終章 対等
OMOTEを辞めた。
立ち上げた店を鬼頭さんと茅野さんにちゃ
んと引き継いで。OMOTEの舵が「活かす」
のほうへ切られたのを見届けてから。投げ出
さずにやり切って、出てきた。葉山は最後に
「神崎、ありがとな」と、ぼそっと言った。
一度も聞いたことのない声の高さだった。
辞めても、すぐには次を決めなかった。
一年前の私なら、こうはいかなかった。宙
ぶらりんがこわくて、すぐ目の前の手にすがっ
ていた。何かをやっていないとだめだった。
それがいちばんの弱点だった。——でも、今
度はこわくなかった。手の中に掴んだものが
あったから。空っぽの手で待つのと、何かを
握って待つのはまるで違った。
ただ、ひとつだけ、はっきりと欲しいもの
があった。
——AIをもっと深くやりたい。
OMOTEで私はいちばん外の小屋の中で、
できる範囲のいちばんいいことをやった。鬼
頭さんの四十年を機械ですくった。それは本
物の手応えだった。けれど、城は最後までA
Iを背骨にはしなかった。私のやれたことは
結局、薄い膜の上の出来事だった。
私が本当にやりたいのは、そこじゃない。
AIを飾りじゃなく、設計のいちばん深い
ところに溶かす。考えるど真ん中に据える。
久我さんがゆらぐから、と、外に追いやった
ものを、ゆらぐまま、背骨にする。——それ
を本気でやっている場所。
世界に一つだけあった。
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風の噂で聞いていた。
あの四人の事務所が——BANTO3に本
気でAIを入れ始めた、と。会社の背骨その
ものをAIにしようとしている、と。OMO
TEが飾りでやったふりをしたことを、あの
人たちはたぶん、何年も前から本気でやって
いた。
それを聞いたとき、胸が鳴った。