夏編 第7章:技術の壁とプライド
入社から五ヶ月。僕は新しいプロジェクト
にアサインされた。既存システムにリアルタ
イムチャット機能を追加する。
「桜井くん、WebSocketの経験ある?」
「……学部の授業で少しだけ」
「じゃあ大丈夫だね。分からなかったら聞い
て」
「はい!」
その時の僕は本気でそう思っていた。We
bSocketくらい調べればできる。院で
やってきた自分には簡単なはずだ。
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三日後。僕は壁にぶつかっていた。
WebSocketの接続は確立できた。
最初は「やっぱり簡単だ」と思った。でも、
そこからが問題だった。
メッセージが正しく送受信されない。タイ
ミングがずれる。順序が入れ替わる。切断と
再接続を繰り返すとおかしくなる。なんでだ
……。
画面を見つめる目がじわじわと疲弊してい
く。ドキュメントを読み、Stack Ov
erflowを漁り、AIに質問した。似た
ような事例も見つかった。でも、自分のコー
ドに当てはめるとうまくいかない。
「桜井くん、進捗どう?」
白石さんが通りすがりに聞いてきた。エラー
の出ている画面を僕は反射的に切り替えてい
た。
「……順調です」
笑顔で答えた。嘘だった。院まで出た僕が
WebSocketごときで詰まってる——
それを認めるのがどうしても嫌だった。
「そっか。何かあったら言ってね」
「はい」
白石さんが離れていく。背中を見ながら
「今言えばよかった」と思った。でも、口が
動かなかった。大丈夫、自分で解決できる。
あの自信はどこへ行ったのか。それでも、
まだそう思い込もうとしていた。僕はまだ一
人で抱え込んでいた。
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さらに二日後。納期まであと三日。まだ解
決していない。
夜、帰りの電車でも頭の中でコードが回っ
ていた。シャワーを浴びながらも問題を考え
ていた。眠れない夜が続いた。
焦りが出てきた。このままじゃ間に合わな
い……。
でも、助けを求めることができなかった。
なぜなら、五日前に「順調です」と言ってし
まったから。あの一言が首を絞めていた。
今さら「実は詰まってます」なんて言えな
い。「なんで早く言わなかったの」って思わ
れる。「五日間何やってたの」って。自分で
解決しないと。
プライドなのか、意地なのか、もう分から
なかった。
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納期の前日。オフィスに誰もいない深夜、
僕は一人でキーボードを叩いていた。