第7章 均さない絵
佐藤くんがBANTO3に季節を覚えさせ
た。
春が来たら、桜。夏は、涼しく。秋は、実
りの色。冬は、静けさ。トリガーとテンプレ
を決めておけば、あとは勝手に回る。六社だっ
たのがいつのまにか十社を超えていた。放置
ぎみだった古いお客さんのサイトが季節ごと
にちゃんと衣替えをする。世の中の放りっぱ
なしのホームページと比べたら、これはもう
じゅうぶん生きている部類だった。
面が回りはじめた。うまくいっている。
ただ、そのうまくいっている流れの中で、
私は一軒だけ手を止めていた。あの染めと織
りの工房。二十件の一覧のなかで、ひとつだ
け指が止まったあの一軒だ。
自動のテンプレに乗せれば楽だった。春が
来れば、この工房にも桜色の帯が届く。効率
だけを考えれば、そうすべきなのだと思う。
私の中にもその声はある。全部同じ流れで回
してしまえたら、どんなに楽だろう。
でも、それはたぶん、この一軒を殺す。
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私はその工房に行ってみた。
二代目は思っていたより若い人だった。私
とそう変わらないかもしれない。父親の跡を
継いで、まだ間もないという。作業場の壁に
反物が何本も掛かっていた。その色を見て、
私は、あ、と思った。
きれいな色ではなかった。いや、きれいな
のだけれど、私たちがふだん「きれい」と呼
ぶあの澄んだ、均された色とは違っていた。
少しくすんでいて、少しふぞろいで、でも、
そのくすみとふぞろいのなかになんともいえ
ない深さがあった。生きている色だ、と思っ
た。機械でいっぺんに染めた色には絶対に出
ない色。
「父のは」二代目はうまく言葉にできないよ
うだった。「なんかこう……今のぱっときれ
いなやつとは違うんです。うまく言えないん
ですけど。……これをなくしたくなくて」
なくしたくない。でも、どうすればいいの
かは言えない。——一年前、白石さんから聞
いたあの手触りだった。
私は分かった気がした。この人がなくした
くないのは色じゃない。色の向こうにあるお
父さんの世界の見方だ。均さないという生き
方だ。ふぞろいを、ふぞろいのまま深いと言
えるあの目だ。
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会社に戻って、私はこの一軒だけ自動のテ
ンプレを使わなかった。
VPOKEを開いて、まずはふつうに頼ん
でみた。「秋の感じにしてほしい。落ち着い
た、いい感じに」。——それが間違いだった。