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夏編 第7章:技術の壁とプライド

2026年08月03日

夏編 第7章:技術の壁とプライド

 入社から五ヶ月。僕は新しいプロジェクト

にアサインされた。既存システムにリアルタ

イムチャット機能を追加する。

「桜井くん、WebSocketの経験ある?」

「……学部の授業で少しだけ」

「じゃあ大丈夫だね。分からなかったら聞い

て」

「はい!」

 その時の僕は本気でそう思っていた。We

bSocketくらい調べればできる。院で

やってきた自分には簡単なはずだ。

---

 三日後。僕は壁にぶつかっていた。

 WebSocketの接続は確立できた。

最初は「やっぱり簡単だ」と思った。でも、

そこからが問題だった。

 メッセージが正しく送受信されない。タイ

ミングがずれる。順序が入れ替わる。切断と

再接続を繰り返すとおかしくなる。なんでだ

……。

 画面を見つめる目がじわじわと疲弊してい

く。ドキュメントを読み、Stack Ov

erflowを漁り、AIに質問した。似た

ような事例も見つかった。でも、自分のコー

ドに当てはめるとうまくいかない。

「桜井くん、進捗どう?」

 白石さんが通りすがりに聞いてきた。エラー

の出ている画面を僕は反射的に切り替えてい

た。

「……順調です」

 笑顔で答えた。嘘だった。院まで出た僕が

WebSocketごときで詰まってる——

それを認めるのがどうしても嫌だった。

「そっか。何かあったら言ってね」

「はい」

 白石さんが離れていく。背中を見ながら

「今言えばよかった」と思った。でも、口が

動かなかった。大丈夫、自分で解決できる。

 あの自信はどこへ行ったのか。それでも、

まだそう思い込もうとしていた。僕はまだ一

人で抱え込んでいた。

---

 さらに二日後。納期まであと三日。まだ解

決していない。

 夜、帰りの電車でも頭の中でコードが回っ

ていた。シャワーを浴びながらも問題を考え

ていた。眠れない夜が続いた。

 焦りが出てきた。このままじゃ間に合わな

い……。

 でも、助けを求めることができなかった。

なぜなら、五日前に「順調です」と言ってし

まったから。あの一言が首を絞めていた。

 今さら「実は詰まってます」なんて言えな

い。「なんで早く言わなかったの」って思わ

れる。「五日間何やってたの」って。自分で

解決しないと。

 プライドなのか、意地なのか、もう分から

なかった。

---

 納期の前日。オフィスに誰もいない深夜、

僕は一人でキーボードを叩いていた。

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