第39章 戻ってきた
二年目の終わり。
外濠公園の桜がまた固い蕾をつけていた。
一年前と同じ景色。でも、その下を歩く僕は
もうずいぶん違う人間になっていた。
賭けは勝った——とまでは言えない。世の
中のAIの波は止まらないし、安くて速い店
は今も増え続けている。でも、うちは潰れな
かった。それどころか、炎上した古い船をこ
わさずにBANTO3へ運ぶあの「型」を目
当てにお客さんが来るようになっていた。安
くも、速くもない。けれど、最後まで責任を
取る。火事場で逃げない。——それを選んで
くれる人がちゃんといた。
四人はもう去年の春の四人じゃなかった。
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年度末の打ち上げ。会社の近くのいつもの
居酒屋。暮れと同じ店だ。
田中くんはもう「よしなに」なんて言わな
かった。詰まると自分で線を引いて、その先
を自分でたどる。この前なんて僕が口を出す
前に、自分で答えまでたどり着いていた。一
年前、海老沢さんに撃沈させられたあの田中
くんが。
佐藤くんの作った「飛ばせない壁」は社外
でも知られはじめていた。「あのAI移行の
安全のやつ、どうやってるんですか」と、よ
その会社から聞かれる。見えない仕事の男が
いちばん見られる場所に出ていた。
ハルカさんはもうデザイナーとは呼ばれて
いなかった。お客さんの話を聞いて、世界観
を立てて、それを自分で形にして、動かす。
肩書きのない仕事。たぶん、いちばんこれか
らの仕事だった。
「サマラブ、春の大会あるっすよ」と、田中
くん。「黒田さん、出ます?」
「出る」と、黒田さん。それだけだった。盤
面でも荒木町でも、人の流れを読ませたらこ
の人の右に出る者はいない。この一年でみん
ながそれを思い知っていた。
海老沢さんが「今年こそ抜く」とスマホを
出した。いい大人が二人、また順位を競りは
じめた。一年経っても、いちばん偉い二人が
いちばんガチだった。