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終章 空白を持たない

2026年08月05日

終章 空白を持たない

 春がまた来た。

 その春、私の十いくつかの小さなお客さん

のサイトがいっせいに季節の色に着替えた。

BANTO3が勝手に案内を出して、乗って

くれたところは桜の色に。乗らなかったあの

染物屋だけは、私が手で、その年の機の上の

色に。

 放置ぎみだった古いお客さんたちが少しず

つ息を吹き返していた。「今年も桜、ありが

とうございます」なんていう短いメールがと

きどき届く。それだけのことが思ったよりう

れしかった。切られもせず、放っておかれも

せず、年に何度か季節が届く。世の中の放りっ

ぱなしのホームページと比べたら、この人た

ちはたぶん、まだ生きているほうだ。

 その頃、会社では大きなお客さんが一つ、

いなくなっていた。

 Sの一年が終わったのだ。桜井さんは「終

わったよ、あれ」と近所の店が閉まったくら

いの口ぶりで言った。あんなに深く潜ってい

たのに。詳しいことは私には分からない。た

だ、あんなに大きかった声が一つ、オフィス

から消えて、その穴のことをみんな口には出

さなかった。

 その口に出さない穴のすみっこで、私の小

さな十いくつは相変わらず静かに回っていた。

穴を埋められるほどの大きさじゃない。でも、

大きな一本がいなくなっても、細い糸が十い

くつ、別々のところに垂れている。——それ

がどういう意味なのかを私はあえて考えない。

ただ、春の色がちゃんと届いている。それで、

いい。

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