード
function processData(data1, data2) {
// データを処理する
const temp = data1.filter(x => x.status == 1);
const result = temp.map(x => {
const val = data2.find(y => y.id == x.ref);
return { id: x.id, num: val ? x.qty * val.rate : 0 };
});
return result;
}「コメントが説明になってない。『データを
処理する』って何も言ってないのと同じだよ」
「……すみません」
「桜井くん、もしかしてAI任せにしてない?」
……ばれたか。
「い、いえ……」
「正直に言って」
白石さんの声は穏やかだった。でも、その
分だけ誤魔化しにくかった。
「……ちょっと任せ気味でした」
正直に言うと、肩の力が少し抜けた。本当
は任せ気味どころじゃなかった。エラーの出
ている関数だけを切り取って、「直して」と
だけAIに投げる。前後のコードも、それが
何をするためのものかも渡していない。それ
で返ってきたものをろくに確かめずに貼りつ
ける。——渡した材料がそれだけなら、AI
だってそれなりの答えしか返せない。そのこ
とに、僕は目をつぶっていた。