第51章 それ、いる?
締め切りの前の晩は、たいてい佐藤くんと
二人だった。
ハルカさんは定時できっちり帰る。田中く
んは「あとやっときまーす」と口だけ残して、
たいてい先に消える。桜井さんはたまに残る
けれど、残ると必ず誰かの相談に捕まってい
る。だから、最後まで黙って手を動かしてい
るのは、いつも私と佐藤くんだった。
会話はほとんどない。
佐藤くんは、イヤホンを両耳に押し込んだ
まま黙って書く。私も黙って書く。要る言葉
だけがたまに飛ぶ。「そこ共通化した」「う
ん」。それで、終わり。挨拶も、相槌も、世
間話も、この人は最低限しか使わない。要ら
ない言葉を一つも使わない人だ。——私が一
文字も無駄にしたくないのと、たぶん同じ温
度で、この人は言葉を惜しむ。だから、楽だっ
た。この会社でいちばん気が合うのは、たぶ
んこの人だと初めて会った日から思っていた。
その夜、私は家族対応の通知の分岐を、凝
りに凝って組んでいた。