秋編 第12章:面倒は、先に払っておく
「桜井くん、ちょっと見て」
十月に入ったばかりのある日だった。白石
さんがあるプロジェクトのコードベースを開
いた。
「これ二年前に立ち上げたプロジェクト。今
でも問題なく動いてる」
「へえ」
「このコード誰が書いたか分かる?」
僕はコードを見た。変数名が分かりやすい。
関数が適切に分割されている。コメントも的
確。
「黒田さんですか?」
「いや、僕だよ」
「え、白石さんが?」
「うん。入社して間もない頃海老沢さんから
教わったんだ。『ドキュメント化』『命名規
則の統一』『毎日のコードレビュー』」
白石さんは続けた。
「最初は面倒くさいって思ってた。でも、今
となってはそのおかげでこのコードベースは
誰でもメンテナンスできる」
「……」
「新しいメンバーが入ってもすぐに理解でき
る。バグが少ない。改修も早い」
白石さんは少し得意そうに口元をゆるめた。
「面倒を先に払っておいた。それだけのこと
なんだけどね」
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その日の午後、僕は自分が書いたコードを
見直した。三ヶ月前のコード。画面を見て、
愕然とした。