第49章 どうでもいい話
見守りセンサーの閾値の調整に田中くんを
連れていくことになった。
正直、気が重かった。現場は緊張する場所
だ。ご高齢の利用者さんがいて、真剣な職員
さんがいて、静かな廊下に、誤嚥や転倒の気
配がいつもうっすら漂っている。そこに、こ
の常に半笑いの男を放つのは。——なんだか
事故のような気がした。
道中もそうだった。「介護施設ってなんか
こうしんみりしてるんすかね。俺、ああいう
とこ苦手なんすよ。何喋っていいかわかんな
くて」。電車の中で、失礼なことばかり言っ
ている。着いたら、まず釘を刺しておこうと
私は思った。喋る前に、一言、静かにしてろ、
と。
刺す前に、着いてしまった。
そして、田中くんは施設に入って三十秒で
いなくなった。
探したら、共用スペースにいた。窓際の椅
子。——昨日、水島さんが「今日は目を離さ
ないで」と言っていたあの町田さんの隣に。
しゃがみ込んで、下から覗き込むみたいにし
て喋っていた。
「え、まじすか。町田さん、若い頃トラック
乗ってたんすか。長距離? やば、かっこい
いっすね。どの辺走ってたんすか」
町田さんが喋っていた。