第1章 定義のない仕事
数日して、白石さんが一覧を一つ開いて見
せてくれた。
「これハルカさんにもいちおう共有しておこ
うと思って」
画面には社名がずらりと並んでいた。二十
件くらい。どれも聞いたことのない小さな会
社ばかりだ。町の工務店、金物屋、古い旅館、
内装屋、豆腐屋。そういうこの街のどこかに
ありそうな名前が、上から下まで続いている。
「うちがいちばん最初のころからお付き合い
してるお客さんたちです」白石さんは穏やか
に言った。「サイトを作らせてもらって、そ
れっきり。月々ほんの少しだけいただいて、
置かせてもらってる。……正直何もしない月
も多いんです」
隣で黒田さんがキーボードを打つ手を止め
ずに、小さく頷いた。肯定、なのだと思う。
この人はそういうふうにしか返事をしない。
「BANTO3のお客さんとは桁がちがうか
ら」白石さんが続ける。「手をたくさんはか
けられない。でも、切ることもしない。海老
沢さんがそれは絶対にしないので」
私は一覧を上からゆっくり見ていった。ど
の会社もたぶん作った当時のままの少し古い
顔をしている。写真は粗く、文字が詰まって
いて、トップに置かれた「新春キャンペーン」
の文字はもう何回目かの春を越えたまま、そ
こに残っていた。
なんだかその一覧が、私には少し切なく見
えた。
作ってもらって、そのままになっている二
十件。忘れられているわけではない。切られ
てもいない。ただ静かに置かれている。年賀
状だけの遠い親戚みたいに。
「もっと返せたらいいんですけどね」白石さ
んは少し困ったように笑った。海老沢さんと
同じ顔だった。この会社の人はみんなこの顔
をする。もらっているのに返せていないとい
う顔を。
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その日の帰り道、私はその二十件のことを
ずっと考えていた。
手はかけられない。お金もたくさんはもら
えない。でも、放っておくのはなんだかな。
——その"なんだかな"の隙間に、何か私に
できることがある気がした。まだ形にはなっ
ていない。けれど、たしかにそこに何かある。
翌朝、私は桜井さんと白石さんが立ち話を
しているところに、そっと混ざった。
「あの古いお客さんたち」私は言った。「季
節感を出すのはどうですか」
「季節感?」桜井さんが首をかしげた。
「はい。春になったら桜の色に。夏になった
ら涼しげに。秋は少し落ち着いた色に。写真
とか帯の色とか、ほんの少しだけ季節で着替
えさせてあげるんです。難しいことはしない
で。……そういうのって低いお値段でもでき
ると思うんです」
「……なるほど」桜井さんが腕を組んだ。