第52章 みんなで行きましょう
夕方になると、田中くんはたいてい誰かを
どこかへ誘っている。
その誘い方には屈託というものがなかった。
壁がない。相手が身構える前に、ふっと懐に
入ってくる。とりあえず褒めて、気持ちに寄
り添って、それを頭で考えるより先に体でやっ
てしまう。私みたいに、相手の出方を三手先
まで読んでからようやく口を開く人間には、
少しだけまぶしい種類の軽さだった。
「ハルカさん、今日飲み行きません?」
「いいですねえ」ハルカさんがにこにこして
言った。「みんなで行きましょう」
「うわー、また来たー」田中くんが大げさに
のけぞった。「ハルカさんのそれ! 誘うと
絶対"みんなで行きましょう"。完全にテン
プレ回答じゃないっすか」