第67章 出血を止める
受けるかどうか、いまここでは決められな
い。
新人の頃、白石さんによく言われた。「答
えを先に出すな」。客の話を半分聞いた時点
で、もう頭の中で設計を書きはじめる僕を、
白石さんはいつもそこで止めた。決めるのは
中を見てからでいい、と。相手の困り方の形
だけを見て、こうすれば直る、と言い当てる
のは、当たっているときほど危ない。——た
ぶん、いまがその時だった。田辺さんの疲れ
た顔と、頭の下げ方。それだけで「受けます」
と答えるのは、白石さんに教わったことのちょ
うど逆になる。
でも、決めないことと何もしないことは違
う。
「田辺さん。受けるかどうかはいま決められ
ません。中を見てからです」
田辺さんの顔が少し曇った。せっかく頭を
下げに来たのに、と思ったのかもしれない。
「ただ」と僕は続けた。「一つだけ決めるよ
り先の話があります。——いま御社のシステ
ムは燃えてる。客先に迷惑がかかってる。そ
れはうちが受ける受けないの手前の話です。
出血を止めるところはすぐやります。そこは
決断とは関係ない」