第63章 帰る道
介護の案件は、ひとまず一段落した。
うまくいったとは、たぶん言わない。戸田
さんとは最後まで分かり合えなかった。制度
は一ミリも動いていない。船はたぶん、今も
ゆっくり沈んでいる。私が作り直したものは
前より遅くて、数字もうんと地味だ。——そ
れでも、あの法人のAI社員は今日も静かに
動いている。夜勤の今井さんが町田さんの隣
に座れる時間が、ほんの少しだけ増えた。奥
の部屋の手を握れる時間が、ほんの少しだけ。
それくらいの勝ちだった。全部は救えない。
船は沈む。でも、今日この一分は拾えた。—
—東さんに教わった勝ち方だった。
朝が来て、私はまたあの狭いオフィスの建
て付けの悪いドアを開ける。