第38章 AIは責任を取らない
答えが見つかったのは、空が白みはじめた
頃だった。
佐藤くんがAIの外を調べはじめた。AI
が案内を作る。そこまではシロだ。じゃあ、
その案内がお客さんのエンドユーザーに届く
までに、何があったか。
——間に、人がいた。
会員制サービスの担当者。その人はAIが
作った案内の下書きをそのまま送らなかった。
一回、自分のパソコンに書き出して、Exc
elで開いていた。
「キャンペーンのクーポン足したかったみた
いです」と佐藤くん。「AIの文面に自分で
ひと工夫加えたくて。——その気持ちは分か
ります」
書き出した、Excel。名前。メールア
ドレス。注文履歴。AIが作った、文面。一
行に、一人分。それがずらっと並んでいた。
その人はそれを、見やすいように名前の順
で並べ替えた。
——並べ替えた。一列、だけを。
Excelで一つの列だけを選んで並べ替
える。よくある操作だ。でも、それをやると、
その列だけが動いて、隣の列は動かないこと
がある。
名前はあいうえお順に並び替わった。でも、
メールアドレスと文面は元の順番のまま残っ
た。
ずれた。一行ずつ。
Aさんのメールアドレスの隣に、Bさんの
名前とBさんの注文履歴が来た。そのずれた
表をまるごと自分のメール配信ツールに流し
込んで——送信。
Aさんのところに、Bさんの人生が届いた。
「……これだ」僕はつぶやいた。
AIは何も間違えていなかった。コードも、
サーバーも、何も壊れていなかった。たった
一人の人間がExcelで一列だけを並べ替
えた。それだけで個人情報が混ざって、知ら
ない誰かに届いた。
拍子抜けするほどありふれたミスだった。
誰でもやったことがある。
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オフィスの空気がふっとゆるんだ。