冬編 第19章:チームで乗り越える、タク
ヤのリーダーシップ
残り四週間。二月の末。外の寒さはまだ厳
しいが、日が少しずつ長くなっていた。
チーム全員で多言語対応に取り組んだ。僕
はタスクを分担した。
「白石さん、バックエンドの多言語化をお願
いします」
「黒田さん、翻訳管理システムを構築してく
ださい」
「リナさん、UI/UXの多言語対応レビュー
をお願いします」
「僕はフロントエンドのUI調整と全体のス
ケジュール管理をします」
(この「多言語対応」、業界では i18n
と略す。internationaliz
ation——最初の i と最後の n
のあいだに文字が十八個ある。だからi18n。
初めて聞いた時はなんて不親切な略し方だと
思った。IT業界は時々こういう身内にしか
通じない符牒みたいな言葉を使う。)
みんな頷いた。
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しかし二週間後。予想外の問題が発生した。
クライアントから送られてきた中国語——第
一フェーズ分の主要ページの翻訳が機械翻訳
のままで、意味が通じない部分が多い。
「これ、このまま出せないな……」
僕は頭を抱えた。
「プロの翻訳者に頼むべきか。でも、追加費
用は出せない……」
リナさんがふいに言った。
「私、中国語読めます」
「え、本当?」
「大学の第二外国語です。ネイティブほどじゃ
ないですけど、この機械翻訳が変なのは分か
ります」
リナさんはもう画面に向かっていた。僕の
返事を待つ前に、手が動いている。
「ここ。『観光案内』が『見物人の案内』に
なってます。意味逆です」
「……助かる」
「当然です。これ私の担当分でもあるので」
それだけ言って、リナさんは作業に戻った。
夜遅くまで彼女は翻訳を直し続けた。不自
然な表現を一つずつ分かりやすい言葉に置き
換えていく。誰にも頼まれていない僕の担当
分まで。
僕は気づいていた。リナさんは「桜井さん
のため」とは絶対に言わない。でも、こうい
う時いちばん黙って、いちばん遅くまで残る。
それがたぶん、彼女の流儀だった。
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午後十時。オフィスには僕とリナさんだけ
が残っていた。白石さんも黒田さんもとっく
に帰っていた。窓の外は真っ暗で、外堀通り
の車のライトだけが流れていく。
「リナさん、そろそろ休憩しませんか?」
僕は立ち上がって声をかけた。
「……はい」
リナさんは画面から目を離して、背伸びを
した。
「コーヒー淹れますね」
僕は簡易キッチンでコーヒーを淹れた。リ
ナさんに渡すと、彼女は両手でカップを包ん
だ。
「……ありがとうございます」
「お疲れ様です」