第47章 教わる側
その日の夕方だった。
田中くんが菓子折りを提げて、まだ帰って
こない頃。ハルカさんが「リナさん、これ知っ
てます?」と自分の画面をくるっとこっちへ
向けた。
VPOKEという名前だけは聞いていた。
私がまだ一年目だった頃、海老沢さんが自分
で作って細々と育てはじめていたうちの縦糸。
それが私のいない一年のあいだに、この会社
にすっかり根を張ったものらしい。名前は知っ
ていたけれど、実際に何をするものなのかは
見たことがなかった。
ハルカさんはさっき田中くんが直したばか
りのM工務店のサイトを開いた。トップのキャ
ンペーンの帯。赤い、太い、少し古くさい色
の帯だ。ハルカさんはその帯を指でつついた。
そして——コードを書かなかった。
代わりに、そのツールに話しかけた。
「この赤、もうちょっと渋くして。あと、こ
の文字、一回り大きく」
画面の帯の色がすっと深い、落ち着いた赤
に変わった。文字が少し大きくなった。家を
建てる工務店の、看板にふさわしい、重みの
ある赤に。ハルカさんはHTMLのどのファ
イルのどの行を触ればいいのかを一度も開い
ていなかった。見てすらいなかった。ただ、
目で見て、口で言って、直していた。
「……これ」私は少し言葉を失った。「ハル
カさんが一人でやってるんですか。これ」