CoBANTO3-AI

終章 対等

2026年08月05日

終章 対等

 OMOTEを辞めた。

 立ち上げた店を鬼頭さんと茅野さんにちゃ

んと引き継いで。OMOTEの舵が「活かす」

のほうへ切られたのを見届けてから。投げ出

さずにやり切って、出てきた。葉山は最後に

「神崎、ありがとな」と、ぼそっと言った。

一度も聞いたことのない声の高さだった。

 辞めても、すぐには次を決めなかった。

 一年前の私なら、こうはいかなかった。宙

ぶらりんがこわくて、すぐ目の前の手にすがっ

ていた。何かをやっていないとだめだった。

それがいちばんの弱点だった。——でも、今

度はこわくなかった。手の中に掴んだものが

あったから。空っぽの手で待つのと、何かを

握って待つのはまるで違った。

 ただ、ひとつだけ、はっきりと欲しいもの

があった。

 ——AIをもっと深くやりたい。

 OMOTEで私はいちばん外の小屋の中で、

できる範囲のいちばんいいことをやった。鬼

頭さんの四十年を機械ですくった。それは本

物の手応えだった。けれど、城は最後までA

Iを背骨にはしなかった。私のやれたことは

結局、薄い膜の上の出来事だった。

 私が本当にやりたいのは、そこじゃない。

 AIを飾りじゃなく、設計のいちばん深い

ところに溶かす。考えるど真ん中に据える。

久我さんがゆらぐから、と、外に追いやった

ものを、ゆらぐまま、背骨にする。——それ

を本気でやっている場所。

 世界に一つだけあった。

---

 風の噂で聞いていた。

 あの四人の事務所が——BANTO3に本

気でAIを入れ始めた、と。会社の背骨その

ものをAIにしようとしている、と。OMO

TEが飾りでやったふりをしたことを、あの

人たちはたぶん、何年も前から本気でやって

いた。

 それを聞いたとき、胸が鳴った。

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