第46章 一本の、糸
介護のことばかり書いているようだけど。
この会社は介護だけをやっているわけじゃな
かった。
私が法人の記録に頭のてっぺんまで浸かっ
ていた頃。壁に次々ぶつかって、焼け石に水
だとうつむいていた頃。その私の背中の向こ
うで、狭いオフィスはいつも通り、たくさん
の小さな仕事を回していた。工務店のサイト。
整骨院の予約フォーム。小さな飲食店の注文
ページ。名前も知らないたくさんの客の、た
くさんの細い糸。その一本一本でこの八人の
会社の飯が立っていた。
ある午後だった。
「うわ、まずい」
田中くんの声がいつものちゃらついたのと
違った。芯のところが固くなっていた。私は
介護の画面から顔を上げた。
「どうした」桜井さんがもう席を立っている。
「M工務店さんのサイト。問い合わせフォー
ム、送信できなくなってます。朝から一件も
来てないって。……今電話が」
M工務店は本物の工務店だった。ネットの、
じゃない。木を刻んで、柱を立てて、本当に
人の住む家を建てる。うちみたいに、東京ネッ
ト工務店なんて名乗って、建てるのは画面の
中の入り口だけという会社とはわけが違う。
あの人たちの現場には埃と、木の匂いと、重
たい機械があって、そこで交わした一言が家
一軒の値段になる。