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秋編 第11章:世界観を考えた設計、初めての成功

2026年08月03日

秋編 第11章:世界観を考えた設計、初め

ての成功

 九月の終わり。外堀通りの街路樹が少しず

つ色づき始めていた。まだ昼間は暑いのに、

朝夕の空気だけがもう夏と違う匂いをしてい

る。

 僕は新規クライアントの案件を任された。

 地方の老舗旅館が予約システムを導入した

いという。

「桜井くん、この案件、メインで担当してみ

る?」

 白石さんが聞いた。

「え、僕がメインですか?」

「うん。もちろん僕もサポートするけど。そ

ろそろ一人で案件を回せるようになってほし

いから」

「……やります」

 僕は緊張しながらも引き受けた。

---

 翌日クライアントとのミーティング。

 旅館の女将さん(六十代くらい)が要望を

話してくれた。

「予約の大半は今大手の予約サイト経由なん

です。じゃらんさんとか、楽天トラベルさん

とか」

「ええ」

「便利なんですよ。新しいお客さんとの出会

いもあそこから生まれますし。……でも、手

数料がけっこう高くて」

 女将さんは少し言いにくそうに続けた。

「それに、何十年も通ってくださってる常連

さんまで大手サイト経由で予約されると、そ

のたびに手数料を取られるんです。うちがずっ

とお付き合いしてきたお客さんなのに。……

なんだか理不尽で」

「……それはそうですよね」

「お客さんにもわざわざサイトに登録して、

と手間をかけさせてしまう。『電話一本でい

いのに』って常連さんに言われると申し訳な

くて」

「なるほど」

「だから、うちから直接予約できる仕組みが

欲しいんです。常連さんをちゃんと『常連さ

ん』として迎えられる仕組みが。大手サイト

には新しいお客さんとの出会いだけお願いす

る形にして」

「直接のお客さんと、常連さんのための予約

システムということですね」

「そうなんです。ただ……うちのお客さん、

年配の方も多くて。複雑だと使ってもらえな

いので」

「年配の方でも迷わず使えるものが必要、と」

「そうそう。あと、常連さんには特別なプラ

ンもご用意したくて。でも今のままだとそも

そも誰が常連さんなのかも、ぱっと分からな

くて」

 僕はメモを取りながら聞いていた。

 そして半年前の失敗を思い出した。

 高齢者向けシステムで複雑なバリデーショ

ンを作って失敗したあの時。今回はちゃんと

考えよう。

 ミーティングの後、僕は白石さんに相談し

た。

「白石さん、この案件、世界観をどう設定す

ればいいですか?」

「んー」

 白石さんは画面から目を離さなかった。

「それ、僕が決めたら桜井くんのじゃなくな

るでしょ」

 突き放されたというほどでもない。ただ、

いつもみたいには拾ってくれなかった。

「……えっと。『年配のお客さんでも使いや

すい、温かみのある予約システム』とか」

「うん」

「……『旅館の温かいおもてなしをオンライ

ンでも感じられるシステム』」

「いいんじゃない」

 白石さんはそれだけ言って、自分の画面に

戻った。

 あっさりしていた。合っているのかどうか

は分からない。でも、止められもしなかった。

---

 設計を始めた。

 世界観:『旅館の温かいおもてなしをオン

ラインでも感じられる』

 つかんだ、と思った。夏まであれだけ「抽

象的だ」と噛みついていた世界観。それが今

自分の手の中にある。その手応えが嬉しかっ

た。

 白石さんは一つだけアドバイスをくれた。

「予約確認メールに女将さんの手書き風のメッ

セージを入れたらどう?テンプレートでいい

から。『お会いできるのを楽しみにしており

ます』くらいの。ちょっと温かみが出るよ」

「なるほど……!」

 その一言が火をつけた。

 温かいおもてなし。だったら——もっと、

できる。もっと、温かくできるはずだ。

 僕は夢中で設計に盛り込んでいった。

 予約画面は一ステップ進むごとに、和紙の

ような背景がふわりと切り替わる。その都度、

女将さんの手書き風メッセージが現れる。予

約を終えると、長いお礼の言葉が桜の花びら

と一緒に、画面いっぱいに舞う。常連さん向

けには、「あなただけの特別プラン」をにぎ

やかな飾りで彩る。

 我ながら温かい。これぞおもてなしだ。

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