第29章 内製します
AIに目覚めたのは僕たちだけじゃなかっ
た。
年が明けて、お客さんたちもいっせいにA
Iを触りはじめた。どこの会社でも誰かがC
hatGPTやら何やらを開いて、「これ、
けっこうすごいぞ」と騒いでいた。それ自体
はいいことだ。便利なものは使えばいい。
でも、その流れは僕たちのところに思って
いなかった形で返ってきた。
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最初は小さな案件だった。
去年サイトを作った町の小さな整骨院。院
長さんからチャットが来た。
「桜井さん、いつもありがとうございます。
実はちょっとご相談が」
嫌な予感がした。当たった。
「最近AIっていうの僕も触ってみてるんで
すけど。これ自分でホームページいじれちゃ
うんですね。だから……次の更新から自分で
やってみようかなと。お安くしてもらってる
のに、申し訳ないんですけど」
申し訳なさそうだった。悪気はまったくな
い。新しいおもちゃを見つけた子供みたいに
ちょっとわくわくしてもいた。
「……分かりました。何かあったらいつでも
言ってください」
僕はそう返すしかなかった。少し寂しかっ
た。でも、止める理由もなかった。やってみ
たいという人を止められない。
二週間後。同じ院長さんからチャットが来
た。
「桜井さん……助けてください」
AIに言われるままあちこち直しているう
ちに、予約フォームが動かなくなったらしい。
送信を押しても何も起きない。AIに「直し
て」と頼むと、別のところが壊れる。それを
直すと、また別が壊れる。気づけばもとがど
うだったのかも分からなくなっていた。
「……戻せます?」と、院長さん。
戻せた。三十分で。バックアップから、ぜ
んぶ。
「いやあ、すみません。やっぱり餅は餅屋で
すね」院長さんは電話の向こうで、はは、と
笑った。「自分でやるとこわいわ。AI賢い
んですけど、僕が何を頼めばいいのか分かっ
てないんですよね」
——何を頼めばいいのか、分かってない。
その一言が妙に残った。
正直僕は少しほっとしていた。
ほら。やっぱりお客さんは自分じゃ作れな
い。AIがいくら賢くたって、何を作ればい
いかは分からない。僕の三年はまだ無駄じゃ
ない。——そう、思いたかった。
その油断を見透かすみたいに次の話が来た。
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Sプロジェクトの定例だった。
僕が持っているお客さんの中で、いちばん
大きくて、いちばん古い。僕が入る少し前か
らの付き合いで、入社してからはずっと僕が
担当してきた。僕の売上のほとんどはここで
立っていた。
会議室に通されて、いつもの担当の田辺さ
んがいた。でも、その隣に見たことのない人
が二人。スーツの若い人たちだった。
田辺さんは僕と目を合わせなかった。
切り出したのは田辺さんじゃなく、上司の
部長さんだった。
「桜井さん。いつもありがとうございます。
……単刀直入に言うと、うち開発を内製化す
ることにしました」
内製化。
「この冬エンジニアを三人採りました。AI
も本格的に入れます。これからは自分たちで
作っていく。だから、御社との契約は今期で
一区切りということで」
部長さんの口ぶりは丁寧だった。でも、決
定事項だった。相談じゃなかった。