第55章 両方だよ
パイロットはたぶん、続く。
佐野さんのあの日のあとも、家族対応の数
字は落ちなかった。皮肉なくらい順調だった。
一次解決率も、削減時間も、きれいなグラフ
のまま右肩上がりで伸びていった。——でも、
私はもうその数字を信じていなかった。八割
のその八割が何を解決したことになっている
のか。分からなくなった数字をどう信じれば
いいのか、分からなかった。
夜、誰もいなくなった事務室で私は画面を
閉じられずにいた。
考えれば考えるほど出口がなかった。
介護報酬は国が決める。公定価格だ。どん
なに効率化しても、売上には一円も返らない。
だから人は増やせない。増やせないから、現
場は削れる。削れるから、辞める。辞めるか
ら、また削れる。——そして、高齢者はこれ
から増えつづける。需要が増えるほど、この
船は沈んでいく。バグじゃなかった。仕様だっ
た。誰かが間違えたんじゃなくて、最初から
そう設計されている。
変えられるとしたら政治だけだ。でも、票
にはならない。誰も選挙で介護の話なんてし
ない。次の改定も、そのまた次も、きっとだ
ましだまし。私がここでどんなにきれいなも
のを作ろうと、船は沈む。
その沈む船の中で、私は一人の娘さんから
母の安否を握る時間を奪った。最適解。——
笑える、と思った。
「まだいたの」