第34章 AI任せの代償
紹介は止まらなかった。
お取り寄せの社長さんが連れてきた一件を
ちゃんとやったら、その会社がまた次を連れ
てきた。古い船を抱えた会社は本当にいくら
でもいた。半年で似た案件が五件、走ってい
た。
それと並行して、BANTO3そのものの
AI化が佳境だった。会社のいちばん大事な
旗。お客さんの案件でためた体験をどんどん
BANTO3に積んでいく。AI社員をもっ
と本物にしていく。
仕事は増えた。でも、人は四人のままだっ
た。
増やせばいい、と思うかもしれない。でも、
うちの仕事は雇ってすぐできるものじゃない。
あの体験の積み重ねが要る。だから僕たちは
四人で回すしかなかった。
意外なことに、毎日徹夜みたいにはならな
かった。それは月に一度あるかないか。AI
が速いから、手は止まらない。むしろ定時で
帰れる日もあった。
なのに僕たちはかつてないほど疲れていた。
体じゃなかった。頭だった。
AIがコードを書く。設計を出す。移行の
手順を並べる。——速い。次から次へ。でも、
その全部を最後にいいか悪いか決めるのは人
間だ。僕たちだ。一日中AIの出してくるもっ
ともらしいものを読んで、これは正しい、こ
れは怪しいと判断し続ける。手を動かす時間
より、頭で見極める時間の方がずっと長くなっ
ていた。
昔の疲れは手が疲れた。今の疲れは脳みそ
が芯から焼ける感じだった。コードを一行も
書いていない日でも、家に帰ると何も考えら
れなかった。——こんな疲れ方は初めてだっ
た。
そして、その焼けた脳みそがいちばん最初
に手放すのが——「ちゃんと、確かめる」だっ
た。
——回し方がだんだん変わっていった。
最初はAIが書いたものを一行ずつ読んで
いた。でも、頭がもたなくなると、ざっと見
て、動けば通すようになった。AIはたいて
い合っている。十回に九回は。だから、その
九回の感じで十回目も通してしまう。
「鵜呑み」というやつに僕たちは少しずつ足
を踏み入れていた。気づかないくらい、ゆっ
くり。疲れた頭が楽な方へ、楽な方へと流れ
ていくみたいに。
---
いちばんしわ寄せが行ったのは佐藤くんだっ
た。
お金と、データ。いちばんこわいところは
ぜんぶ佐藤くんを通る。五件の移行が同時に
走れば、その五件分の確認がぜんぶ彼の机に
積まれる。