第28章 「本物」とは何か
AI社員を本物にする。
海老沢さんが置いていったその宿題を僕は
一週間持て余していた。
そもそも本物って何だ。AIタクヤはもう
よく働いている。お客さんのチャットを読ん
で、相談して、PRを出す。直すところもな
い。あれより何を本物にしろというんだろう。
「桜井」
朝、海老沢さんが僕の席に来た。
「あれ、お前がまとめろ。AI社員を本物に
するやつ。チーム動かしていい」
「……僕がですか」
「うん。お前が」海老沢さんはそれだけ言っ
て行こうとして、振り返った。「言っとくけ
ど、速くする話じゃないからな。速いのはも
う足りてる」
足りてる。確かにそうだった。じゃあ、何
が足りないんだ。
恐怖はまだ僕の中にあった。AIに判断ま
で追い越されたあの朝の感じ。それを抱えた
まま、僕はそのAIを「本物にする」チーム
のリーダーになった。皮肉な話だった。
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最初、僕たちは分かりやすい方からやって
みた。
「もっと賢くすればいいんすよね」と田中く
ん。「データ増やして。過去の案件ぜんぶ食
わせて」
それは効いた。AI社員はもっと、もっと
もらしくなった。返事は丁寧に、PRはきれ
いに。汎用のAIに同じことをやらせるより、
ずっとうちらしい言葉を使う。海老沢さんが
もともとTNKの考え方を——三方良しとか、
悪い報せほど早くとか——ぜんぶ仕込んであっ
たからだ。
田中くんが汎用のAIと並べて見せてくれ
た。
「ほら。こっちの普通のAIは速いけど、のっ
ぺりしてるでしょ。うちのはちゃんとうちの
口調になる」
確かに違った。違ったけど——
僕はどこか引っかかっていた。賢くなった。
でも、本物に近づいた気はしなかった。もっ
ともらしさが増えただけ。海老沢さんの言っ
た「空っぽ」は空っぽのまま、見栄えだけ良
くなっていた。
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それがはっきりしたのはある旅館の新規ペー
ジだった。
女将さんのネットワークからまた一軒、紹
介が来ていた。AI社員に下書きをやらせて
みる。出てきたものはよくできていた。文章
も、構成も、文句がない。三方良しの精神も
ちゃんとにじんでいた。