第60章 うれしいから
AI社員の言葉づかいを、私は一つずつ見
直していた。
電話には人が出るようになった。でも、A
Iの仕事がなくなったわけじゃない。家族向
けのアプリにその日の様子を短く書いて届け
る。面会の予定。持ち物のお知らせ。——わ
ざわざ電話にするほどでもないこまごました
文字の通知は、まだAIが受け持っていた。
どれも正確なのに、冷たかった。
「ご様子に変わりはございません」
間違ってはいない。事実、その通りなんだ
から。でも、これをスマホの画面越しに仕事
の合間に読む家族のことを思うと、何かが足
りなかった。決定的に。何が足りないのか、
私には分からなかった。——分からないとい
うことが悔しかった。あんなに設計は直せた
のに。言葉の、たった数文字が直せなかった。
「リナさん。それちょっと見せてください」
ハルカさんが後ろから覗き込んでいた。
私は少し身構えた。この人に、この設計の
何が分かるんだろう。——たぶん、そう思っ
た。恥ずかしい話だ。VPOKEを教わって
おいて。教わる側になるのは悪くない、なん
て思っておいて。肝心なところで、私はまだ
この人をどこかで見くびっていた。
ハルカさんは私の書いた文をしばらく読ん
で、それから一箇所だけ直した。