第4章 深さなし、と読む人
介護のお客さんの案件が動きだしてから、
リナさんは水を得た魚のようだった。
制度がどうなっていて、データがどこに囲
い込まれていて、責任の線がどこで切れてい
るのか。ふつうなら頭が痛くなるような話を、
リナさんは二つ三つ先までするするとほどい
ていく。会議でリナさんが一言、問題の形を
言い当てるたびに、その場の空気がほっとゆ
るむのが分かった。
私はその速さを横で見ていて、最初のうち
は少しだけ身構えていた。
頭がよくて、理屈でものを切る人。その手
の人を私は前の会社でたくさん見てきたから
だ。仕事を回してくる広告代理店の担当たち。
いい大学を出て、きれいな言葉で戦略を語る
人たち。彼らにとって私たち制作は"手"だっ
た。指示書を渡せば、その通りのものを出し
てくる手。たぶん名前も覚えられていなかっ
た。「ここもっと、ぱっと」「なんか違う」
——理由は言わない。こちらが何を考えてそ
の色を選んだのかを、訊かれたことは一度も
なかった。
東大。理論派。リナさんを見ていると、あ
の忘れたい感じがうっすらと蘇る。ああ、こ
の人もあっち側の人だ。——そう、思いかけ
た。
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けれど、しばらく横で見ているうちに、私
の見立ては少しずつずれていった。