CoBANTO3-AI

第28章 「本物」とは何か

2026年08月05日

28章 「本物」とは何か

 AI社員を本物にする。

 海老沢さんが置いていったその宿題を僕は

一週間持て余していた。

 そもそも本物って何だ。AIタクヤはもう

よく働いている。お客さんのチャットを読ん

で、相談して、PRを出す。直すところもな

い。あれより何を本物にしろというんだろう。

「桜井」

 朝、海老沢さんが僕の席に来た。

「あれ、お前がまとめろ。AI社員を本物に

するやつ。チーム動かしていい」

「……僕がですか」

「うん。お前が」海老沢さんはそれだけ言っ

て行こうとして、振り返った。「言っとくけ

ど、速くする話じゃないからな。速いのはも

う足りてる」

 足りてる。確かにそうだった。じゃあ、何

が足りないんだ。

 恐怖はまだ僕の中にあった。AIに判断ま

で追い越されたあの朝の感じ。それを抱えた

まま、僕はそのAIを「本物にする」チーム

のリーダーになった。皮肉な話だった。

---

 最初、僕たちは分かりやすい方からやって

みた。

「もっと賢くすればいいんすよね」と田中く

ん。「データ増やして。過去の案件ぜんぶ食

わせて」

 それは効いた。AI社員はもっと、もっと

もらしくなった。返事は丁寧に、PRはきれ

いに。汎用のAIに同じことをやらせるより、

ずっとうちらしい言葉を使う。海老沢さんが

もともとTNKの考え方を——三方良しとか、

悪い報せほど早くとか——ぜんぶ仕込んであっ

たからだ。

 田中くんが汎用のAIと並べて見せてくれ

た。

「ほら。こっちの普通のAIは速いけど、のっ

ぺりしてるでしょ。うちのはちゃんとうちの

口調になる」

 確かに違った。違ったけど——

 僕はどこか引っかかっていた。賢くなった。

でも、本物に近づいた気はしなかった。もっ

ともらしさが増えただけ。海老沢さんの言っ

た「空っぽ」は空っぽのまま、見栄えだけ良

くなっていた。

---

 それがはっきりしたのはある旅館の新規ペー

ジだった。

 女将さんのネットワークからまた一軒、紹

介が来ていた。AI社員に下書きをやらせて

みる。出てきたものはよくできていた。文章

も、構成も、文句がない。三方良しの精神も

ちゃんとにじんでいた。

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