第31章 断るべき案件
炎上案件、と海老沢さんは言った。
電話の相手はお取り寄せグルメのEC通販
をやっている会社だった。北陸の海産物の。
社長さんが一人で立ち上げて、二十年こつこ
つ育ててきた。常連が何万とついている。
そのサイトが半年前から燃えていた。
きっかけはそれまで使っていたカートのサー
ビスが終わることだった。長く使ってきたそ
の仕組みが来年でサービス終了する。よそが
決めたことだ。否応なく引っ越さないといけ
なくなった。
二十年慣れた仕組みが急に無くなる。社長
さんは焦った。そこへ安くて速いという制作
会社の話が来た。AIでぱっと作る、月いく
らというところ。締め切りに追われていた社
長さんはその言葉に飛びついた。
最初はよかった。見た目もきれいになった。
でも——
「注文の途中でエラーが出るんです。それも
たまに。決済が二重に走ったり、逆に注文が
消えたり。在庫の数も合わなくて——五個し
かない限定の品が十個も売れてしまって。お
客様に頭を下げて回りました。あと、夕方の
混む時間になるとサイトが重くて、なかなか
開かない。ひどい時はまるごと止まります」
社長さんの声は電話の向こうで疲れきって
いた。
「お客様にご迷惑をおかけして……謝って、
返金して、また謝って。もう半年です。作っ
た会社は『うちはAIで作っただけなんで細
かいことは』って連絡がつかなくなって」
他社にも相談したらしい。二社。どちらも
見て逃げた。「これは無理です」「作り直し
た方が早い、でも、うちはちょっと」と。
——それで、うちに回ってきた。
僕はハルカさんと佐藤くんを連れて、その
社長さんに会いに行った。
会ってみて、最初に思ったのは——この人
はSプロジェクトの部長さんとも、整骨院の
院長さんとも違うということだった。
社長さんはまず深く頭を下げた。
「お忙しいところすみません。それと、先に
言っておきます。これ半分は私の責任なんで
す」
「社長さんの、ですか」
「ええ。私が安さで選んだ。中身も分からな
いのに安くて速いって言葉に飛びついた。…
…お客様に迷惑をかけて、やっと分かりまし
た。安いには安いだけの理由があったんだなっ
て」