第45章 誰が、直すの
制度の壁に頭をぶつけた翌週。今度は、人
の壁が待っていた。
AI社員にデータを読ませる。そのための
書き出し口を一つもらう。ただ、それだけの
話だった。利用者の記録のほんの一部——標
準形式で吐き出せる、当たり障りのないとこ
ろだけ。書き込みはしない。請求の心臓には
指一本触れない。技術的には、なんの問題も
なかった。三十分で繋がる。
その口を握っているのが、既存ベンダーの
戸田さんだった。
会議は法人の会議室でまた開かれた。金色
の額の下。長机の向こうに、戸田さん。柏木
さんは少し離れた席で腕を組んで、こちらと
あちらを静かに見比べていた。東さんはいな
かった。
戸田さんは首を縦に振らなかった。
「セキュリティが」と最初は言った。標準形
式の読み取り専用の口です、と私が説明する
と、今度は「責任の所在が」と言った。事故
が起きても切り分けは閉じます、と桜井さん
が言うと、「前例がないもので」と言った。
理由は次々に形を変えた。手元の分厚いファ
イルに目を落としながら、時々、柏木さんの
顔色をうかがいながら。
私はその一つ一つに、頭の中でもう反論を
並べていた。読み取り専用に、セキュリティ
も何もない。責任は疎結合のこちら側で閉じ
ている。前例なら作ればいい。——口を開き
かけた。焼け石に水だと思っていたはずの頭
が、こういうときだけは、勝手に速く回る。
「あのね」
戸田さんがふっと息を吐いた。それまでの
営業用の角の取れた言葉が、少しだけ剥がれ
た。
「動くのは分かりますよ。今は。よくできて
る。……でもね。お宅らがいなくなったら。
これ誰が直すんですか」
私の中で、何かが止まった。