第41章 御社、Web系でしょ
案件の資料を開いたとき、既存ベンダーの
名前のところで桜井さんが、へえ、という顔
をした。
「ここ、僕就活で受けたんですよ」少し笑っ
てそう言った。「最終まで行って落ちました」
就活で片っ端から落ちたという話は前に聞
いていた。だから私も、へえ、と思っただけ
だった。名前の大きい古い会社。介護のソフ
トを二十年、この法人に納めてきた相手だ。
請求も記録もシフトも、ぜんぶその会社のシ
ステムの中で回っている。今度のAIの話も
本当ならそこが受けるはずだった。それがど
こかでこじれて止まっている。私たちはその
隙間に呼ばれた。
「厄介な立場だね」桜井さんは資料を閉じた。
「向こうからしたら、後から来て自分たちの
城に勝手に窓を開けようとする連中だ」
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顔合わせは、法人の会議室だった。
古いビルのいちばん上の階。壁には金色の
額に入った表彰状が何枚も並んでいた。地域
の福祉功労。永年勤続。どれにも先代の理事
長の名前が入っていた。磨かれた長机の片側
に私たち。向かいに法人の人たちと既存ベン
ダーの人たちが座っていた。
法人側は二人だった。情シス部長の柏木さ
ん。五十半ばの髪をきっちり分けた慎重そう
な人。それから、二代目の東さん。まだ四十
前に見えた。先代から法人を引き継いだばか
りだとあとで聞いた。金色の額の中の名前と
同じ苗字をこの人は背負っている。疲れた目
をしていた。継いだものが思っていたよりずっ
と複雑だった——そう言いたげな顔だ。
そして長机の向こう、ベンダー側の真ん中
にPMの戸田さんがいた。五十くらい。感情
の出ない顔をした人だった。
私たちの名刺を戸田さんは指先で少しだけ
動かした。裏を見て、また表に戻す。それか
ら口を開いた。
「東京ネット工務店さん、ね」——一拍置い
た。「御社、Web系でしょ」
軽蔑ではなかった。少なくとも、そういう
形では出てこなかった。ただ、確認するよう
にそう言った。