第48章 なんか
現場にはあれから何日も通った。
数字だけで殴っても、柏木さんにも、東さ
んにも届かない。それが分かってからだ。自
分の設計がなぜあの人たちの問いに一文字も
掠らなかったのか。その答えはたぶん、この
リノリウムの廊下のどこかに落ちている。そ
う思って、水島さんという主任の職員さんの
後ろをついて歩かせてもらった。
——けれど、正直に書いておく。半分は建
前だった。本当のところ、私はまだ現場を少
しなめていた。効率化できる無駄がそこら中
に落ちているはずだ、と。ベテランの勘とか、
長年の経験とか、そういう言葉にできないも
のの正体は、たぶんまだ誰もうまくデータに
していないだけの特徴量の塊だ。そう思って
いた。
昼前のことだった。
水島さんが廊下の途中でふっと足を止めた。
共用スペースの窓際の椅子。いつもそこに座っ
ている町田さんというおじいさんを、少しの
あいだ見た。それから、近くにいた若い職員
さんに小声で言った。
「町田さん、今日トイレ早めに誘導して。あ
と、午後、目、離さないでね」
私にはその町田さんが、朝と何も変わって
見えなかった。