第24章 見えない仕事
九月。案件が増えればその下を支えるもの
も増える。
サーバー、データベース、デプロイの仕組
み。お客さんからは見えないし、社内でもほ
とんど見えない。でも、それが止まれば全部
が止まる。
そこはいつのまにか佐藤くんの場所になっ
ていた。
「佐藤、この辺まとめて頼むわ」
海老沢さんはインフラまわりをほとんど佐
藤くんに丸投げしていた。GCPの構成も、
移行も、監視も。GCP——Googleの
クラウドだ。サーバーやデータベースを自前
で持たずに借りて動かす。正式にはもう別の
名前に変わったらしいけど、現場じゃいまだ
にみんなGCPと呼んでいる。うちが使って
いるFirebaseも元をたどればこの上
に乗っていた。一見雑な振り方だった。でも、
たぶん海老沢さんなりに佐藤くんを見て決め
ていた。こいつは四の五の言われるより、裁
量を渡して任された方が伸びるタイプだろう、
と。
実際、佐藤くんは大学の頃から運用のバイ
トをしていてこの手のことにはめっぽう強かっ
た。それに、インフラというのは会社全体を
上から眺める場所でもある。どこに無駄があっ
て、どこが危ないか。メタな視点からいろん
なことに気づく。その気づきを活かすにはい
ちいち口を出されない裁量がいる。海老沢さ
んはそれを分かって渡していた。たぶん。
「……一応やっときます」
佐藤くんはそれだけ言って、黙々と手を動
かす。無言のままターミナルをすごい速さで
打っていく。誰もその画面を見ていない。
僕も正直見ていなかった。動いていて当た
り前、止まらなくて当たり前。インフラとい
うのはそういう扱いをされる場所だ。
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ある日、僕はたまたま佐藤くんの画面を覗
いた。
驚いた。佐藤くんはコマンドをほとんど自
分で打っていなかった。AIにやらせていた
のだ。
「移行のスクリプトこれで」と言葉で指示す
ると、AIが長いコマンドの束を書く。佐藤
くんはそれを読んで流していく。一年前なら
何時間もかかった作業が十分で終わっていた。
「……速いね」