第33章 信頼の作り方
社長さんはその契約書を前に固まっていた。
毎月の数字がこれまで知っていたものと桁
が違う。安さで選んで火傷した人だ。今度は
その逆を飲めるか。迷うのは当たり前だった。
僕は急がなかった。
「今すぐ決めなくていいです」と僕は言った。
「まず二週間だけ見てください。最初の決済
の壁。あれを作ります。それで、出血が止ま
るかどうか。——見てから決めてもらえれば」
社長さんが顔を上げた。
「……それで止まらなかったら?」
「そのぶんはいただきません。約束します」
売り込まなかった。たぶんそれがいちばん
効いた。社長さんは半年、「できます」と言っ
て消えていく人たちを見てきた。言葉はもう
信じていない。なら言葉じゃなく、結果を先
に見せるしかない。
信頼っていうのは、たぶんそうやって作る
ものだった。約束を並べるんじゃなくて。一
個やってみせて、それから次を信じてもらう。
---
最初の二週間は佐藤くんの時間だった。
決済だけをあのぐちゃぐちゃの中から引っ
ぱり出す。お金の動くところを見た目のコー
ドから切り離して、独立したちゃんとした仕
組みに載せ替える。テストを書く。お金が二
度と、二重に引かれないことを、機械が毎回
確かめる、壁。
佐藤くんはほとんど喋らずにそれをやりきっ
た。
二週間後。新しい決済が動きはじめた。
そして、三日目。例の取引の記録が小さな
ずれを見つけた。あるお客さんの注文と入金
が一円、合わない。前なら誰も気づかず、い
つかクレームになっていたやつだ。
「桜井さん。ずれ、出ました」と佐藤くん。
でも、その声は落ち着いていた。「もう直り
ました。記録から自動で。お客さんは何も気
づいてないです」
——それがいちばん大きかった。
事故が起きないことじゃない。事故が起き
ても、お客さんが気づく前に静かに直ってい
る。社長さんが半年、夜中まで手でやってい
たことを機械が肩代わりしはじめた。
---
決済の壁が立つと、その裏でハルカさんが
動きはじめた。
見た目を中身から切り離す。それが終わる
と、ハルカさんはもう誰の手も借りなかった。
VPOKEで商品ページを開いて、話しか
ける。直して、プレビューして、また直す。
一日でトップページが別物になっていた。
そこには北陸の海があった。