夏編 第10章:夏の終わりに
入社から五ヶ月半。
窓の外では蝉の声が小さくなり始めていた。
ミンミンゼミからツクツクボウシへ。
夏の終わりだ。
外堀通りの街路樹の緑も少し色褪せて、疲
れたように見える。
九月の空気はまだ暑いけど、どこか秋の気
配を含んでいた。
海老沢さんが僕を呼んだ。
「桜井くん、五ヶ月半経ったね」
声がいつもより優しく聞こえた。
「はい」
こたつは布団が取り去られて、ただのテー
ブルになっている。テーブルには海老沢さん
が飲みかけたコカコーラゼロの缶が置いてあ
る。
レトロゲームは相変わらず並んでいる。
「どう?この会社」
海老沢さんは窓の外を見ながら聞いた。
僕は少し考えた。
この半年間を思い返す。
「……正直最初は不安でした。四人の会社で
就活失敗したって思ってました」
「ははは」
「でも、今は違います。学べることがたくさ
んある。技術だけじゃなくて、仕事の進め方
とか、考え方とか」
「具体的には?」
「誰のために作るのか、から考えること。地
味な積み重ねがいつか誰にも真似できない差
になること。値引きが巡って仕事を連れてく
ること。……AIに雑に向き合えば雑なもの
しか返ってこないこと」
僕はこの半年で体に刻まれたことを一つず
つ挙げた。
「全部最初は『抽象的だな』『綺麗事だな』っ
て思ってました。でも、体で食らうといちい
ち納得させられました」
海老沢さんは目を細めて、笑った。
そして、テーブルの上に一枚の白い封筒を
置いた。
「覚えてる?初日の賭け」