第30章 賭ける
その一週間は長かった。
Sプロジェクトの穴は思っていたより深かっ
た。それだけじゃない。世の中の風向きがはっ
きり変わりはじめていた。
田中くんがある朝、スマホを僕に見せてき
た。
「桜井さん、これ見ました? やばくないっ
すか」
広告だった。新しくできたAI制作の会社。
「ホームページ、AIで、最短即日。月額九
千八百円」。写真も、文章もぜんぶAIが作
る。人はほとんど介さない。
「うち一件何十万ってもらってるじゃないっ
すか。これ月九千八百っすよ」
「……だね」
返す言葉がなかった。安さでは勝てない。
速さでも、もう勝てない。
似たような会社がこの冬、いくつも生まれ
ていた。どこも同じことを言っていた。「A
Iで、安く、速く」。お客さんは当然そっち
に目が行く。整骨院の院長さんみたいに自分
でやってみる人もいる。Sプロジェクトみた
いに中に抱える会社もある。
——僕たちの売っていた仕事が足元から溶
けていく。
そういう冬だった。
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約束の日。海老沢さんが全員を集めた。
七人しかいない狭いオフィス。机を寄せて
車座になった。白石さんも、黒田さんもいた。
みんななんとなく、これがただの朝礼じゃな
いと分かっていた。
「先週Sが抜けた」海老沢さんは前置きなし
に始めた。「でかい。隠さない。あれで来期
の数字はけっこう苦しい」
誰も何も言わなかった。
「それに、街には月九千八百円の店ができた。
安くて、速い。うちがこれまで売ってきたも
の——『きれいなサイトをちゃんと作りま
す』ってやつはこれからどんどん値段がつか
なくなる。はっきり言う。今までのやり方の
延長線上にうちの未来はない」
きつい言葉だった。でも、誰も反論できな
かった。みんな薄々感じていたことだった。
「で、ここからが本題だ」
海老沢さんは車座をぐるりと見回した。