第6章 境目のある会社
介護のお客さんの件がひと山越えたころ、
海老沢さんが唐突に「行くか、どっか」と言っ
た。慰労というやつらしい。八人で、一泊。
行き先は田中くんが五秒で決めた温泉だった。
宿は古くていい感じの宿だった。ごはんを
食べて、風呂に入って、夜は誰かの部屋に集
まった。みんなサマライブというあのゲーム
をやっている。街の縄張りを取り合う変なや
つだ。私は勝ち負けにはあまり興味がなくて、
レアの変な生き物の造形ばかりうっとり眺め
ていた。モヒカンをかわいく崩したこの線。
誰が描いたんだろう。こういうのを見ている
と、時間がいくらでも溶けていく。
田中くんは縄張りだけ片っ端から取って、
中身はからっぽだった。「数っすよ、数」と
威張っている。佐藤くんは逆に六つしかない
シマを城みたいに作り込んでいた。あの口を
きくのも億劫そうな人が、これだけは手をか
ける。その黙って手をかける感じは隣で見て
いる黒田さんとどこかよく似ていた。師匠と
弟子みたいだ、と思う。黒田さんの打ち方は
なんというか本物だった。どこに置けば流れ
が変わるかを、盤面をちらっと見ただけで決
めていく。「強いのを並べりゃいいってもん
じゃないんだよ。人がどう動くか」と低く笑
う。荒木町のあの路地で、毎晩人を見ている
人だから、たぶん、盤面の裏の人のほうが見
えているんだと思う。海老沢さんは全国ラン
キングのずっと上にいて、「取ったら育てる。
育てたら守る。それだけだ」と茶をすすって
いる。白石さんだけは、やらずにウーロン茶
を舐めながら、みんなが騒ぐのをあたためる
みたいに見ていた。